晩夏
月形半分子



虫かごがなかったので

捕まえた一匹の蜩を

膝の中でかいだしたのは二日前

膝の構造のなにがよかったのか

膝の中で蜩は、よくないたのだった

スタバでコ−ヒ−を飲んでいるときも

ス− パ− で買い物をしているときも

帰り道、子が叫んだ

あ、抜け殻だ!と

夏の間に膝の位置が少し高くなったろうか

日焼けして園児らしい細い首をして

我慢できる自分も

できない自分もゆるせない感情に

麦わら帽子をかぶせて

お前の夏休みはまだ終わらない

抜け殻は初夏のもの

それは晩夏、晩夏は

蝉の死骸のふりをして雨を待っている



お前の膝裏はよくくぼんでいる

足の甲もヨットの帆のように高い

そうしてお前をどこにでも運んでくれる

ものたちが美しいうちは

お前は好きなだけ虫かごが持てるだろう

息子よ

膝の中で蜩がまたなきだした

通行人たちは空を

不思議そうに見上げる


自由詩 晩夏 Copyright 月形半分子 2014-08-17 20:03:24
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