この夏の澄んだ空気の中、あなたの墓前では、存在が、歴史が、社会が、人生が、すべて源泉に遡っていく。存在は素裸になって積み上げられ、歴史はその体躯をいよいよ明らかに投げ出し、社会はその緊密な構造を再 .... 新しい土地での新しい仕事も二年目となった。仕事の要領や手順もわかってきて、日々充実しているはずだった。ただ、私の上司は私のことを嫌っていて、一年目のときはとにかく集中攻撃をしてきたし、二年目になっても .... 巨大な沈黙が降り注ぎ、忙しなく部分同士が交信している大地は惨劇に見舞われた。大地には至る所に中心があり、そこから水平線や勾配が限りなく伸びていき、無数の表現を作り出していた。大地が低く降りていくところ .... 太陽がまだ昇りきらない
鈍い光の中
近所の大きな公園を散歩する
芝生は朝露に濡れて
紫陽花はしとやかに
私はひもを引っ張るように
快楽と安寧を手繰り寄せる
公園にあるものはすべて ....
初夏を潤す水の眠り
そのやさしい浸食が
一人一人の誕生までさかのぼる
ふと手を止めたその先には
地球全体がまばゆく広がっている
鉱物たちの永遠の眠りが
一人一人の死まで急いていく
 ....
雨が響いている
六月には刃先が疲労する
四月と五月の春の息吹に
消耗し尽くした空は
悲しくもなく泣き始める
大きな思い出は錯乱し
小さな風景はたるんでゆく
雨が谺している
六月には ....
金曜日に埋まる人々
金曜日が終われば必ず発掘される
だからこそ人々は
金曜日の空洞に無我夢中に埋まっていく
登りなのか下りなのか
定かでないまま坂は広がり
明度を失った空は
大地を限 ....
木陰に咲いたまだ幼い紫陽花
その淡い色でもってひっそりと
この初夏を表彰している
この季節を顕彰している
自らを初夏に捧げることで
美しい献花となり
裂け目だらけの日本を
控えめに讃 ....
風が体を通り抜けていく
ポロシャツの細かい穴は
体の細かい穴となり
細胞一つ一つが風に洗われていく
風景に溶け込むために
最も適した衣服
私はもはや人間の意識を捨て
自然と同じく ....
不意の山火事のように
惨事が痛々しく広がっていく
私に着せられたこの罪の衣
ここから滴る毒液に冒されて
途端に周りが敵だらけに見える
計略が動いている
私を陥れる巧妙な罠が至る所に ....
すべてを話せるのなら
詩なんて書かなかった
人の間に立ち
場に即した言葉を選んでいるうち
いつしか僕らは機械のように
必要最小限しか話さなくなった
これを話せば秘密が漏れる
これ ....
かつて家が建っていたが
津波で流されてしまった
今はもう何もない宅地に
老人はしばしば訪れる
幼い頃近所の友達と遊んだ記憶
自分の稼ぎで建て替えた時の記憶
妻との過去の暮らしが詰ま ....
毎日ダンプが多く通行するため
国道6号線には亀裂を修復した痕が無数にある
堤防を作る工事や道路を作る工事
ほ場を整備する工事や水路を整備する工事
至る所で重機が働き
朝早くから除染作 ....
傾斜を下り刺し殺された命たち
多くの者は海の最果てで
多くの者は自明な住宅で
この土地で地を這い工事していると
命たちが呼吸に紛れ込んでくる
もはや死んだ命たちは生活の粒子
我々の ....
旅立つ日には
一つのメロディーが流れている
旅立つ日には
何かが必ず終わるから
僕らは故郷を持たない
僕らは故郷を探さない
故郷への渇きだけを持ち続ける
旅立つ日のメロディーは
 ....
復興途上の街の街路で
寂しくなって月を見上げる
愛は常に失われたまま
ときに著しい渇きに身悶えする
この渇きを月よ、お前にやる
この渇きを月よ、お前に叫ぶ
俺はポロシャツをだらしな ....
バス乗り場には行き先が書いてある
花が飾ってある
まるで旅程のために生じた偶然のように
駅のターミナルには大樹と季節の花
何も告げずとも伝言は明らかだ
来歴がばらばらな人たちが集まっ ....
葉が一斉に飛び立ちそうな
雨に濡れた朝
闇がかくれんぼしているので
一つ一つ見つけ出して行く
鳥が破裂して鳴き声として散る
そのたびに朝は時刻をよろめかせる
雨の音には距離がない
雨 ....
