すいぶんありふれた場所まできてしまった
ふりむけば怠惰に崩れた愛がみえる
いまや恋心は
あまい雨雲になって
なんとなくふたりを覆っている
雨がふれば
わたしもあなたも
木々も ....
季節が
ずい分かわってしまって
空はかなしい
部屋のなかには
あなたにあげられなかったものばかり
散らばって
真ん中に
あなたのかたちの不在がのこる
扉のむこうはひかっ ....
わたしは
とてもつよくて
いつかは泣いたりできると
おもっていた
花は咲いていたし
空は青かった ような気がする
でも、よくわからずに
ただ
立っていた
お気にいりを
....
友人からのながい電話を受けていると、耳もとで言葉がばら、ばら、と雑音のように崩れていく。夜。夫は仕事のあとに飲み会があると連絡をくれた。冷めてしまったスープ、かたくなったパン。きのうやっと出してきた、 ....
八年前から
八年が経ちました
八年
長いのか短いのかわからない
どこまでいってもおなじなのかもしれない
けれど、
わたしを支配しているものはもうすでに、
あきらめだけではなくなっ ....
生きているのは
はずかしいね
まいにち影が
伸びてゆく
生きていくのは
はずかしいね
手をつないでくれたら
一緒に死んであげる
ひとを殺さないことが
ふつうだとおもっていた
愛とか夢を
良きものだとおしえられて
ほんとうのことは
いつも
だれも
しれない
ひとを殺さないことが
ふつうだとおもってい ....
なけなしの力で振り払うことができたのは小さな羽虫一匹
あなたの
向い側で
点滅するような表情を
じっと見つめていた
愛しいのか
悲しいのか
ずいぶん前に
わからなくなってしまった
触れたいのか
こわいのか
わからなくな ....
数えることばかりで
月はすっかり濁ってしまった
いとしいものばかりで
夜は明るくなりすぎた
これからは
もっとたくさん
ひとを傷つけよう
もう
それでしか
眠ることさ ....
名づけるまえに死んでしまった気持ちを
どこへ埋めたらよいのかわからないまま
うろうろと抱いている
つめたくもあたたかくもない気持ちを抱きかかえ
柔らかそうなほうへ
立ち止まること ....
おはじきを一列にならべたような夜
目をさませば君がいない
悪い夢をみている
はやく夢を閉じて
ふたりで色をならべよう
疲れはてて
そして、
それからどんな夢を見よう
歌いたくても歌えないよる
うたうたいは血と指で絵を描く
石のうえに
詠みたくても詠めないよる
詩人は枝をうちならす
懐かしいリズムで
描きたくても描けないよる
絵かきは文字を ....
痣のある朝に
カーテンをゆらし
重たい気持ちに
重たいからだがぶら下がっている
開封されない手紙の束が
いまにも崩れ落ちそうで
崩れ落ちない
ずっと
ささやきは
一昼夜経つと酸化して
腐った猫の色になる
夜でもなく
朝でもなく
シャワールームでささやいて
悲しいことも
愛しいことも
流れる色にするために
シャワール ....
降りだしそうで
乾いたままの
空をなぞって
こんな日に
泣くのには
意味があるのよ
誰かが
たおれないと
世界がおわってしまう
そう言って
きれいに笑っている
き ....
ちいさながじゅまるの鉢植えを夫が買ってくれた。土曜日、駅のよこにある小さな、閉店間ぎわの花屋で。つめたくて、青い、「2」という数字がかたどられた陶器に入っている。
植物の方が、動物よりもなじ ....
さいきんは
いつも二つ夢をみる
朝と晩にひとつずつ
きまって蒼白いかおをして
どこか寒い場所で赤を抱えている
ふるえて
昼間には
夢をみない
昼間には
どろどろの
....
ふたつの色の丸が見えると
きみはしずかに笑いはじめる
先端のなくなった世界で
分厚い空気をくぐり
人びとが屋根をたたみだす
鳥が
まっさかさまに飛びだしてゆくと
いよいよきみ ....
夏よりも冬のほうが好き。冬が終わるときはなんとなくさびしい気持ちになるけれど、夏が終わるときにはいつも少しうきうきしてしまう。
ただ好きというのと得意というのはやっぱり少しちがっていて、色々なも ....
こどもだ
というだけで
みじめだった
おんなが
おんなだ
というだけで
蔑まれるのは
道理か
どのみち
ここへ着くだろう
どのみちをとおっても
おんなへ
着いただろ ....
さんざん笑ったあとで
壁はつめたく白く
空はかたむいて灰色だ
さんざん笑ったあとで
どこへも行かれずに
手をのばしては
見知らぬ肌をさがしている
なにひとつ最後までは
寄りそいきれなかったわたしに
あなたがいつものように笑いかけるとき
許しが
どれほど無意味なことかを知ります
あらゆるものが
どれほど無意味なことかを
....
くちの中が腫れて
ぎゅっと膿をしぼる
吐きだしていまいましいものは
いつもいつも私自身だったものだ
欠けている月をみれば
前髪が伸びたあなたを思いだす
あと何日かすれば
あなたの笑うのとおんなし角度に月がわらう
あんなに
やさしげではなかったけど
信じられない、と言うのが聞こえたあとにもう一度信じられない、と言うのが聞こえたので私は礫(つぶて)になってしまった。弾けて路傍。鮮やかなつま先であなたが私を蹴り上げる。信じられないと言う声がまだ胸 ....
なにかの腹いせに
捨てるように蒔いた種が
季節を無視して咲きはじめる
かみなりのなる夜に
濡れながら
裏切るように白く
うすべったい花びらが
いっせいに
いつまでも
あな ....
このまま朝も夜もなく愛し合って死なない?世界じゅうの時計の針を盗んでしまわない?ねえ大事な話をしているのにスープにラムを入れるのはやめてくれない?靴下が左右違うんじゃない?些細な問題にとらわれすぎなん ....
潤みながら飢えている目は
風の日に飛べそうで叩きつけられた原理と似ている
美しくなったら会いに行くわと言う恋人のために用意した指輪は痩せすぎた彼女の指から抜け落ちて朝が来ない
朝は来ない ....
こんなふうに甘い曇りの日には
痩せた烏賊が空で迷子になる
びっちりしたネオンの前で驚いてしまったら
うちへおいで
どこへも行かないから
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