書こうとしたことを忘れてしまって
空をノックした
誰も出てきてはくれなかった
書こうとしたことを忘れてしまって
目を擦った
視界がさらにぼやけて
手からしょっぱい匂いがした
書こ ....
死後の地獄は知らないけれど
生き地獄なら知っている
そんな無力や痛みなど
誰もが経験するだろう
それでもここは辛いのだ
残酷かつ心細さの果てなのだ
一緒に見た広 ....
戦場へ赴く男たちの頬は
どれも蒼褪めて
眼だけが真っ赤な
獣のようにぎらぎらと燃えた
そして一様に
目指しているのだと言う
その先には
膨張しきった黒い太陽があった
女は男の眼 ....
目の前で強盗に母が犯されていた
母はぼくや自身の生命を守るためにそれを許しているのだと思った
だからと言ってふたりの命が保障されている訳ではないだろう
ぼくだけが今から逃げ出して後か ....
何かよくわかんないけど、自分よりレベルの高い人にはとりあえずリスペクトしときます。
自分の人生に真剣に向き合っていたとある高僧(やらない夫)は、
自分なりの知恵を完成させようとしていろいろ ....
めでたいと言って飲むお酒の肴には、何があうのだろう
悲しみに酔いたい時に飲む酒の、肴は何がいいのだろう
終電車で故郷のお葬式から帰って来た夫が、ネクタイを解きながら
「蕗をちょっと頼むよ」
....
スムーズに話そう、あいにくと私の前にいる逃げ出した夜は詩人で難聴気味だった
たとえば、私の友人であるアナトール・フランスの書いたやつを読んで
【隠された表】と【真実である裏】を交互に推測し、幾度で ....
祈りは聞き届けられず
願いはまた叶わない
夢を見る事はあたわず
黒く塗りつぶされたキャンバスに
さらに木炭を塗りこめるように
意図的に隠された意志、彼方から響いてくるさけ ....
スー・チーは全くかしこい
十七歳のおばあちゃんなのに
この冬から
おとがいを同居人の鼻の頭に擦りつけて
痒みを解消する手管を見つけた
たまに唇を舐めてくれるようになったのは
やっと同類と認 ....
吃音的思考
促音が音叉のように
響き渡る
繰り返し繰り返し繰り返し
長音と撥音の区別の無い思考
一音節で何を語る
テンションとリラックスの繰り返しが
微妙にずれ
吃音的身体運動 ....
止まない雨はない 死んだ母は帰ってこない
あなたとわたしは一膳の箸でした
年を経た槐の木から
それはそれは丁寧につくられて
生まれたのでしたね
ある朝 ....
ラッシュアワー
千本足の林立の狭間
スーツケースからはぐれた
よそ行き幼児が泣いている
わめき声は動物じみて
朝を病んだ善男善女の苛立ちを
憎悪域にまで掻き立てる
半ばは勤労地獄に子を詰 ....
そんなにやわらかな声で心配されたら
こんなにもいとしい存在に痛みがあるなら
あんなに苦楽を分かち合えるというのに
うたぐってごめん
清流が森のなかを走る
こまらせてご ....
継ぎ目という
継ぎ目が、
糊できらめいて
わたし今とても資材
軋んだ
 
書かれている
紙としての
反応
きみの筆跡が
わたし ....
ぼくとつ
一人のぼくとつを見た
五十手前のぼくとつは
頭を低く低く下げ
ただ芸を身に付けようと
足掻いておられたもくもくと
「芸を極めるか
家族を愛するか ....
冬をついばむ
くちばし
幼い蕾が
羽ばたく季節の夢をみている
今はまだ色を持たずに
たくさんのおみくじが
今年の枝に結ばれて
羽ばたく明日を待っている
少し前まで
小さな ....
なくしものはないと
あの子は云った
わすれものもないと
あの子は笑うんだ
いつかの夕やけが ぼくの肩にとまった
片手に乗せた鳥が とおくへ飛び立った
宙を舞う羽の しなや ....
部屋が寒いと悲しくなった。手紙を書こうと思い立った時から、何かに追い立てられている気がしていた。八月は遠ざかり、友達は消え、毎日が残った。残っていたものものはべたべたと路上にへばりつき、それでも坂道 ....
あなたの唇を枯らし
血をにじませるもの
わたしのこぶしを引き裂き
血をにじませるもの
冬
凍りつく冬の陽射し
寒い朝には人々の胸中に隠れたものが明るみに ....
雪を水に入れると 水になるように
水は氷に 雪水はつららになるように
死ぬことも生まれることも生きることも
体を通るものの 変質なのだろうけれど
心は 消えても響く
共にと思う幻想に支えられ ....
年季の入ったステレオが
不意に歌いだした
インディゴに沈む
コンクリートの部屋で
遠い国の流行歌
綴りも知らないけど
こぼれ落ちた無声音は
冷たい床を浸していった
誰かが作った ....
横になる太陽は、 都市の襞に刺さる蝋燭へ、
際限なく転がり続けた、 葦を掲げた手の彼方に、
なにも焼かず、 なにも踏みつぶさず、
痛む大きなリンゴの腹へと、 終わりない夕景の
....
解ってるの、何でも
貴方も私を責めるのでしょう
目が物語っているわ
でも貴方に何が解るの
その死んだ魚の目で何が見えるの
サングラスなんて外しなさい
私の努力が ....
季節の車輪を転がしながら
時代の坂道下って降りて
さあ年の終わりと始まりのテープが切られました
あなたの目にはどんな時代が見えますか
世界は灰色にもバラ色にも染まります
....
十年ぶりに会おうが
なんにもかわってないような
そんな気がするのは
たぶん
きっと
お互いのあのときが
まだ消えずにあるからだろう
十年てそんなもんだ
大半の笑顔など、虚飾に過ぎない。
だが、それでもきちんと満たすものがある、
だからもう、
れっきとした
嗜好品じゃないか。
金を払ってでも買いたい人は ....
一
この世で一番残酷なことは、
音も知らずに踊らされている、
幼い道化が道化と自覚するような
瞬間じゃないだろうか。
わたしがわたしと自覚して
しまうと ....
煙を出さなくなった工場の軒先で
ウールのベールが群れなして失せ、
熱線が迸り出た。裸体のまま曝された
石は砕け、散った、降った、青い羽根が
ハンチングに突き刺さる。
そしてまた羽ばた ....
同じ強さで信じてくれないなら
信じない
同じ強さで愛してくれないなら
愛さない
私をいつか忘れてしまうなら
関わりたくない
私をいつか置いていってしまうなら
....
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