濡れ髪と匂い立つ夜に猫の恋
沈丁の香にしのんで肌を舐め
海明にうかべる白い朝と夢
曇天。呼び出しに答え、すぐに放り出されたあと、ひとりで水族館へいく。
締め切り時間間際にくぐるゲート。入ったあとすぐに、うしろでシャッターが閉まる音。
館内は暗く、ごく控えめな音量で歌詞のない ....
海にでる  列車は
これでさいごだよ
指をさす老婆の皮膚は
ひびわれて
海へ
願った
最初のことばだけを
かばんにつめて
ふるえていた
かきかえられた地図と
....
手が
こんなにつめたいから
準備ができません
気をつけていないと
死んでしまいそうです
中指だけ
爪がとれています
あしたの朝には
何かを知っていたい
暖房器具を
買いにいくと ....
浅い日だまりが
いってん はぐれて
そこだけが
闇のようになった
おいつけないままで
見つめている
春の日の
少年のような
はずかしいことや
はしたないことを
たくさんしてきて
じゃあ今からなにか新しいことを
と
思ったときに
なんだかひどく
疲れてしまったなと
思った
スカトロジーは愛と同義だ
....
24歳になって、ええと、17日、が経ちました
世界に参加しはじめてからは、ええと6年と5ヶ月目です(いまかぞえた)
わたしのなかに16歳と、7歳と、24歳と、42歳がいます。
女なら ....
言わなくちゃならないのだろうか
なにひとつ
愛していないと
こんな
愛だらけの
世界に
言うべきことは
みんな言ってしまった
あげるものも
みんなあげてしまった
ま上では
曇天が
甘ったるく
張りさけている
見あげても
見さげても
灰色がつづく
ゲームに勝って
一年ぶんの
時間をもらい
一年
すごしてみるが
はたしてそれが
どういうことなのか
勝つということは
何なのか
浮遊する時間は
ほかの
「時間」
と
....
手のひらに
つかむと
すこし音がしたが
死骸が
おそろしく
にぎったまま
眠ってしまった
おきると
部屋じゅうに
重たい光が
あふれている
昨年の大震災以降の、日本における「共有化」というのか、共有観というのか、そういうものがちょっと異常になってきているように感じる。
あの日わたしは関西にいて、テレビがどのチャンネルもばたばたと ....
あわ立てたミルク
窒息死
外れた戸から
ぬれたぜつぼうが
はいってくる
あたらしいかたちに明けた一日を 一日かけて同色に塗る
泥を舐め
「生活」の遠さに
かなしみを忘れる
拾い上げた空に
青い絵の具が
べったり
逃げてはいけない
戦ってもいけない
忘れても
いけない
そのなかで
見上げる空に ....
望むと、かなしい気持ちになってしまう。なぜだろう。薄っぺらい胸を、うさぎがつきぬけていった。龍のかたちにはりさけていた。
わらうには、虚勢を張るしかないのだ。
ずいぶん遠くまで来た。でも、 ....
それじゃあ始めます という声がして無意味がはじまる。それは声を骨組みにしてだんだんと形作られていく部屋で、うす桃色の人々が肉をつけていく。私は、あ、だめだ、ストッキングが伝線しているから生活に帰り ....
あたしばかだから
と言って
わらっていた
女の子
あたしばかだから
と言っても
泣きはしなかった
あたしばかだから
いっぱい考えるの
と言って
わらっていた
水たまり ....
なんの気なしに
好きだといったら
なんの気なしに
好きだと返され
空に
青がみたされるように
しぜんと
おわってしまった
おきぬけに
大事なことを思いだし
顔をあらって
みつめようとするけれども
それはもうそこにはなく
かわりに
まずい水を
飲み干さなければならない
半年ぶりにかえった家はおどろくほど暖かく(ガス・ストーブをいれたの、と母)、慣れない匂いがした。住人が減り、それとちょうど反比例するように増えていく飾られる写真。
ウエディング・ドレスを着る。い ....
うたは
くちびるからうまれる
のではなく
こぼれるだけ
うたは
じぶんが
出でるべきくちびるを
じぶんでえらんでいる
うたをうたっていると
思い込んでいるひとの
なんと ....
空が遠いと泣くひと
水たまりをあげるよ
すきな分だけ閉じこめておいで
泣いたあとで
わらう頬にさす風柔らかく
これ以上なにがいるだろう
それでも
手をのばすと
そらはゆれて ....
右あし二回
ターン
左で三歩
それは
すばらしい
が
わたしには
みこすり半にしか
みえない
誕生日に
夜景とシャンパン
精子くさい
演出
おまえら
もしか ....
かれは出てゆき
ドアーはしまった
それと同時に
わたしが
世界のすべてから
締めだされた
ドアノブを触ってくれませんか
と
わたしは書く
うす鼠色のペンで
ドアノブ ....
しゃくなげの苗が売られている。
その名まえは冬に教えてもらった。だからしゃくなげが、あんなふうな、つつじのお化けみたいな花なんだっていうのを知ったのはずっとあとになってだった。だって、これは ....
うたうたいがうたうゆうぐれたいがんでたゆたううたがうたわれるゆう
(唄うたいが歌う夕暮れ対岸で揺蕩う唄が歌われる夕)
へやじゅうに散らばるこまかいつぶを一つぶずつ拾いあつめ
へやの
左がわにもっていき
さいごの一つぶを左がわに置いたところで
いちばん左がわの一つぶから
右がわへ
もっていく
死ぬまで ....
あるだけの星をあつめて飾る身をうかべる水は暗く濁って
強くなる光をまともに受け止めてだんだん薄くなる子どもたち
きのうちょっと
恋をしたので
時計ふたまわりぶん眠ってしまった
目がさめたら誰もいなくて
かけっぱなしのCDがくるくる
晴れてかたむいた空に冬がうかんでさ
眠った汗がはりついて ....
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