すべてのおすすめ
床をみがいて
部屋じゅうに火をうめる
相変わらず窓べに立って
術なくそとを見つめる
知らないひとの背中が
つぎつぎと消えてゆき
今日も今日が終わるね、
と言うと
終わる ....
生きのびるための愛なら
いらない
いらない
絶望を孕まない幸福なんて
いらない
あれも
それも
いらないよ
夜を裏切らない朝も
朝を待ち侘びない夜も
いらない
....
わたしがわたしに出会う前
わたしは静かに息をして
あなたの世界の音を待つ
あなたの影が煮詰まって
匂いたつ夜をひと匙掬い
かわいた瓶に蓋をする
あなたは馬鹿な鮭みたく
わ ....
ほんとうにさまざまな椅子があります。家具屋
わたしはひとつに腰掛けて
にっこり笑う。おそれる
広いまどには一羽ずつ天使が張りついて季節を監視しているので
おそれる。
とるにたらないこ ....
きょうは街が
青く繁っている
角じゅうに発生する
感情を食べているので
三時になったら
たばこ屋の角を曲がる
ひとつの体を
なんとか動かそう
雨がふっても
きっと曲がろう
....
磨いた床に
シンナーをこぼして
ここには
奇跡があふれかえっている
乾いた緑と肌
鏡を抱いたままの昨日
誰かを愛していた
ということはつねに
それが終わってからわかる
泣きやんで ....
火のない部屋のなかに
あなたをさがしている
茶色く終わった時間がころがっている
あの日
海には
六羽の白いからすが
まるく座っていたそうだ
傷口は凍るので
わたしたちはまだ ....
グラスのふち いちばん
ぎりぎりのところに
つかまって
あなたが落ちれば
わたしも落ちる
わたしが落ちれば
あなたも
でもべつべつの
ところに
こぼれおちたさきで
明日 ....
昼間、つめたい雨がすこし降っていた。音もしないでしずかに、「長く」というかんじで降ってくる雨。
母親になった友人と、これから母親になる友人と、母親になる予定のない友人とわたしとで会った。生ま ....
ふくらみの去ったあとに
なぜつめたさが残るのだろう
もともと無いものばかりもとめる
いつも見つめるたびにこぼれる
気持ちになまえをつけるのはやめて
指をあらって
木を植える
....
あなたに会いたいと思うことと
あなたを好きだと思うことが
同じことなのかどうかもうわからない
寒さと暑さが
痛さと快感が
朝と夜が
どう違うのかもうよくわからない
わかりたい ....
あなたの顔に
穴が一粒
紐を通してくれと
言うが
どれだけ手繰り寄せても
紐のはじまりが
やって来ない
うつくしいのは
なぜだろう
横顔 曇天 カップの重み
うつくしいのは
なぜだろう
深緑色 かわいい恐怖
ふるえて立ってる電信柱
うつくしいのはなぜだろう
死なないも ....
文字では
なにも言い表せられないし
音では
踊らせることはできないし
絵筆と色では
なにも
描くことができない
あなたが
どれだけわたしに近づいても
あなたに
触ることもで ....
安いワインに合うつまみばかりくわしい男のひとのことを好きだった。朝といっても良いくらいの深夜にいつもちがう場所でお酒を飲みながら、ぽつりとそういうことをつぶやくので一度など缶詰と大きなライターをコ ....
耳が痛い
と
あなたが言うので
のぞきこんだ
産毛に抱かれるように
あなたの
恋人からの言葉がひかっている
それを持ち帰り
窓辺においてやると
いよいよ優しげにひかってい ....
愛していると言うことと
愛していると思うことは
まったくちがうわね
窓際に立ち
君はうたう
愛していると囁かれることと
愛されていると感じることは
日没、空あかく
....
季節が
ずい分かわってしまって
空はかなしい
部屋のなかには
あなたにあげられなかったものばかり
散らばって
真ん中に
あなたのかたちの不在がのこる
扉のむこうはひかっ ....
友人からのながい電話を受けていると、耳もとで言葉がばら、ばら、と雑音のように崩れていく。夜。夫は仕事のあとに飲み会があると連絡をくれた。冷めてしまったスープ、かたくなったパン。きのうやっと出してきた、 ....
ちいさながじゅまるの鉢植えを夫が買ってくれた。土曜日、駅のよこにある小さな、閉店間ぎわの花屋で。つめたくて、青い、「2」という数字がかたどられた陶器に入っている。
植物の方が、動物よりもなじ ....
くちの中が腫れて
ぎゅっと膿をしぼる
吐きだしていまいましいものは
いつもいつも私自身だったものだ
欠けている月をみれば
前髪が伸びたあなたを思いだす
あと何日かすれば
あなたの笑うのとおんなし角度に月がわらう
あんなに
やさしげではなかったけど
このまま朝も夜もなく愛し合って死なない?世界じゅうの時計の針を盗んでしまわない?ねえ大事な話をしているのにスープにラムを入れるのはやめてくれない?靴下が左右違うんじゃない?些細な問題にとらわれすぎなん ....
いるのは
さよなら
だけだったね
人だらけのまちで
風が倒れるのを
ひたすらにまっていた
そして
ようやく出あった
ふたりに
のこっているのはもう
さよならだけだったね
....
雨がふるので
膝を立てて
まがった指で
生理用品をつけかえる
角に立っている男たちが花売りを罵倒している
走り抜ける街の多さ
どれだけ降っても
給水塔はふやけない
雨が ....
人を
ただしい場面で
ただしい順序で
ただしい角度に
揺すると
泣く
そのただしさを
習得することを
愛とか技とか
呼ぶ人びとを
軽蔑し
憎んでいるわたしも
ただしい角 ....
可愛かった君が
台風になったと聞いて
かなしかった
あんなに可愛かった君が
なに食わぬ顔で
意味や 時間を
張り飛ばしていく
むかし
一緒にうたっていた歌を
はぐれた風に ....
毎晩
息をふきかえす恋情の手をにぎって
墓場へつれていく
そうして
同じようにして来たあなたと
抱き合ってから
墓を掘り返し
うめる
ねむる人から
わずかに死がにおっている
うなじにくちびるをつけ
愛してやると
その背中に
にじむように命が動いている
ねむる人よ
安らかに
いまは死のふちをなぞっておいで
しかたなく押したボタンの副作用 瀕死のコイの心臓波うつ
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15