雨が降ってくると
金沢を思い出します。
金沢は年間六十日しか
晴れの日がありません。
大体曇りか雨です。
空はいつも
ブルーグレイの薄雲がかかっています。
雲のない ....
あこがれは一番星の良きひかり
いかにはかなく夜が来ようと
人は行くランボオの詩を胸にだき
人いきれへと振り返りもせず
鳥は飛ぶただ啼きながらひたすらに
....
いくつかの橋が
思い出せないでいる
名前を覚えなかった川の
こちらとあちらを
思い出せないかたちで
きっといまもつないでいる
完全なものが美しいと
君は言うけれど
不完全なものは
....
見渡せば、{ルビ紅=あか}のパノラマ
岩肌の背を辿り
風紋の営みに耳を澄ませば
褐色の陰影、陽炎の揺らぎ
彷徨えば、蒼のカルデラ
火照った靴を脱ぎ
静寂の層流に{ルビ踝=くるぶし}を垂 ....
どんなに難しい本を読んでいたとしても
喜怒哀楽
たった4文字に人のこころは捕われて
(それってほんとだよ
いつになったら大人になれるのかな
つまらないことに腹を立て
投げつけたことばの痛み ....
風が吹いている
この胸をくすぐるように
どこか時の蒼い彼方から
やわらかなレースのカーテンを抜けて
あなたは夜へと駆け出してゆく
裸のつま先で踊るピエレット
夜露に濡れた草を踏みしめて
....
目の前をみつめると
十字架は橋となり
わたしの明日へと架かっていた
振り返ると
両腕を広げたまま
横たわる人の体の上を
気づかぬうちに踏みながら
産声を上げた日から今日ま ....
{ルビ掌=てのひら}にのせた
{ルビ一片=ひとひら}の恋の花
千切って夜風に放つ
そうして青年は
破れた心のままに
深夜の断崖の上に立つ
目の前には{ルビ只=ただ}
....
放射冷却の夜に
ひとりでいると
冷えすぎて困る
ふたりでいると
せますぎて困る
自転車操業の夜
瓦版を刷ったと
横町のご隠居が
素っ頓狂な声を
壁に貼っている
下手な声も貼る
....
上を向いて歩こう
涙がこぼれないように
というので
上を向いて歩いてみたけど
涙はこぼれおちるじゃないか
ちくしょうめ、
下を向いて歩こうよ
コンクリートは
私の泣き顔 ....
真新しいランプで
秋の波を
どこまで照らせるだろうかと
また、
鳴き砂の浜辺で
波泡のざわめく
境界線を見つめている
小さな音を立てるのは
そこに居たという証で
胸の奥に
忘れ ....
あなたの「ごめん」は
伝わってるのに
言い争って
拗ねているから
肩に置かれた手さえ
払いのけてしまう
嫌いになんか
なれないくせに
抱きしめられるのを
拒んでしまう
本当に
....
緩やかな曲率で
道は行き止まりまで続いていた
そこより遠い場所を
知らなかったので
墓標はその岬に、と決めていた
漁火の整列する底には
冷たい海流があって
行き止まりの
もっと向こ ....
あの頃あたしは
モンパルナスの小さなアパートで
クローディアと一緒に暮らしていた。
暮らしていた、と言っても、三ヶ月くらいの間だったけど。
その小さなアパートには、
クローデ ....
どうして兄弟でもない男の人と
いっしょに暮らさなければならないのか
結婚前に、たずねた
そういう決まりになっているんだ
と 彼氏は言った
あんまりあっさりと言うので
笑ってしま ....
ただ 届けたかったものが届かない
けれど 届けたことだけ 思い出して
いつか私は 暖かいものがあったと
眼しかつむるものがないこと
瞑る眼が それでもあることに
感謝して
数は ど ....
夜の長い季節がめぐって
今年もまた
潤んだ果実の薄皮が
あなたの細い指先ではじけて
枯色の穂の律動
その春のようなくちびるに
すべり込むのです
かわききった大地で
....
壁に{ルビ掛=か}けられた
一枚の絵の中の蒼い部屋で
涙を流すひとりの女
窓からそそがれる
黄昏の陽射しにうつむいて
耳を澄ましている
姿の無い誰かが
そっと語り ....
愛は無償で尊いもの
疑いは黒く重たいもの
憎しみは根を張り縛るもの
安らぎは人との関わりに不可欠のもの
生きるとは力強くあ ....
もう
会う機会があっても
多分 何もしゃべれない
なのに
会いたい会いたいって書く
好きだ好きだって書く
ほんとは
なにひとつ解決しようなんて
思ってない
ほんとうのこと ....
草のしないだ後が 私の靴後
手の中にある と思うものだけ
鍵だから いつまでも開かない
ふさぐ風だけ 私を知ってる
つぶれない 心の輪 とじない宇宙
弾く ひくく
触れさせ ....
輝くものはいつも
はるか遠くに置かれる
届かないとわかっていても
暗闇の中で
求めてしまう
温もりのない光とわかっていても
そこで燃えているものを知っている
そして永遠を誓ったりする ....
朝、いつもの時間に家を出る。
母さんの作ってくれたお弁当と、いれてくれた水筒。
いつもの電車で、持っていた文庫本を読む。
会社について、制服に着替える。
たかだか30分だけのために ....
残された わたしは
息をしなければならないと
ごぶごぶと
両腕で水をかきわけながら
溺レル
月も星もない
光なき空の下
コールタールのように
生き物の棲まない
真っ黒い海がうねる ....
まどろんだまま
深く吸った息で
体中に雨が透る
窓辺においた手紙が
濡れているのは雨のせい
滲んだ青いインクの
消えかけた名前を呼んで
雨の一粒一粒が
体の中で弾ける
ソ ....
今日 あなたが死んでも
明日 私は泣かないだろう
一瞬の悲しみは
空しい夜に飲まれてゆく
今日 私が死んでも
明日 誰も泣かないだろう
一瞬の衝撃は
儚い朝に吸わ ....
真夜中の街
儚い灯りを縫い合わせて
君はいくつも
星座を作ってみせ
物語がわからなくても
知ったかぶりで綺麗だねと
僕は何度も
言うのだろう
地上の流れ星はいつも
赤 ....
ちっぽけな わたし
だれも みていない
それでも わたし
ここに いるの
ないて いるの
わらって いるの
おもって いるの
いきて いるの
....
月のようでもなかった私は
君にうすぼんやりとした影を
もたらしたり
することもなかった
輪郭を
持ちはじめた気持ち
境界を求めてはいけなかった
あいまいなまま
分針が何度、 ....
夕立や子猫の腐る竹林
重き夜や夏に狂うて血のちぎり
うたも絵も美しくあれ夏の闇
病んでなほざくろの花は輝けり
筆先に落つる泪や花ざくろ
しづけさやプールに沈む我がいのち
....
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