空の椅子
服部 剛

緑の山の真中に 
白鷺しらさぎが一羽枝にとまり 
毛繕けづくろいをしている 

曇り空に浮かぶ 
青い空中ブランコに腰掛けた 
わたしの眼下に敷かれた道を
無数の車は通り過ぎる  
遠い過日から 
遥かな明日へ 

背後の山の茂みに唄う 
弱りかけた蝉の独唱 

行方ゆくえもなく 
Tシャツの袖をかすめる 
初秋の風 

わたしはこうしていつまでも 
見えない糸に吊るされた 
青い空中ブランコに揺られ 
眼下の街の日常に 
時折雲間から覗く太陽のカメラが映写する
不器用な役者を演じる自分の物語を傍観しながら 
含み笑いを浮かべる 

口を開いて呆けた顔で 
右手に飲みかけのティーカップを 
かじかんだ左手に 
見えない(なにか)を持ち損ねたまま  

曇り空の真中で 
青い空中ブランコに腰掛け 
誰も知らない心を繕う 





自由詩 空の椅子 Copyright 服部 剛 2007-09-09 12:20:10
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