すべてのおすすめ
今日も{ルビ賑=にぎ}やかな
職場の仲間は
跡形も無く姿を消した
残業の時刻
静まり返った部屋で
ぱらぱら
書類の{ルビ頁=ページ}を{ルビ捲=めく}りつつ
手にした判 ....
今から40年前
モノクロームな戦後の昭和
素朴なふたりの物語
たまたま
男は人の紹介で
ある会社に入り
たまたま
女は求人広告で見た
ある会社の電話番号のダイヤル ....
「 誕生 」という地点から
「 死 」へと結ばれる
一本の糸の上を
わたしは歩いている
頼りなく両腕をひろげ
ひとりきりのサーカス小屋の舞台上を
よろよろつなわたる道化とし ....
朝食のバナナをほうりこみ
口をもぐもぐさせながら
ねぼけまなこで
汚れた作業着をはく
ポケットから取り出した
昨日の悔しい仕事のメモを
丸めてゴミ箱にすてる
窓から ....
昨日のゴミ置き場で
幸せそうに日向ぼっこしていた
白い便器の蓋が
今日は無い
腰を痛めて十日間
介護の仕事を休んでいたら
先月の誕生会で
目尻の皺を下げていた
....
「 あさって帰る、戸締り頼む。」
親父の書いた太い字の
メモはテーブルに置かれ
日頃にぎやかな
家族みんなは婆ちゃんの
米寿の祝いで熱海に行って
ひっそりとした家の中
....
鼻をかもうと
男便所の扉を開けたら
トイレットペーパーは
三角に折られていた
便器を囲む壁に取り付けられた
ベビー用の小椅子には
説明シールの絵が貼られ
腰を丸めておじぎ ....
棚の上に置かれた
小さい額の中は
去年の祖父の墓参り
過ぎた日の
こころの{ルビ咎=とが}を忘れたように
墓前で桜吹雪につつまれ
にっこり並ぶ
母と祖母
雲 ....
3日前に職場で腰を痛め
うずくまったまま動けず
車椅子に乗り
整形外科へ搬送され
9年目にして初めて
10日間の秋休み
今日も午前10時の朝食を終え
ほがらかな日のそそ ....
うつぶせに寝る
一週間分疲れたからだを
ほねつぎの先生は
大きい手の親指で
ぐぃっ ぐぃっ
とのばしてくれる
「 マッサージしてもらい
すじがのびると
....
{ルビ呑気=のんき}な仮面を被っていても
ほんとうは
わたしもあなたとおんなじように
ひとつの大きい影を背負って
流浪の旅路を歩いています
木造校舎の開いた窓に
手を振って ....
朝食をとるファーストフード
一年前はレジカウンターの向こうで
こまめに働いていた
君の姿の幻を
ぼんやりと夢見ている
その可愛らしさは
指についたシロップの味
今ここに ....
店内に置かれた
壊れた自転車の傍らに
しゃがんだ青年は
工具を握る
「 本屋さんはどこですか? 」
歩道を通るわたしの声に
こちらを見上げた青年の
汚れた頬に
....
緑の山の真中に
{ルビ白鷺=しらさぎ}が一羽枝にとまり
{ルビ毛繕=けづくろ}いをしている
曇り空に浮かぶ
青い空中ブランコに腰掛けた
わたしの眼下に敷かれた道を
無数の車は ....
居酒屋で
ビール片手に酔っ払い
まっ赤な顔して
柿ピーの一つひとつを
座敷畳の隅に並べ
目尻の下がった
頼りない
顔をつくる
「 なんだか俺みたいだなぁ・・・ 」
....
銀座の路地裏に入ると
色褪せた赤い{ルビ暖簾=のれん}に
四文字の
「 中 華 食 堂 」
がビル風にゆれていた
( がらら )
曇りガラスの戸を開くと
「 イラッ ....
松葉杖を
ついて歩く人を
追い越し
ふいに立ち止まり
背後を振り返る
その人のずっと後ろで
松葉杖をつくより
もっと不器用に
びっこを引く小さい姿は
あの頃のぼく ....
喪服で参列する
一人ひとりが
棺に横たわる亡骸へ
花を捧げるごとに
百歳の老婆の
寝顔はほころぶ
火葬場で焼かれる
老婆の百年
晩夏の
蝉の鳴声響く
....
日々の砂漠に
埋没された
わたしは一本の指
墓標のように立ちながら
指の腹にひろがる指紋は
いつからか
一つの瞳となり
遠くから荷物を背負い
こちらに向かって歩いて ....
路面に{ルビ陽炎=かげろう}ゆらめく
真夏の正午
長袖の作業着に
ヘルメットをかぶる
眼鏡のおじさんは
汗水たらし
鉄パイプを{ルビ担=かつ}ぐ
路面には
夏空 ....
路上に{ルビ棄=す}てられて
崩れた米の{ルビ塊=かたまり}
割れた破片のまま
空の雲を映す鏡
何事も無い顔で
わたしはそれらを通り過ぎる
遠く置き忘れた
砕 ....
{ルビ赤煉瓦=あかれんが}の橋を渡る
傘を差した婦人がうっすらと
遠ざかる面影映る
Cafeの窓
四角いテーブルの前には
文学館で偶然会った詩友が
詩について ....
ふいに
{ルビ痒=かゆ}くなった腕をかいたら
思いのほか
しろい爪は伸びていた
( 窓の外には風が吹き
( 緑の木々が
( 夢を{ルビ囁=ささや}く声がする
はた ....
窓辺の{ルビ日向=ひなた}に置かれた{ルビ壺=つぼ}は
ざらつく{ルビ表面=おもて}を
降りそそぐ日にあたためて
まあるい影を地に伸ばす
窓辺の日向に置かれた壺は
「何者か」の手 ....
終電前の
人もまばらなラーメン屋
少し狭いテーブルの向こうに
きゅっ と閉じた唇が
うれしそうな音をたて
幾すじもの麺をすいこむにつれ
僕のこころもすいこまれそう
....
空の曇った暗い日に
ざわめく森の木々に潜む
五月の怪しい緑の精は
幹から{ルビ朧=おぼろ}な顔を現し
無数の葉を天にひらく
わたしを囲む森に{ルビ佇=たたず}み
ベンチに ....
帰り道を歩いていたら
ぽとん
となにかが落ちたので
ふりかえった地面には
電池が一つ落ちていた
( 塀越しの小窓から
( 夕暮れの風に運ばれる
( 焼魚の匂 ....
夕暮れ
いつもの通学路で少年は
独り咲いている
紅い花をみつけた
家に帰り
父と別れた母に話すと
「 毎日水をおやりなさい 」
と言うので、次の日から
少年はいつも ....
「 生れ落ちた その日から
へんちくりんなこのかおで
わたしはわたしを{ルビ演=や}ってきた 」
という詩を老人ホームで朗読したら
輪になった、お年寄りの顔がほころんだ。 ....
遅刻すれすれの電車に駆け込み
腰を下ろしてほっと一息
気がつくと
握りしめた手のひらにささる
いつの間に伸びた爪
ふいに
携帯電話を取り出し
日付を見る
( ....
1 2 3