僕らは出会った
地上から空を見上げる
距離でしかなかった
そんな僕らが
とても遠いところから
生まれてきたような
そんな僕らが
買ったばかりのノート
一ページ分にも ....
蛇口をひねると
水の流れる音がして
母の声が聞こえる
何を言ってるのかわからないのに
それは声であることがわかる
蛇口をしめると
母の声は止む
雫が数滴零れると
泣いて ....
雨音の中に声が聞こえる
川のせせらぎの中にも声が聞こえる
やがてそれらは
おまえの声になって
わたしの隣に立っている
雨が止んだら歩いてゆこう
おまえは声を発しない ....
手をつなぐと
僕らはまた
別な生きものになっていた
それは家族だったり
友情だったり
恋だったり
そんな名前で
手をつなぐ
生きものは呼ばれていた
ここには
....
扉がひとつあった
父さんの扉だ
厳重に施錠されてるので
誰も開けることはできない
父さんの少年時代のことは
聞けば話してくれるだろう
けれども僕は聞かない
なんとなく照れくさ ....
涙は流れ続けた
僕らの頬や
そうでないところを
やがて涙が川になると
一人の少年を飲み込んだ
凍える夜の川底から
母さんを呼び続けていた
僕らの知らないところから
悲しいニ ....
生きてるふりをするから
たくさん汗をかく
汗をかいたら洗濯するから
それ以外に選択できない私たちは
命の匂いを消し去って
また生きてるふりをする
たくさん汗をかく
海のような ....
上ってきた階段は
そこで途切れていたけれど
僕らはもっと
上らなければならないので
一段ずつ階段を
作らなければならなかった
家に帰れば
君も一段作り終えてる
翌朝には ....
機械の少年は
機械の少女に会った
機械のように恋をして
装置のように結婚して
遠く秋の空を眺めると
肌が乾いて懐かしい
あれは春だったのだ
二人はそう思うと
子供が一人
....
ふとわたしはある予感がして
お風呂場へ走ってゆく
扉を開ければ片隅にいる
たわしは新しいたわしに
買いかえられていた
お風呂掃除係のわたしに
ぼろぼろになるまで付き合ってく ....
かつて古きよき友人がいた
というような
そんな時代でもないらしい
人は大きなしくみに組み込まれ
わたしとあなたとの
小さな友情もまた
しくみに違いはなかったけど
この人と ....
箱にはたくさんの
記憶の残骸や
体の部品などが納められていて
私もいつか配達される
何が入ってるかは
その時にならなければわからない
きっと箱の中には
懐かしくて
壊 ....
健康診断の結果
肺に小さな影がありますと書かれていた
早く再検査に行きたかったけど
仕事も忙しくて
時々そのことを思い出しては忘れ
思い出すと泣きたくなる夜もあった
実際泣いた ....
トランプ遊びしてる
息子とカルタで
きっと何か間違えてる
けれどもそれは
それで楽しい
ためしに
どっちが勝ってるの?
と息子に尋ねると
嬉しい
とだけ答える
....
とても高いところから
飛び降りていたなんて知らなかった
飛び降りていた自覚もないのに
それこそが生きてる証だった
飛び降りながら僕らは
顔を見つめ合い皮膚などに触れた
泣い ....
湯舟に浸かると
そこは港
ゆっくり岸を離れてゆく
目を瞑れば見えてくる
この世にひとつだけの海を
満天の星々を頼りに
湯舟はどこまでも行く
扉が開く音がして
お風呂 ....
玉葱のにおいがしている
玉葱が匂いになって
何かしている
夏祭り
まだ日は高く
午前中のうちに宿題を終えた
小学生たちが集い
がまん大会に参加する
冷水が満たされた青い ....
平行線の夜
交わることのない
夢と夢
眠りは静かに
明け方にたどり着くまで
光の速度で
目覚めると
あなたがそこにいる
朝日を浴びる
わたしのように
二億光 ....
一つの時代が終わることを
想像もしないまま
わたしは一つの時代に育まれ
育んでくれたいくつかの人たちは
死んでいった
あの一つの時代が
今も変わらず続いていたならば
わた ....
夜が青く明けてゆく頃
除雪車の音が聞こえている
ひとつの戦争のように
降り積もる雪を魂に置き換えて
作業は続く
まどろむ真冬の月の目は
わたしたちと同じ
出来事だけを音で ....
春の影が歩いている
人のふりをして
わたしのふりをして
わたしが振り返ると
影も振り返る
いったいどんな過去を
振り返りたかったと言うのか
影は
わたし以外に知らな ....
キリンのように
長い首だったので
保育園の先生を
キリン先生と呼んでいた
心の中でも同じように
お友だちはみな
そう思っていたらしくて
ある日お友だちの誰かが
キリン先生 ....
象が海を渡っていく
かわいそうに
目が見えないのだ
かわいそうに
と人は言うけれど
思ってもいないことを
言葉にしてしまう
人もまた十分かわいそうだった
かわいそうに
何度も言 ....
始発のバスに乗ると
一人でどうしたの
と尋ねるので
怪我をして病院に通ってることを
運転手さんに話した
発車時間が近づくと
大人がたくさん
バスに乗り込んできた
知らない ....
戦争が終わらない
真夜中は
戦争を始めるため
回避するため
会議室で行われている
夜更け
戦争のための戦争は
繁華街に移行され
朝まで続く
眠らない街に
灰になって積もっ ....
石になると
夢を見ている
霧の生地になって
触れることしか出来ない
君の海が溢れ出すところ
水の世界は壊されて
生まれることを繰り返している
蛍だった頃
わたしは声を聞いていた ....
わが家にも念願の街が出来た
これからは部屋の名前を
町名で呼ばなければならない
陽だまりヶ丘一丁目
そこに僕がいる
居間の窓際の辺りだ
二丁目から三丁目
キッチンが見える街まで ....
まだ顔を知らない
姉からの手紙が届く
意識だけの
わたしはまだ
返事が書けない
体を持たないから
真夜中
母に触れたがる
父を感じる
わたしの命のはじまり
いくつ ....
死んだ後のことばかり
考えている
それでひ孫が救われるのなら
構わないけれど
変わらなければ
と心に決めて
決めているふりをしてる
自分が嫌い
昨日と違う空を見上げたら
昨 ....
消しゴムで消してしまうと
虹が出来てしまうから
それ以上描けなかった
あなたの顔は
スケッチブックの上で
雨後のように濡れていて
小さな水溜りにある黒子は
ゆらゆら揺れながら
....
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