脇目も振らずに走ってきたよ
余所見をしている余裕はなかった
家と会社を往復するだけの毎日
ケースに入れたままのギター
若者の音楽を受け付けなくなって
大好きな歌も歌えなくなっていた
....
樹木の恥じらいが小鳥の逢瀬を覆う頃
光を浴びてあなた
光を断って歩き
文字から浮き立つイメージのように
境界を越えて往く
今朝の雫にふるえながら幼さを脱いだ
蝶のように 華やぎながら
― ....
たましいが
夜に錆びたぶらんこのように鳴っている
どこへいったの ねぇ わたしの半身たち
あざの浮かんだ あなた
詩を書くのがじょうずだった あなた
半身がふたり 抜け落ちた わたし ....
台所の窓辺に
葱だけが青々と伸びている
ほかの葉っぱたちは項垂れて
もう死にますと言わんばかり
葱だけが青く真っすぐ伸びて
葱好きではないけれど
すこし
刻んでみたくなり
ぱらりと ....
きのうの猫のぬくもりや
おとついの雨のつめたさや
ずっと前
ぼくができたてだったころ
たくさんの小さな人が
かわるがわる座ってゆく
にぎやかさや
お腹の大きな女の人のついた
深 ....
それはひとつの水だった
ある日流れるようにわたしに注ぎ込んだ
それはひとつの風だった
吹き過ぎてなお心を揺さぶるのは
少女は春の花を摘む
長い髪を肩に垂らし何にも乱されることもなく
....
りんごの木の枝に
とまっているのは
葉っぱかそれとも
飛ぶ小鳥
りんごの木の枝に
とまっているように見えるのは
冬の間に吹雪にまかれ
梢近くの枝に刺された
ぼろぼろ ....
月の町には丸い月のしずかなあかりが射していて、住むのは齢三十をこえた少女ばかりだ。
つねに満月夜、手入れのゆきとどかぬぼろぼろの町並み、つかずはなれずに点在する住居は、彼女たちのそれぞれのこだわ ....
光りが僕の身体を切り取り地面に張り付ける
重力に引っ張られ立ち上がることはない
そこにいなさいと蟻が行進する
夕日が沈み影が消えてしまって
もうそこには僕はいない
缶蹴りの音だけは
....
温泉たまご並みだ
チュンしか言わない雀の喧嘩だ
スノードームだ
死の灰の乱反射だ
おしりが視線を放してくれないのは
即興画家のせいだ
占いみたいに水膨れて
ゆ ....
冷凍フライドポテトを油で揚げる
わぁお店のみたい
美味しいね
なんだかとても評判がいい
ちょっと複雑
前にもこんなことがあったっけ
いつもは手作りするマーボー豆腐だけど
レトルトマーボー ....
四月に
雪が降ることが
当たり前になった時代から
四月に
雪が降ることが
特別だった時代に戻って
残された音楽を聴きながら
振り向かない背中を
眺めている
届かない指先なら
も ....
雨の幕間に耳目を伏して
乾いた水脈を手繰るように
生命の中核へ
堅い樹皮を穿つように
かつて滾り迸ったもの
跡形もなく
洞に ただ
ぬるく饐えた匂い
記憶――暗愚な夜
....
ないめん深海のポールにぶら下がって
千代田線直通
れいてんかえさるは
まいしくるのまいしくる
点景はばつぐん
かかるGで呼吸するいきものたちよ
幸あれ
夕暮れ時の薄いブルーたちよ
腸の ....
あなたはわたしのなかにいる
あなたの肌にはその日になると
青や緑の痣が浮かぶのだと
教えてくれた
うごかない左腕で
必死に笑ってた
じっと見つめるとちからのぬけた顔になった
それ ....
人間の涙は邪悪そのもの
馬の涙は純粋そのもの
おお!人類よ、願わくば馬のように涙を流せ
ももももももも、燃える黄金の馬よ!
燃える、黄金の、盲いたる、馬よ!
太陽に向かって一直線に疾 ....
行き先のないお前の虚像
とどまることを知らない水
不器用に溢れるのを忘れて
拒絶された命の河に埋もれる
沈んだ肌を撫で
冷たい手を取り出す
無数のお前が揺らめき
苦しみと愛しさを唱う ....
竹の子の皮には
小さな産毛が生えていて
まるで針のよう
はがすごとにちくちくする
皮の巻き方は
妊婦の腹帯のように
みっしりと折り重なっていて
はがされたとたんに
くるりと丸くなる
....
飲み込んだ言葉が
胸にわだかまりの
どろりとした沼を作る
沼の中で
人に見捨てられ大きくなった亀が
悠々と泳いでいる
よく見ると
子どもを食ってふくれた金魚の尾が
ひらりひらり
....
やっと夜が訪れた
昼日中の肉の激痛修まって
静けさに 魂漂う 夜の深み
はっきりと
感じるのだ、自らの
奥底に未だ燃え盛る
生きる意志を魂を
やっと夜が訪れた
昼日中の肉の激痛 ....
桜のように咲いて桜のように散った
そう言いたいのか
生きてさえいれば何度でも桜は咲くのに
敗けても焼けても国は残り桜は咲くのに
桜花よ
秘匿のために付けられたというその名
....
それぞれの詩人にはそれぞれの言葉の個人史がある。詩の中で用いる言葉は、かつてどこかで自分が書いた別の詩の中でも固有の位置を占めていたものである。例えば「水」という言葉をかつて別の作品で用いたとする。 ....
あなたの傘は
少し小さく
私は少し
はみ出してしまう
私は誰かの
傘を求める
心地よい
雨音を聞く
あなたの傘は
同じ角度で
いつでも
そこに咲いている
私は ....
夜あるくにはこわい道だった
夜桜は昼よりも白くて
ふたりの歩幅はうそをついていた
お葬式のような桜のぼんぼり
好きだとはとても言いだせなかった
血を流したところを抱き締め ....
駅が燃えている
交通量を燃料として
絶対零度で燃えている
構内放送はいつも通りに
列車の運行を伝え
人々は隙間の時間を通り抜ける
駅は青白く燃えている
そして即座にたち消える
....
きのうつぼみだったあの子が
今日はもう咲いているね
満開になって
散ってゆくね
みおくるかなしさで
こわれてしまわないよう
みんなで別れをおしんでいる
はなやかなお葬式
淡いピ ....
その坂は四季をつうじてみどりにうねっている。
脇のブロックには苔や羊歯がびっしりとはえていて、上にはつねに葉がそよいでいる。
春夏にはきみどりが目にしみて鳥がさえずり、通る風はすっきり澄みきってい ....
大陸より大きな曇が
森のなかの
ただひとつ倒れた樹を見つめる
川に映る 自身を見つめる
横切る音が雨になり
小さなものを剥がす音が光になる
誰もいない国を過ぎる時
....
詩よりも素敵な端正な言葉を
音律にのせて
たとえばジャニスは疎外をブルースにして
もうひとりのジャニスはこころの陰影をうたにする
ジムはロックの神になり
もうひとりのジムは瓶のなかの ....
コーヒーをかき混ぜるとスプーンが何かに触れた
すくい上げると 懐かしい腕時計
そっと指でつまんで 見る――当然死んでいると思ったが
――蘇生するような
秒針の震え!
....
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