あなたの顔に
穴が一粒
紐を通してくれと
言うが
どれだけ手繰り寄せても
紐のはじまりが
やって来ない
うつくしいのは
なぜだろう
横顔 曇天 カップの重み
うつくしいのは
なぜだろう
深緑色 かわいい恐怖
ふるえて立ってる電信柱
うつくしいのはなぜだろう
死なないも ....
あれから
いくつかの詩を書いた
ふたりとも
無言で
色にも
光にも
夜にも かまわずに
いくつかの詩をかいた
鳥が飛ぶのにも
種が蒔かれるのにも
気づかないで
....
あなたのはく息は
わたしのよりも
ちゃんと白いね
あなたの手のひらは
ぶ厚くて温かく
冬が
さむいのだとわかる
うしろから抱き込まれると
まるい刃物に刺される心地が
した ....
文字では
なにも言い表せられないし
音では
踊らせることはできないし
絵筆と色では
なにも
描くことができない
あなたが
どれだけわたしに近づいても
あなたに
触ることもで ....
安いワインに合うつまみばかりくわしい男のひとのことを好きだった。朝といっても良いくらいの深夜にいつもちがう場所でお酒を飲みながら、ぽつりとそういうことをつぶやくので一度など缶詰と大きなライターをコ ....
実家にはいま父と母が住んでいて、いまは、黒い子犬も住んでいる。
母が名付けた、「宝籤」という意味の名前を呼ぶと、尻尾と耳をすこしふって転げてくる。それも、この二週間でずい分としっかりした。
宝 ....
耳が痛い
と
あなたが言うので
のぞきこんだ
産毛に抱かれるように
あなたの
恋人からの言葉がひかっている
それを持ち帰り
窓辺においてやると
いよいよ優しげにひかってい ....
愛していると言うことと
愛していると思うことは
まったくちがうわね
窓際に立ち
君はうたう
愛していると囁かれることと
愛されていると感じることは
日没、空あかく
....
すいぶんありふれた場所まできてしまった
ふりむけば怠惰に崩れた愛がみえる
いまや恋心は
あまい雨雲になって
なんとなくふたりを覆っている
雨がふれば
わたしもあなたも
木々も ....
季節が
ずい分かわってしまって
空はかなしい
部屋のなかには
あなたにあげられなかったものばかり
散らばって
真ん中に
あなたのかたちの不在がのこる
扉のむこうはひかっ ....
わたしは
とてもつよくて
いつかは泣いたりできると
おもっていた
花は咲いていたし
空は青かった ような気がする
でも、よくわからずに
ただ
立っていた
お気にいりを
....
友人からのながい電話を受けていると、耳もとで言葉がばら、ばら、と雑音のように崩れていく。夜。夫は仕事のあとに飲み会があると連絡をくれた。冷めてしまったスープ、かたくなったパン。きのうやっと出してきた、 ....
八年前から
八年が経ちました
八年
長いのか短いのかわからない
どこまでいってもおなじなのかもしれない
けれど、
わたしを支配しているものはもうすでに、
あきらめだけではなくなっ ....
生きているのは
はずかしいね
まいにち影が
伸びてゆく
生きていくのは
はずかしいね
手をつないでくれたら
一緒に死んであげる
ひとを殺さないことが
ふつうだとおもっていた
愛とか夢を
良きものだとおしえられて
ほんとうのことは
いつも
だれも
しれない
ひとを殺さないことが
ふつうだとおもってい ....
なけなしの力で振り払うことができたのは小さな羽虫一匹
あなたの
向い側で
点滅するような表情を
じっと見つめていた
愛しいのか
悲しいのか
ずいぶん前に
わからなくなってしまった
触れたいのか
こわいのか
わからなくな ....
数えることばかりで
月はすっかり濁ってしまった
いとしいものばかりで
夜は明るくなりすぎた
これからは
もっとたくさん
ひとを傷つけよう
もう
それでしか
眠ることさ ....
名づけるまえに死んでしまった気持ちを
どこへ埋めたらよいのかわからないまま
うろうろと抱いている
つめたくもあたたかくもない気持ちを抱きかかえ
柔らかそうなほうへ
立ち止まること ....
おはじきを一列にならべたような夜
目をさませば君がいない
悪い夢をみている
はやく夢を閉じて
ふたりで色をならべよう
疲れはてて
そして、
それからどんな夢を見よう
歌いたくても歌えないよる
うたうたいは血と指で絵を描く
石のうえに
詠みたくても詠めないよる
詩人は枝をうちならす
懐かしいリズムで
描きたくても描けないよる
絵かきは文字を ....
痣のある朝に
カーテンをゆらし
重たい気持ちに
重たいからだがぶら下がっている
開封されない手紙の束が
いまにも崩れ落ちそうで
崩れ落ちない
ずっと
ささやきは
一昼夜経つと酸化して
腐った猫の色になる
夜でもなく
朝でもなく
シャワールームでささやいて
悲しいことも
愛しいことも
流れる色にするために
シャワール ....
降りだしそうで
乾いたままの
空をなぞって
こんな日に
泣くのには
意味があるのよ
誰かが
たおれないと
世界がおわってしまう
そう言って
きれいに笑っている
き ....
ちいさながじゅまるの鉢植えを夫が買ってくれた。土曜日、駅のよこにある小さな、閉店間ぎわの花屋で。つめたくて、青い、「2」という数字がかたどられた陶器に入っている。
植物の方が、動物よりもなじ ....
さいきんは
いつも二つ夢をみる
朝と晩にひとつずつ
きまって蒼白いかおをして
どこか寒い場所で赤を抱えている
ふるえて
昼間には
夢をみない
昼間には
どろどろの
....
ふたつの色の丸が見えると
きみはしずかに笑いはじめる
先端のなくなった世界で
分厚い空気をくぐり
人びとが屋根をたたみだす
鳥が
まっさかさまに飛びだしてゆくと
いよいよきみ ....
夏よりも冬のほうが好き。冬が終わるときはなんとなくさびしい気持ちになるけれど、夏が終わるときにはいつも少しうきうきしてしまう。
ただ好きというのと得意というのはやっぱり少しちがっていて、色々なも ....
こどもだ
というだけで
みじめだった
おんなが
おんなだ
というだけで
蔑まれるのは
道理か
どのみち
ここへ着くだろう
どのみちをとおっても
おんなへ
着いただろ ....
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