五円玉と五十円玉
出来のいい兄弟みたいに
二つ揃って穴のある
可愛らしい小銭の
五円玉と五十円玉
どっちが兄ちゃんだろうね
そりゃぁ、五十円玉が兄様だろね
五十円玉一つでいい ....
変わり身
噂とは変化した時間によって流れる
人が何年もかけて変わっていくものは
案外人には分からぬものだけど
ときおりそれを見抜く人がいて
やがて噂にならなくても誰もが気づく
真っ ....
死にたいという衝動が一日中私につきまとう
死が人々の中でたらい回しにあっているのか
私が死の中でたらい回しにあっているのか
でも、死にたいと思うたび、私は私に立ち止まる
死を望むに ....
送別会と反省会と忘年会
自分の名前を忘れてしまったと桜がつぶやく夜
街灯のしたを風が低く吹き抜けていく
落とし物のように。
花を忘れてしまったとつぶやいている女が
そこにた ....
上水道網が日本全国を網羅した昭和50年
それからわたし達は幼稚児のように庭で
じゃあじゃあと水を浴び、
じゃあじゃあと水をかけあい
じゃあじゃあと水を飲み
はしゃいでいる。は ....
言葉は
人を幸福にもし
人を傷つけもします
たったそれだけの
かんたんな文法です
詩は
幸福、不幸、そのどちらか
ひとつではなりたちません
両方そろって、は ....
あれはもとはケヤキの大木だろうか
月明かりの下、公園のフェンスのわきに
大きな切り株があるのをわたしは見た
雨も降らずにいたものをと、ずいぶん月あかりに光るのを不思 ....
チェルノブイリの廃屋を棲み家としているウサギコウモリは
汚染された虫を食べ続けたため
今日もキラキラと放射線をはなって飛んでいく
立ち入り禁止区域の放置された井戸から自然のサイクルは断ち ....
春の野が眩しい訳をおしえてあげようと
詩人がわたしを野に手招く5月
青い空 白い風 豊かな瞳のような草花
春を思うがまま口ずさむわたしに、詩人はウインクひとつくれて、一 ....
どんなに痛いことだろう
わたしにすらこの街は、こんなにも冷たいのに
ましてやお前は、その土に、身を突き刺しているのだから
身を万力で締め付けられて、どこにも逃げられぬお前に ....
津軽の雪は 太宰の雪だ
無尽にふる、そのひとつ、ひとつに
太宰の言葉が刻まれ
わたしの目の、心の、そのおくに、真っすぐにふり落ちる
「生まれて、すみません」
....
真っ赤な夕焼けに羽虫とぶ春のある日、母が泣いていた。父が昼前に家を出ていってから、ずっと押し入れに顔を突っ伏して声を殺して泣いていたのだ。わたしはそれを幼稚園からひとり帰り、見ていた。
そ ....
茨の芽、今日、若すぎる者たちが撒き散らす劇画チックな血
茨の芽、昨日、年嵩の者たちが演じた痛みのわかりやすさ
春、触れよと誘う
茨の芽、千差万別の宿命に満ちながら春に生まれる ....
ふるさとの町から井戸水をくむ音がなくなって久しい
町にはじめから祭りなどなかったのだ
特に冬には。駅前の小路にも?
ふるさとの町から冬支度がなくなって久しい
町にはは ....
いつも僕と逆方向に風は吹く
来た道はもう違う名を名乗っている
立ち止まったその足で不意に僕は気付いた
僕と道を違えるものたちが
風を起こしているのだと。
今、ぼくは ....
盂蘭盆会
大きな篝火 お寺の境内照らします
小さな迎え火 辻のうらうら灯します
あれは送り火、 花火が散ります。遊ぶ子らの指の先
真昼の流し踊りの賑わいに子供たちはお囃 ....
散歩
子供は誰かとあるくのが好き
たえずおかぁちゃま
たえずおとうちゃま
おとうちゃまのなかのよい和さんは
かずにいちゃま
抱きつきたいの
走り ....
虫かごがなかったので
捕まえた一匹の蜩を
膝の中でかいだしたのは二日前
膝の構造のなにがよかったのか
膝の中で蜩は、よくないたのだった
スタバでコ−ヒ ....
月曜日の朝
朝 、()の中に月を入れるの
まるでポケットに詩集を入れるみたいにね
いつだったか 、重いポケットが
心を軽くしてくれたことがなかったかしら
え ....
初秋
波打ち際 生まれたての姿のような
素肌を海がさらしている
その波打ち際を
インク瓶に入れて持ち帰りたいけれど
海に波打ち際がなくなったなら
空となんにも変 ....
海のある町 そこに港はひろがり鉄の船がわきでる
川のある町 そこに田畑がひろがり豊かな実りがわきでる
山のある町 そこに道ができ巨大な木がわきでる
人のいる町では鉄とい ....
街角で珈琲お嗜みのご婦人は
泥を飲んでる人生の行き詰まり
愛を飲むもの涙も飲んで
嘘をつくもの笑いを飲み込む
紳士は何を飲み込むために酒を飲んでることだろう
....
心も体もボロボロになったら
遠慮なく命ごと私を棄ててね神様
なんて出鱈目鱈目の嘘ぱち
私が全然潔くないのはいつものこと
お生憎様、気丈でもないの
私は弱くてみっともないわ
人はボロ ....
よく見ればそれは
青く光るホタルイカ
ほの字 ほの字 ほのイカ字
逆さにするとトテモ
恥ずかしい
ひらがなの群れ
よくよく見ればそれは
アリの群 ....
ねむる ねむる
水槽のなか
金魚のウロコを夢にみながら
ねむる ねむる
私のなかに誰かが水をはっている
気化熱の実験ですか?
夢のなか 夢のなか
....
鉄線の咲く道
麦藁帽子のむこうで
蝉が鳴いてるから
私は木陰でコクト一を読む
子供達の笑い声と
恐るぺき子供達の笑い声
私の休日に
夏と冬が過ぎていく
ああ、喉が渇いた
湯呑みに水を汲んでこよ
蛇口を捻ると
冷えきった真冬の水が
遠くから来た旅人のように
トングラトングラ
と流れ出し
トングラト ....
上を向いて歩こうと
永六輔が詩を書いていた頃
人はみんな、ひとりぼっちだった
今も、自分がたったひとりぼっちだと知る者が、見上げるのは空だ
ひとりぼっちよ、空は青いか、 ....
三面鏡が浴びたのは女の末期
ティッシュが火ぶくれ
肌に青いミミズの這い回る
鉛の紅の差しかけに
口から毒のあぶくのあふれだす
はりつめ尽きる瞬間に
女は子午線を ....
長雨が続いたあと、街は三日ほど好天に恵まれた。一昔前のように、誰かの車のエンジンが雨にやられたという話もないものだから、修理屋の親父は手持ちのポンコツのラジオをつけては、そのヘタレたスピーカーの音 ....
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