幾重もの色彩に包まれて
女は刻々と移ろう季節を呼吸する
命がさめざめと血を流した日に
女は故郷の水を潜った
命が新しい命を噴き出した日に
女は異郷の火をまとった
すべてがくだらなく ....
私は聴衆の前で演説をしていた。党の偉大さについて語ると聴衆は喝采を送って来た。党の綱領に従順であれと説くと聴衆は感激した。だが私の言いたいことはそれだけではない。私はもっと人間の本質について語 .... 儚い朝が閉ざされるとき
女はいっとき獣の眼をあてがう
陽に刻まれた木立が炎めき
虚構の大地が海を覆う
女は起き上がり服を着る
色彩のために、空間のために
女は山から産まれた
山の ....
窓越しに見えた遠くの山嶺は厳しく青空を背負っていた。僕は君という緑を己の緑に重ね合わせて、溶け合ったまぶしい緑を背負っていく。今日、長く患っていた孤独という病が鞘に収まった。孤独は出血性でひた .... 僕らは対の鏡のように、互いを跳ね返し合うことで一層互いの奥深くへと潜っていった。僕らは羽ばたき疲れた鳥のように、いま契約の形となって寄り添っている。僕と君とが一つの精神であることの証明に、僕らの父祖た .... ひまわり畑に抽象など要らない
ひまわりが人のようにひとりずつ
死んでいく死んでいく真昼
ひまわりは枯れては青空を見返す
死をさえぎるどんな光も要らず
衰弱はどこまでも澄み切っていて
笛 ....
 私は思潮社から詩集を二冊出している。『zero』(2015.3)『vary』(2017.6)である。詩集を出してみて感じたのは、確かに自分は歴史に参画した、という手ごたえである。
 それまで私は現 ....
匂い立つ草に絡めとられ
探している君はいったい
いつの間に探すことを忘れたのだろう
夏というこの機械仕掛けの季節に
試している君はいったい
いつの間に試すことを止めたのだろう
夏は単純 ....
わずかな差分ずつ傷ついては癒されてきたものが、それでも癒し切れずに細かな傷として残る。労働者の一週間という球体めいたものはいつしか傷だらけになり、傷が痛んだり傷から出血したりしてくる。金曜日、労働者が .... いまだ存在しない土地へと僕らは向かっていた。その土地の存在を証し立てるのではなく、その土地を僕らが新しく構成するために。電車は鉄化した巨大な鳥のように、地面すれすれの低空を飛ぶ。僕らはいつも二人で ....  詩は難しい、わからない、という声をよく聞きます。ところが、詩というものはそもそもわかる必要がないものです。わかることよりも感じることの方が大事です。ことばというものは意味を伝えるだけのものではなく、 ....  詩において定型は韻律でありリズムである。と同時に、定型は認識の枠組みであり、ストーリーの大枠である。コミュニケーションの観点から言うと、定型によって読者は気持ち良く詩行を受容し、また一度定型に慣れて .... 猛暑が世界を襲ったため
凍結していた輪郭や亀裂が
一斉に融けてしまった
国境線が融けてひとときの和解が訪れ
水平線が融けて空へと海が流れ
私の視点が融けて誰の視点でも乗っ取る
私の肉体 ....
君の無限のてのひらが
僕の手に絡まり有限になった
いつだって君の全ては無限だったのに
こうしてつながっていると有限になる
君の血液が僕の体をめぐり
君の思考が僕の脳をめぐる
一瞬の緊張 ....
骨格を取りまとめる不動の骨格に君は宿っている。君の読む本の文字は四方八方に飛び散り、喫茶店の壁の地味な装飾となった。君の微笑みは複雑な言語で、難解な文法と神秘的な意味を持っている。喫茶店から喫茶店 .... 朝の職場には苦い光が満ちている
クーラーだけが職場を奏でる音楽だ
夢も幻もどこかに隠れていそう
何もかも柔らかく統合され
一日を彫り上げようとしている

