きのう わたしの影が あなたをつれて帰ってきた
しばらく影をふまないよう気をつけて生活していたが
そのせいだろうか
念の為にかけた
あなたへの電話はいつまでも繋がらない
ゆく道には死がしきつめられており
きた道にもまた同様にある
足元をちょっと切りぬいて四つに割り
オーブンにいれて温める
角の溶けたところをみてとりだして
塩と蜜とで齧ってみれば
なんの ....
おさないうぶ毛はやわらかく見えるが
じつは火花のように爆ぜていて
抱くと心地よい痛みがはしるのだ
いまはまだおさないあなたの
火花がだんだんと肌のおくへおさまって
それから花火のように打 ....
ひかりのなかで
影が 退屈している
あきらめたように
ねそべって
抱きしめてやる
手を伸ばすと
とたんに
わたしに溶けてしまう
ひかりに溶けないわたし自身が
こんどは退屈 ....
色吸いはたとえば
女のこたちのまつ毛のなかに住んでいる
彼女たちがねむたげにまばたきをするときには
世界の端の七色を
色吸いたちがひそやかになめているのだ
だってもう夜は綻びはじめて
あかるい掌をみせている
足のはやい子はそこへたどり着いて笑っているが
わたしの足はなぜこんなに重たいのだ
ひらひらとあかるい意味の内側、
さるすべりの花みたい ....
わたしたちは水辺に立って
空が落ちるのをみていた
低い街はもうみんな焼けて
森たちは水びたしになった
わたしたちはみていた
焼けたりふやけていくそれらを
そしてちゃんと知っていた
ぜ ....
覚えているいくつかのことよりも、覚えていない膨大な時間たちがわたしの多くを形作っているということはわたしを強くする。世界は途方もなく広大で無意味に美しく、その無意味さは何よりも尊い、果てのない尊さ ....
夜には
夜がある
朝に
花が目覚めるように
わたしには
わたしがある
はずなのだが
たとえば
あの壁を殴っても
痛い
とは言わないが
拳はどうだろう
雨たちや
....
あったりかさねたりしても
ことばを持たないふたりなら
笹舟のように流されていられたかもね
ことばを持たないふたりなら
みたされて游ぐからだの陰を彫る 夕立に似た匂いの指先
どうしたって女のだから肌をしめつけて日陰を歩きたい。という思惑とはべつに梅雨を無視して日差しは降り注ぐし、あっという間に色褪せる紫陽花にはぞっとさせられる。それは美しさであって、自分ではないというのに ....
この先には 庭があり
庭の先には 塀があり
塀の先には 道があり
道の先には 川があり
川の先には 海があり
海の先には 浜があり
浜の先には 道がある
この先には なにもかも
....
半月だか一月だかあるいはそれよりも長いのか泣いて暮していると花は季節をわたっている。咲くばかりであった紫陽花も色あせるどころか朽ちかけているじゃないか。雨の日は靴をはかずに濡れている地面を高層から ....
だれもきょう
ここにいなくても良いのだ
錆びたてんびん座
図形
意味なしのことば
切り分けられる空間
ここにいなくても良いのだ
うつむかなくてもいいし
生きていなくてもいい
....
そのときわたしは息をとめていたし
世界はないも同然だった
前でも後ろでもおなじことだ
どっちにしろ転ぶのだ
夢のような一瞬ののち
美しいさびしさとひきかえにして
わたしが
ものを思うあいだ
水はあふれ続けて
世界をしめらせていた
花は咲き揃っていた
腐りそうに甘い日陰で
決断も
選択も
もう必要じゃなかった
ほんとうにこの夜は
つるつる光って石のようだ
そうしてあなたの目はそれより真に暗い
ほんとうにこの夜は光って
日々のゆく先をかけがえなく照らすだろうけど
そのたびにまたその目を思 ....
きれいきれい
爪も髪も肌も
靴も上等 生地も最高
そんなまるまるちゃんを裏がえしたら
たぶん手に入れやすいブランドのタグついてる
すずめたちがやって来て
シーツに吹きだまる夜を食べていく
身体があんまりかるいのに
心ばかり重たくてやりようがない
びしょびしょにつかれるまで身体をつかいあって
腕もあがらないで笑っ ....
きのうのよる
上手いことたたまれて
押入れの奥へしまわれたのが
本心です
だれの
とは
言うまい
それで
足首には
いまどんな紐が巻かれてるんだい?
洋館のカーテンは
お ....
咲き誇るということばにふさわしく、早すぎる夏日を仰いで薔薇が咲いている。
あちらにもこちらにもまっ赤だとかまっ白の花びらをひらいて、でもわたしの好きなのは白から甘いオレンジ色へ溶けていくような色 ....
めくらねこ、おいで
なにかの冗談みたいだね
今日が昨日のつぎの日だなんて
じゅうたんのしみを舐めている
めくらねこ、かわいいね
おまえたちが死ぬところを
きっと見ていてやるからな
そ ....
波がたち
風がたおれる
うつくしい季節
わたしは
いない
ざあざあもえる緑
ここちよく冷えた夜
青じろい街灯の影
わたしはいない
不安
安寧
焦燥
安堵
わたしは ....
わたしたちは
結ばれた みじかい紐のように
そこに置かれていた
女たちが 色々な名前をよびながら
入ってきて
そして 出ていった
わたしたちはほんとうに望んでいた
だれかが、 ....
詩人がみんな
ことばが消え去るのをまっている
画家が黒と白の絵の具を混ぜつづけるように
教師たちは生徒を置いて家へ帰る
神父さまは折れた十字架でシャーベットをすくう
詩人はみんな
こと ....
街かどの女たちに
欲しがるだけ黒を与える
得るごとに欲深くなるさまは
日没のようにうつくしかった
さてわたしは
いよいよ壊し始めたこの柵の残骸を
きょうは焼場へ持っていき
そうし ....
ぬかるみのあかるみにふと気をとられ 忘れたことを忘れて傾ぐ
筆先に闇がぼそぼそ溜まっている 想いもないままはしるからだと
たのしかったことを
思いだして
はずかしくひかっている
夜になるともう少しつよくひかるから
待っていてほしい
待っていてほしい
それを
なんと言うのかわからないでいる
結んだらもう
ひらけない
清廉でも潔白でもない身を
はずかしく引きずっている
少い言葉をならべかえてあそんでいる
でも角がとれて
すこし
それは
きれいだった
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