「キレイだよ、誰よりも。」


 鞍馬口駅のトイレでそっとつぶやく。髪を直して、グロスを塗って。そうして見つめる鏡越しの自分に向かって言っているものだから、他人が聞いたら「アホちゃ ....


風が吹いてくると
潮のにおいがしないかと期待して
きっとそんなことはないんだろうと
わかってはいるのさ

東京 東京
なんてさ

てぃん とぅん てん とぅん


聞こ ....
心に栄養価不充分ですから、
あたしは水面に苦しんでいる。

アクリル球体中には、
くるむよに隔てた、優しさがあるのですが。
あたしが生きる為の酸素は、
あなた無しでは流水無きこの場、
居 ....
きみに降る雨の日を
ぼくは知らない

いちばん、
知らない

余地の
あり過ぎることが
迷子という方角を狂わせて

ときどきぼくは
ひどくさまよう



ついつい ....
今日の酒ははこれまでと
天井の窓を眺めつつ
グラスの氷を持て余し
もはや今日となった明日を
どんな顔で迎えようか

せいぜい二日酔いが関の山
縋りつき泣き出したい本音
一度しか聞いたこ ....
叱るつもりが
感情に身を任せ怒っている
自分の醜い姿に気づく

ひとは誰でも
誰かを叱ったり怒ったり出来ないはずなのに

自らの思いを通そうとでもするのか
声を荒げてみたり
ときは手 ....
今夜はブルーベリー酒で、一杯
甘ったるいお酒が好きです
そうして甘ったるいことばを吐く

大した意味などないけれども
わたしは甘ったるさを舌で転がしては
その中に辛さを味わおうとする

 ....
月を遠ざけるものを捜して
迷い込んだ森

薄紙で封印された
わたしを引き裂いて
生まれてくるものがある
皮膚がわたしを押さえつけていた
だから、だ

破りとられて流し続ける
温かい ....
触れあうと 音もなく
はがれ落ちた 鱗は
ひとつひとつ 淡く発光して
僕たちは 喪失のただなかに
いびつな突起物を
あてがいつづける
いくつもの 鮮烈な傷跡を
つめたい指 ....
浅瀬に繁る葦たちを敏く一望に過ぎ、
彼の地エジプトでの安らかな暮らしを恋う
されど、ああ。すでにサファイアの瞳に囚われたこの身
ただ、鉛色の心に惹かれては哀しみを知り、
涙の雫で翼を濡らしてさ ....
眩しい今日
雀がせわしく
朝の挨拶

魚の焼ける匂いに
ピンと張るひげ

眠気には勝てず
我輩は身体を丸めて
もうひと眠り

ぽかぽかお日さま追い掛けて
何度も寝場所を変えな ....
陽射しが勝ち誇っている
圧倒される肌や
追いやられた雲たちを見まわして
自惚れている
晴天に
傘、

傘を抱えている、
チラ、不審、チラ、白い目、が、チラ、チラ、と、
きみの傘、
 ....
{引用=縦に瞼をひらく半円形の港 回転扉を転がす
いくつもの歳月 このひっかかり具合に画さ
れカサコソ枯葉が散るから 浴槽のなかで手
拭を頭にのせ、石柱はすこしいい気分になる


てんでば ....
 壁に咲く花を見落としても
 私は死なない
 

 夏は確かにあった
 冷蔵庫の置きすぎた麦茶からは
 想像もできない


 どこか
 ダムの底に消えた役場のよ ....
夕焼けの上に乗っかった
深く透きとおった青色の空が悲しく見えたのは
その色の暗示する闇の到来によるものであったか
空が闇に染まっていく瞬間が悲しいように思えたのは
闇が悲しさを喚起するからでは ....
「山はいい」と誰かがいった



笹薮を掻き分けると湖があった
あのエメラルドグリーンはまるで、と
吸い込まれそうになっていると
くわっと巨大な目になった


{引用=あれはいつか ....
ふたしかな水を生きて
行方のどこにも底がない


くうかんを蹴りあげて
足音を確かめる
ひかりは、
柔らかくかげを踏んで
どこか遠い国になった。



どこまでも水。
ぼく ....
手の届く範囲で
窓を開ける
遠くなった人のことを思いながら
一日を傾ける

窓枠には白い花と
手紙を添えた
白猫が通りすがりに連れて行ってくれる
そんな風景を完成させるため


 ....
立ち上る煙を見ると
その先に魂を探してしまう
人ひとり死んだのに
山は頬を染め始め
わたしは焼き芋を食らう

パチパチ、と鳴る
時を刻むより不規則で
ずっと我慢していた拍手を
本当は ....
小さな指のさきで
木の実をひろいながら
ドングリ
という言葉を
娘は覚えた

昼間のつづき
眠りの窓をしめて
散乱する
ドングリと戯れていた
ことばと戯れていた

ひとつふたつ ....

仕事帰りの街灯の下
夜がひたひたと打ち寄せている
その波打ち際に立ってふと
えッと吐き気を催した
げぼッと咳き込んだ口から足元へ落ちたのは
幼いころのお友達だ
あの頃いつも遊んでいた ....
今月なのは間違い無いのだけど
確か二十日頃だったよね

金木犀の甘い香りは
あのひとの痩せた背中を映し出してくれるようで

ひとたび心離れてしまうと
あれほどに固く結ばれていた思いまで
 ....
川の終わる街、海の始まる街
埋め立て地の煙突は
今はもう消えた海水浴客の嬌声を響かせながら
夏の日にゆらめいている
コーンスターチのむせ返るような匂いは
街の健康的な精神の象徴として
寛容 ....
海岸にたたずむと
なぜだかいつも
雪がふる

手のひらに
結晶の一つがのると
出会いだ
と勘違いしては
スーッと溶けてゆくと
別れだ
などと悲しがる

雪がつもり
薄っすらと ....
渋谷駅前広場に置かれた 
緑のレトロ電車に入り腰を下ろせば 
クッションみたいな長椅子は 
日頃の腰の疲れを
吸い取るように暖かい 

走ることの無いこの車両に 
集まる老若男女は 
 ....
日曜日の鳩尾は
相変わらずキュウンとするけれど

月曜日の洗面器には
カラ元気をなみなみ張って

火曜日の鳩時計の中で
大人しくクルッポーを演じたら

水曜日の排水口に
息も絶 ....
 
 
見渡すかぎり牧場でした
穴がありました
さりさりと音をたてて
ショベルカーが掘っていました
人が幾人か落ちていきました
むかし近くにあって駅みたいでした
僕と僕の大切な人は
 ....
誰かが遠くで歌ってる
夕日が沈み 月が光って ほら また朝が来るよ
ねえ 太陽が笑っているね
君も笑って

そんなこと言えるような私じゃないけど
君が沈んでいる日は ねえ
空に力を借りた ....
散歩の途中で犬が逃げた
工事車両の大きな音に
驚いて走っていった

奴はリードを付けたまま
なのに
公園の草むらで
見失う

さがす、捜し回る
いつもの散歩道
立ち寄る電信柱
 ....
静止し音もなく
ただ時が流れる

大型書店の地階

あの人の詩集は
こんな凍結した

書棚にぽつんと
展示されている

誰もいない場所

あるはずの色も
感じられなくて
 ....
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