朝の職場には清潔な真実がある
パ ....
灼熱の車、アスファルト、建物
灼熱は水のように重く、辺りを濡らす
この駅だけが閉ざされていて
世界はここで終わっている
人間の悦びだけが影を落とし
人間の欲望がこんなにも焼けている
そんな ....
朝の薄い明かりとともに
四方八方から鳥が鳴き始める
少しずつ開き始めた花がある
ひっそりとひらめいた理性がある
何も残すことはない
すべてを未来へ展開していけ
鳥の鳴き声は雷雨のような
 ....
激しい雨に降り込まれて
部屋の中でひっそり灯りをともす
君が生まれたときもこんな雨だったか
僕が死ぬときもこんな雨なのか
雨水は生きていて
都市に自然の生命を注ぎ続ける
君は雨が好きか
 ....
愛はみずうみ、湖底の起伏をすみずみまで満たすもの。欠落やひび、果てのない深淵さえも無限に満たしていく。魚たちは浅く深く光を伝達し、水草は緑色に微笑んでいる。僕は僕という風景の連なりを君に映写した。 .... 自らを美しく飾り立てて
美しさを測る試験に合格した君には
これから静かに醜くなっていく義務が課されている
晴れた青空が虚構であるように
君の抱いている夢や希望も虚構に過ぎない
現実は大地のよ ....
桜はこの世で最も美しい海である――
眼前に広がる一面の桜は
陽を抱いて獣の眼のように輝く
桜についてはすべてを語ってしまった
桜はすべての記述を包摂してしまった
私は桜の限界に立ち
桜 ....
時間が満ちて
視線が交錯して
笑い声を交わし
そこに湛えられる空気を
ゆったり沐浴する
ここには愛が満ちている
かつて渇望されたものが
惜しみなく降り注いでいる
私は星を思う  ....
はぐれはぐれて
この街までやって来た
この街は焼けただれた街
俺もまた焼けただれて
街とともに啼く

はぐれはぐれて
この仕事についた
この仕事は汚染された仕事
俺はもともと汚染 ....
あなたの正義はいつでも研ぎたてだ
あなたは祖国の問題に敏捷に反応しながら
その刃は飽くまで内側へ
あなた自身に向けられた
あなたはいつでもあなた自身に試されていた
もっとも厳しく鋭く重い ....
試されているのはいったいどの暁だろうか。抉りとられたままの世界の軋む音が聴こえる。根拠なく発生し続ける存在は、ただ相対的に存在するだけで暴力として発芽する。見失う片目の行く先には過去の清冽な流れが .... どんなににぎやかな街にでも
人一人いない瞬間はやってくる
まったく法則的ではなく
きわめてでたらめに
すべての人が消えるのだ
人のいない街で
電車は走り続け
テレビは映像を流し続 ....
契約を結んでいく人々の群れに
時計の針は刻々と告げる
その日一日歩いていく泥濘の深さを
法は空を舞う繊細な鳥のよう
大地に降り立つことなく空想を奏でている
この日本という原始的な帝国 ....
窓を開けるんだ
向かいのマンションには
規則正しく電灯がついている
屋根と受信アンテナが見える
国道沿いには
リサイクルショップの看板があり
車両の通行する音が波打つ
すべてが小 ....
夕陽を飲み干した
一本の裸木のように
男は街路を歩いている
詩が叙情であるなら
詩が青春であるなら
男の中でとっくに詩は死んだ
男は散文的な社会を
散文的な哲学を
老いと成熟とを
文 ....
葉leaf(914)
タイトル カテゴリ Point 日付
自由詩118/9/23 7:47
尊厳自由詩118/9/21 2:20
自由詩318/9/18 6:39
ふたつの命自由詩018/9/17 14:27
婚約自由詩018/9/10 5:03
残暑から始まる自由詩218/8/16 4:48
詩集を二冊出してみて散文(批評 ...018/8/11 15:06
夏のからくり自由詩218/8/11 0:50
金曜日の果て自由詩118/8/5 5:03
滝へ向かう自由詩218/7/30 4:26
中村梨々詩集『青挿し』について散文(批評 ...218/7/29 4:23
坂井信夫『黄泉へのモノローグ』について散文(批評 ...018/7/29 3:14
猛暑自由詩018/7/16 15:53
手をつなぐ自由詩218/7/15 15:41
喫茶店から喫茶店へ自由詩318/7/13 3:34
朝のフロア自由詩118/7/6 4:28
焼け焦げた駅で自由詩218/7/4 3:32
鳥が鳴き始めるころ自由詩118/6/28 2:03
降り込まれて自由詩318/6/17 0:49
みずうみ自由詩418/6/5 2:50
新入社員自由詩218/4/28 11:47
自由詩318/4/22 16:18
愛を湛える自由詩018/4/18 1:38
はぐれはぐれて自由詩318/3/24 6:20
ガンディー自由詩218/3/17 14:57
暴力自由詩118/3/4 6:59
人のいない街自由詩218/2/12 3:20
労働の闇自由詩418/2/3 11:42
窓を開ける自由詩518/1/21 13:03
沈黙自由詩218/1/20 15:50

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