蜂蜜のような青さで、と誰かが言ったので何となく納得した。最近は何となく納得することが多い。空は蜂蜜のような青さでとろりとろりと甘いもの好きな子供たちを誘うのだそうだ。それから耳。耳たぶが際限なく広がっ .... 夜なきをしていたうちのわんこ
とうとうお空のわんこになった
朝仕事に行く前に地面に眠る彼を見て
ああ、いってしまったと唐突に思った
鎖につながれたこの古びた家の狭い庭から
足取りも軽く
広 ....
手すりのない屋上で
そらをとりもどす、わたしがいる
{ルビ限界線=ちへい}に浮かぶ遠い筋雲の
気流の音に耳をすます
わたしがいる
まぶたの裏に
真昼の月を新月と焼き付け
まぼろしではない ....
農家のおばあさんが
小さな乳母車に載せているのは
自分の畑で育てた花だった

生まれながらにして背が低かった
歳をとり腰も曲がってしまった
それでも車いっぱいに花を積み込んで
今日も花を ....
春めくのか夜になると
もぞもぞするもの
それは
あなたのつくしんぼう
今夜のわたしは疲れているのに
背中を向けた闇のなかで
何かを探し蠢いている
辛抱が足らないから
貧乏なのか
芯棒 ....
上司の心ない一言に火が点いて 
職場のちゃぶ台をひっくり返した日
しょんぼり夜道を歩いていると

通り道のボクシングジムから 
ばす ばす と
瞳をぎらつかせたぼくさーの 
ひたむきな ....
冬の雨が上がって
しっとりと潤った空気に
小さな蕾が目覚め始める

春と呼ぶにはあまりに早く
陽射が弱々しく届いて
蕾の外側だけがほんのり白く染まる

冷酷な北風には
他愛もない出来 ....
友達ってほどじゃない
それくらいの知り合いの
彼氏と知り合いになってしまった
彼女を知り合いだと
言いそびれた
ヤバイと思ったのは
見た目がタイプだったから
小柄な体のバンドマンで
ギ ....
久々にハラピンの所へ行くと
焚き火をしている
煙がもくもくと空に消えていく

声をかけると
慌てて後ろに隠したものがある
あれはまさか
原稿用紙

ふざけんなよ
俺はハラピンを怒鳴 ....
月のしずかを詠むほどに

月を
寡黙に封じ込む


 聴きそびれていたかも知れない
 のに

 細い肩には雲をのせ
 風をたよりに
 風さえも
 去り


物云わ ....
背が高くて猫背のハラピンが
丸めた背中の内側で何か書いている

「せいかつのために詩を書いてるんだ」

試しに読ませてもらうと

{引用=「星」  作 ハラピン

星をひとつぶ食べた ....
具合はどう?
と問い掛けられても
よくわからないのだ
何か喉の奥につかえているようでもあり
ただ疲れているだけのようでもあり
それでいて急に、胸のあたりが苦しくなったりする

こうして
 ....
ママ、彼氏できた

春休み、そいつんとこ行ってくるよ


裸だから言えた

飾らずに伝えられた
午後から
雪がすると言って
ハツコは眠った

ハツコ
はつこ
はつ、子



ああそれは
どこまでも
降りしきる降りしきる
降りしきる降りしきる

向こうはもう見えないよ ....
職場にとても変わった人が入社してきた。
出張者の手配をする仕事。
ひたすらJRや飛行機の発券をする仕事。

そして彼女は
聞いてもないことをよく言ってくる。

「わたし、電車が大好きなん ....
想いと
ことばは
まったくのべつもの

あまりにも似通っている、べつもの


うまれた想いを、
そのままことばに乗せられる、と
そんな気がしてしまう

ことばの背中に、
 ....
サンタになる
と 義父が言ったのは 六十歳になったあたり
子供の頃からの夢だと言い
衣装をそろえ 駄菓子を買い込み
白い布など用意したので

義母は 義父用に衣装をつめたり
白い袋にした ....
黄色から赤信号に 変わった
コンビニエンスストアの 前の交差点

朝 うっすらと雪で凍っていた路上も
お昼を過ぎる頃 スリップする心配もわずかに緩み

直進の列に いつものように 並び
 ....
あなたの花開くようなお口へ
鈴の音の鳴る金のスプーンに
一さじの杏ジャムを載せて
含ませたいの 
とても穏やかな様子で
わたくしの はやる気持ちを隠して


柔らかな顎に そ と手 ....
{引用=街}
街は
灰色にかじかんで
遠くを見る


{引用=鳥}
丹念に編み込まれた
木々のレエス
鳥が壊す


{引用=画廊}
画廊の扉は
今日も閉じられて
あの絵も ....
かかえこまれて
光線から隠れて

鼓動の深さに滲む
羅列 

虹のような破線 

こぼれる 
ガラス の

底の底

あなた
立ち去りなさい

私が
自由になるのだか ....
陽だまりのベンチで
あなたの姿を見つけたよ
何気ない仕草のひとつひとつから
幸せのあり方を掬いだしては
これで良いのだと
ひとり頷くあなたの姿
大きな卵でも抱きかかえるように
胸の前で孤 ....
放課後の淡い窓から金管の音よ羽ばたけ青のたかみへ




とおせんぼされてる明日に手を伸ばすように螺旋階段のぼる




コピー機が光をシャッフルする影でちがう切札のぞむ我がまま
 ....
紅を差そう
朱色の布をまとわせただけの軽い体を起こして

襖の向こうでは三味線と声
硬い布団と一緒に沈んでいく長い黒髪

艶やかな声
媚びる声
細く白い足の影が
いくつもこの小部屋の ....
「好き」という言葉に
飽きたとしても

君を見て ピンッと動く気持ちの方向は 変わらないと思う
ずっと
何が 入りこんでいたのかも

突き止めては いけないものみたいに
吐き出すものに 流れて 流して

ターン するために ターンさせられ
海 の 底

開けられちまった 無口な口に

 ....
ち ひかす ひも くれ
も ふせて ゆく やみ

けどらせ
いけどる
くらがり

ぬけていく
かげ

とげ にぎり
さし もどす

めんたま に
うつすな
かがやき

 ....
        1

寒さが沸騰する河岸に、沿って、あなたの病棟は佇む。
粉々に砕けた硝子で、鏤めている実像が、
剃刀のような冷たい乳房のうえに置かれる、
吊るされた楽園。
顔のない太陽は ....
あのクエスチョンマークのような雲は
描いたの
ひみつのゆびが

あの子の涙は
ぬぐったの
ひみつのゆびが

涙でちょっとしょっぱくなったから
海で洗ったら
もっとしょっぱくなった
 ....
私の知ってる人たちは
とても丁寧だった

お世話になってる人には
きちんとお礼をのべ 頭を下げて
すべての書類の指示を書き残してたり

そこで どうして泣きわめいてくれなかったのか
ど ....
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