時間の袋が垂直に突き破られ
色とりどりの血流は外側へ飛散した
ひとつの瞬間が選び取られ
病に深く倒れ苦しんだ
悔いや口惜しさや怒りや名もなき感情
俺はただ獣をよけただけ
しかし獣を責め ....
僕たちは路上で生まれた
真夏の焼けただれた
豊かな道路の上で
乾いた轍だらけの道路は
遥か彼方へと肢体を投げ出して
欲望を沸き立たせていて
いつだって娼婦の顔をしている
僕たちは ....
墓の前では時間が固まっている
墓の前にはいつでも同じ風が吹いている
あなたがここに葬られた
まさにその日の私もここに葬られている
墓を取り巻くこの自然の一隅には
私たちの青春がその色 ....
葉の色が違っている
花の色が違っている
光は屈曲し
あらゆるものを結合している
人々は静かに燃え立ち
鉄塔は朗らかに凍えている
雲たちは響き合い
音の輪はとても新しい
羽ばたいていく緑の葉たち
大きな坂の源にはくちなしの花
過ぎ去った漂泊の日々は今もよみがえり
労働の岩肌を静かに洗っている
欲するものはほんとうに欲されているのか
判らずとも雲は精密 ....
 それぞれの詩人にはそれぞれの言葉の個人史がある。詩の中で用いる言葉は、かつてどこかで自分が書いた別の詩の中でも固有の位置を占めていたものである。例えば「水」という言葉をかつて別の作品で用いたとする。 .... 駅が燃えている
交通量を燃料として
絶対零度で燃えている
構内放送はいつも通りに
列車の運行を伝え
人々は隙間の時間を通り抜ける
駅は青白く燃えている
そして即座にたち消える
 ....
どしゃぶりのように一日がはじけ、次の一日へと突き当てる船首を送り出している。葬られた市街地にはダンプの轟音が反転し、除染作業員は冷たい海を交換し始める。この一年間はいずれ無限に回帰し、そのたびごと .... 生まれてきてからこれまでの
血の成長を袋に詰める
明日には収集車が焼却場に運んでいく
つい最近知り合ったばかりの
知遇を本棚にきれいに並べる
いつの間にか本棚はいっぱいになった
拠 ....
人は過熱する成熟とともに
真珠の繊維を紡ぐようになる
貝がその内側に宝玉を育むように
人はそのすべての能力を費やして
経験と対峙し経験を醸成する
積み重ねられた生きる経験が
白い光 ....
私のときは震災で
激励会どころじゃなかったんですよ
他の職員の定年退職時の激励会に向かう途中
あなたは淡白にそう言った
Hさんは今年で任期満了ですよね?
お別れ会はやらないんですか? ....
すべての教条が無効になって
生長していく地球は祝日に包まれた
この微小な正午を砕いて
流動する光の骨格
人を呼ぶ声は途端にかき消えて
沈んでいく空が急に近づく
獣たちの血は激しく濁 ....
葉leaf(914)
タイトル カテゴリ Point 日付
源泉自由詩117/7/28 12:44
怒涛自由詩117/7/23 5:22
復興自由詩117/7/17 11:05
夏の朝自由詩117/7/15 10:51
眠気自由詩217/7/11 4:49
六月自由詩217/7/5 4:11
金曜日自由詩117/6/30 17:04
紫陽花自由詩217/6/19 5:03
ポロシャツ自由詩217/6/17 5:30
濡れ衣自由詩117/6/14 4:06
無口ゆえに自由詩1117/6/11 8:58
崩れた土地自由詩117/6/10 10:57
傷ついた土地で自由詩317/6/9 3:59
生活の粒子自由詩317/6/6 16:12
旅立つ日には自由詩317/5/31 4:06
月に吠える自由詩217/5/20 0:41
バス乗り場自由詩217/5/17 3:59
雨の朝自由詩417/5/16 1:38
事故自由詩217/5/15 3:41
路上自由詩217/5/5 23:35
自由詩117/5/4 5:09
自由詩117/4/28 16:31
崩落自由詩217/4/24 5:14
言葉の個人史散文(批評 ...517/4/12 5:22
自由詩317/4/11 5:17
年度の終わり自由詩217/4/9 8:45
掃除自由詩317/3/29 3:40
白髪自由詩117/3/26 1:53
任期満了自由詩117/3/20 7:09
自由詩117/3/11 15:45

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