「どうだいこれ、すごいだろう?」
そう言ってスヌ夫が自慢げに取り出したのは、とても立派な双眼鏡だった。
「テストで100点取ったごほうびに、パパが買ってくれたのさ」
「わぁースゴイねえ! 見せ ....
名残の冬を集めて
風がつくった
春待ち味の
ロールケーキはいかが?
にこにこしていると
ときどきとっても疲れる
笑っていると
体にいいなんて嘘だ
体に悪いことしたければ
ずっとにこにこしていればいい
天使の笑顔で毎日周囲に幸福を振りまけばいい
日々感謝の ....
この世界は
飴細工みたいだ
はらはらと降りかけた
粉砂糖の重みに
時々 クシャッて
潰れてしまう
なめたら
儚くとろけて
確かに
甘い
悲しいところ
もしも願いが叶うなら
風のカナリアになりましょう
綺麗と誉れる籠を出て
道なき森を羽ばたいて
君の行方を輝かす
名もなき唄になりましょう
家を飛び出し幻の
故郷求めてがむ ....
夭折
{引用=まだ生きているのか
そんな声が聞こえるのは
夜の 穏やかな枕の中だ
まだ生きている
時代を通過して
場所を通り越して
まだ何とか 生きているのだが
もう生きて ....
一月前
長い間認知症デイサービスに通っていた
雷造さんが88歳で天に召された
だんだん体が動かなくなり
だんだん独り暗い部屋に置かれる時間が多くなり
ある日ベッドで瞳を閉じて横 ....
たかがでは済まされない地平線に
ひとり佇み
夢は夢のままで
あるべきことを求められ
目覚めのときは何時も
偶然を装っては
ありのままの姿を
目の前に突きつけてくる
くる ....
光と暗黒の中間点には
雨の差し込む隙間もない
密閉された空間があって
そこから
たった一本の セイタカアワダチソウが
吹いてもいない風に
反応、それを折り取ろうとしている
いっぽんの 手 ....
春を待ちきれず
同棲を始めたと喜んでいた貴女は
近頃、思い悩んで
すっかり痩せてしまっていたという
(僕が、よう怒れへんかったからかなぁ
お父さん、つぶやいて
肩を震わせる
一週間前 ....
枯れ葉を踏みしめていく
君の背のように湿った、足取りで
雪はまだ時間を閉ざそうと
道端で爪を研いでいる
忘れようと辿り着いたのに
捨て去るなと
朽ちかけた木橋が
つららを流す渓流で
....
(割れ落ちた心の軋みより流れ出す)
せせらぎの音に我身を任せ
消え入りそうな意識の果てに
あなたの額より滴る汗の熱さを慕う
さよならってどこまでも悲しいのね
狂おしさは許されぬ愛 ....
箱入り娘に関する一連の推論は、世界という
もうひと回り大きな箱に対する裏切りのひと
つであり、それを論じる者たちは、それを奪
おうとする者たちと同じく、等しく同じ罰を
受けなければならない。箱 ....
ドレミのドの
点々は
うまれたての涙です
ソラをめざして
シにかえる
はじまりとおわりの
涙です
世界がスッと聞き耳を立てるから
私は黒猫になって逃げる
トレモロしはじめる胸の高鳴りと
アスファルトを飛び跳ねる
肉球のリズムが重なって
不思議な旋律を描くから
誰にも本音を ....
私は足場の固まった
真新しいベランダに立っている
腐りかけた古い木の板を{ルビ軋=きし}ませて立っていた時
私は世界の姿をありのままに{ルビ見渡=みわた}すことができなかった
今 ....
「わたしたちのからだ ここに入るのね
その言葉は 墓前に供えた白い花より麗しく
遠くに 在るもの いつか 訪れる
その日を見据えては 永久 に さすらい
「わたしたちの心 あの雲に ....
長かった戦争も終わり
とばっちりをくった君の街でも
ようやくガス管の再整備が終わったらしいと
遠くの街のテレビから流れる異国の言葉を耳にして
何故涙を流しているのか
自分でもよくわからない
....
高らかなファンファーレ!
はんぺんは白い
はんぺんはふわふわ
はんぺんはおいしい
男も大好き
女も大好き
そんなはんぺん
もしもはんぺんが座布団だったら
失恋した時には抱いて寝て
お ....
愛の幽霊は見えないので
誰にも信じてもらえません
愛の幽霊はほんとうはいません
だから誰も信じません
愛の幽霊がいるということを
証明したくともできません
ほんとうはいないからです
でも ....
傷ついているなら
はっきりと痛んでよ
何も起こらなかったように
すましたままで
密かに終局へなんて向かわないでよ
泣いたらいいのかどうかさえ
わからないじゃない
男は速度を
なくした
それは
止まる
ことだった
男は欲した
口に言葉
手に文字
そして
生きた
自治区
と呼ばれる
区域の
辺境の村で
男が再び速度を
手に入れたと ....
プラットホームの青いベンチの背もたれには
落書きをこすり消したような跡があります
飴玉を失くした包み紙には
ミルクという文字があります
先頭車両の風に振り返るも、風ばかり
最 ....
バターロールはしっとり系が好き
工場メイドが好き
ぱくぱく
ぱくぱく
食べていると
脂肪が体中に
行き渡るようだ
春の雪の中
上を向いて
バターロールを食べよう
あなたが来たら
....
あなたの傷を数えてあげる
あなたの傷を数えてあげる
いつ傷つけられた
どこで傷つけられた
誰に傷つけられた
あなたの傷を数えてあげる
同じだから
なんとなくわかるよ
....
ふと気がついたら
わきの下にゼニゴケが生えていた
不快だけど放っておいた
ゼニゴケにだって生きる権利があるはずだ
そう思って耐えようとした
すると何日かして
あごの下にも
乳房の下にも
....
身に覚えのないことで
なぜか{ルビ矛先=ほこさき}はこちらに向いて
誰かの荷物を背負う夜
自らの影を路面に引きずりながら
へなへなと歩いていると
影に一つの石ころが浮かぶ
理不尽 ....
高原行きの{ルビ汽車=ディーゼル}を待つ間
プラットホームの先っぽで
二人は駅弁を食べるんだ
二段になった折り詰めの
おしゃれな駅弁を
うれしそうに開けるんだ
中央アルプスの山嶺に ....
風車が
巨きな時計のようだ
三つの針を吹雪にまかせて
早回しで、ゆっくりとまわる
うなっているのは
雪を孕んで吹く北風
だろうか
誘導電流を生み出すコイルの声
それとも
ただの ....
書けなかった詩の断片が
ちぎれた草になって
風に舞っている
いのちは永すぎる未完
死してなお
始まりにさえたどりつけない 未完
私の夜はいつもと同じ旋律を
内側の街路にまきち ....
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