「 透明人間 」 
服部 剛

「 生れ落ちた その日から 
  へんちくりんなこのかおで 
  わたしはわたしをってきた 」 

という詩を老人ホームで朗読したら 
輪になった、お年寄りの顔がほころんだ。 

その夜11Cutに立ち寄って 
ばっさ ばっさ と髪を切り 
床に落ちた髪に敷きつめられ 
眼下が波打つ黒い海になるにつれ 

プロの手つきではさみを光らせる 
お洒落で爽やかなカリスマ美容師の兄ちゃんに 
ばっさ ばっさ と 
鏡に映る疲れた顔の「わたし自身」を 
切り落としてもらいたく 
なってくる 

日々の仕事にずっこけて 
惚れた女にゃ逃げられて 
気がつきゃいつも 
「 八 」の字眉毛 

あわれな自分を 
ばっさ ばっさ と切り落とし 
わたしのこころのかんじんなところのみを 
残してほしいと願いつつ・・・ 
・・・眠りに落ちたスクリーンに 
雪の並木道をきれいなひとと歩いてる 
ぺ・よんじゅん
に生まれ変わった夢を見る 


「 お客さん、終わりましたよ。」 


爽やかなカリスマ美容師の兄ちゃんの声に 
目を覚まして鏡を見ると 
そこには誰も、いなかった。 





  * 1連目は晴佐久昌英詩集「 だいじょうぶだよ 」の 
   「 そのまま このまま 」を参考に書きました。 

  * 11Cut・・・早くてうまい、美容院のチェーン店 








自由詩 「 透明人間 」  Copyright 服部 剛 2007-02-23 21:45:27
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