えんじ色の椅子が整然と備え付けられた区民会館の端の席に、太一はめったに袖を通さない濃紺のスーツを着けて座っている。成人式らしく客席にはあでやかな色の和服を着付けた同世代の娘たちも目につく。館内禁煙と ....
春の朧には
狼の遠吠えが聞こえる
黄身を崩した
蒼い朧月に
マンションの屋上から
屋根の上から
銭湯の煙突から
ああほら
またも
遠吠えが聞こ ....
ある日見た空に
飛行機雲が白くひかれていて
それが矢印のように思えました
きっとそんなところにもきっかけはあって
感じたままを力の向きに
見上げるその
角度にも
だから
....
「まいやふ〜って曲があるじゃない? 」
「まいやひ〜だろ」
「違うのよ、まいやふ〜まいやひ〜まいやほ〜……」
「どうだっていいけど、それがどうしたの?」
「ん、なんかね。まいやふ〜っていいなと ....
ことばは
すべて
呪文
だから
口から
音になって
発せられると同時に
指先から
文字になって
記されると同時に
それは
すべて
呪いになる
....
ここに書き込むのは初めてです、フユナですコンバンハ。
「消えてしまいたい」というこの題名に惹かれた方に読んで欲しくて、
今日の自サイトから日記を転載したものです。
不幸自慢だと思われてしまうかも ....
想像してごらん暇な一日を
何もすることがないことに
自由を感じるのだろうか
想像してごらん暇な一日を
誰とも話すことがないことに
幸福を感じるのだろうか
想像してごらん暇な一日を
....
カーブミラーの中に
今日のエンディングが流れた
橙色のスクリーンにのぼってゆく
僕が発した言葉達
明日へ行けない言葉は
電線にひっかかって
澄み切った空を台無しにする
悔いることもできず ....
外に出ない 誰にも会わない 暗い部屋
夜闇の波に揺れて
わたしの海は広さをなくす
いったい何が不安なのかと
ひとつひとつ問いかけてくる波に
ひとつも答えることもなく
わたしはひとり揺れている
「あ」から ....
豚の目を{ルビ解=バラ}した
肉付きの眼球が二十個 並んで此方をみている
父にもらった手術用の手袋を嵌めて 一つ 掌に置く
冷たかった
どこまでも 質感は在った
メスによく似た鋏を ....
学芸会でぼくは
ぼくのお母さんを演じた。
ぼくの演じたお母さんは絶賛された。
でっぷり太っているが清潔である。
石鹸の匂いはしないが朝ごはんの匂いがする。
ぼくの間違えた答案を間違え方が ....
{引用=私と奴は 僕と奴は
お世辞にも お世辞にも
仲良しとは言えなかった 仲良しとは言えなかった ....
お酒を飲むと
むかしは
食道から火がついたように流れ込み
身体じゅう燃えたようになったのに
いまは
まるで水のよう
そうやって
何杯もやっていると
目が回ってくる
すまし顔じゃい ....
動物園でペンギンを眺めていたら
一羽のペンギンが
小さい羽をぱたつかせ
しきりに何かをうったえてきた
けれど僕には
ペンギンの言葉がわからない
それが通じたのか
ペンギンは淋しそ ....
眠りたくとも眠れません
時間をつぶす術を忘れてしまいました
眠りたくとも眠れません
明日は用事があるというのに
眠りたくとも眠れません
飼い猫は気持ちよさげにねてい ....
ねえねえ と よびかける妻の声に
ふりかえってみると そこに熊がいて
つぶらな瞳で ぼくを見つめている
月9って何チャンネルだったっけ と
テレビのリモコン片手に熊が訊く
おどろいて ....
何時ものように口ずさんだ歌は
受けとめてくれるはずの
君の笑顔をすり抜け
秋の日の溜め息となる
少し言い過ぎたのかな
でも一度口にした言葉は
もう取り消せなくて
気まずい思いを残 ....
今は
音が いい
ことばも
色も
かたちも
いらない
今は
音が いい
俳優だった夫は
有名なSF映画の主役で
宇宙飛行士の卵を
何人も産んだ
男の貴方も子供が産めたのね
と
からかうと
真面目な顔で
これからも励みます
と
言い返した ....
都営三田線巣鴨駅から十数分歩いて滝野川に近い庚申塚の駅に行き、そこから巣鴨新田寄りに都電の線路沿いをいくと彼女の部屋があった。本当はもっと早く行ける道があるのだが、都電──それも、リニューアルされて ....
その一行が消息を絶って、もう十年が経とうとしている。
彼らはシルクロードのオアシスの街で忽然とその姿を消した。一行を率いていたのは、私のかつての仕事仲間で、彼は日頃からいつ消えてもおかしくない雰 ....
季節にはまるで関係のない温度に
振り回されていた僕は
全てを吐き出せる場所を
作ることにした
それは近所のスーパー「オオゼキ」の店先に
特価980円で売っていた
....
たぶん
「疲れた」という言葉を使いはじめてから
ずっと私は疲れてるんだろう
「疲れた」という言葉に取り憑かれて
幾久しく
思い込みの疲れ
思い込みの元気
いったいどっちが本当なの ....
インターホンが壊れてしまって
不在票ばかり、溜まってゆく
ドアをノックする手を
誰も持たない
再配達を
今日は頼んだから、
夕暮れにつづく時刻に
言い訳を抱えて
ドアの内側に寄 ....
いくじなしです
ぼくはいくじなしです
あなたへの想いに
両手も
ポケットも
鞄も
引き出しも
ロッカーも
口の中まで
いっぱいだというのに
....
俺はあの女が嫌いだった
あの女も俺が嫌いだった
あの女は俺のダチが愛した奴だった
【手向け】−骨−
ダチが死んだ
唖然とした
初めての喪服は
急すぎて買う ....
時代と針金に固められた空から
唄と火薬に燃やされる海へ
魚群 この二文字の内側で
そうか もう僕には翼がない そうか
潮に退屈した鯨が暴れて
街を乗せた船が揺れて
....
てらてらひかる 満月の夜
年老いたゾウは 檻の外を見ている
外はすっかり 秋の装いだ
どおりで最近 足の筋がしくしく いたむわけ
長いはなで 鉄柵に触れ
静かに眼を 閉じてい ....
何かが焦げたような臭いがする
最初に気づいたのは
たったひとりの 男だった
どこにでもいるようでいて
どこにもいないような
若いひとりの 男だった
男は狂っていたのだろう
その臭いに鼻を ....
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