方形のネイビー {ルビ夕布=ゆうぬの}に包み
ガソリン 尽きそうな軽自動車に
挟まり 岩屑 染みた海岸 転がり
闇の 端を すこし 三角に 切り取り
{ルビ憂=う} ....
戯れに
たまを投げ
くれないの崖
に、蜥蜴たちが{ルビ円=まる}
い、女らから、嵩張る
ち、をさそわれ、しらないまちの
下水管にしたたっている師走の月の ....
セメント塗れの蒼い平面 の
縦縞の檻のようなカヴァー を
剥いで、{ルビ酸漿=ほおずき}の実とともに
疲労のような、風らしき、
映るものたちの揺らぎ
を
....
物陰にひそんでいる、一頭の
動きののろい獣をみつめるみたいに
流れているのだろうか、ぼくにとって
あの時間もこの時間もどの時間も?
不揃いの靴たちの
....
硬質な
紙片ではない
タクシー
そして
という語の
尻だけを追って
山猫
観葉植物としての
わたしは
遣られている水の ....
蓬色の夜、
つぶれた{ルビ褥=しとね}に居て
夥しい数の接続詞らが
わたしの躰の至るところで
いっせいに哄笑をはじめたので
何か 訳のわからない一塊の
....
踊る、ひとすじの腕よ
紺色の波濤となれ
ロウリン、
ロオリン
ちいさく かたく
畳まれたままの
つばめたちの
眼
の
影
Lの音が一つ
皿に一つ載った
まもなくあなたの
肺のあたりに茂る森へと
死のような霜が降りる
尖る、Sの音が
折れまがった 裸体の
女たち ....
水のうえをすべりながら
静かにわたしは時計を棄てた
鴨の影が散らばり
夕日をよごすのを見たから
このうえもなくかなしく思ったから
しろいつららが
落ちてきそうで 落ちてこない午後
まぬけな顔で 口をあけて
なんの涙か 涙さえうかべて
あなたがその 錆びた屋根をみている
ぼ ....
しろい板の上に
まばらに わたしたちは穿たれ
見つめていた 雨だれが いつの間にか
うすぐらい煙に変わっていくのを見ていた
わすれていった 哀しみもいつしか 草叢の ....
夢のかこいは
{ルビ菖蒲=しょうぶ}のながい影に飾られ
また、{ルビ蕩=とろ}けた夢のよう
わたしたちは 遊ぶ
いつまでもあそぶ
るらる、るる
りりる ....
辛抱づよく 壁を背にし
紺いろの布巾をみつめている
とじた唇のなかで くちづけの記憶が
解かれた積荷のようにころがっているが
やがて堰き止められる
いずれ壊れ ....
翼をゆるされたとき
わたしたちに空はなかった
あおい 哀しみのかたまりが
遠い 海のうえに浮かぶだけで
いつか わたしたちの何もかもが
優しげ ....
ペンシル 一つぶんの
沈黙が 突っ立っている野
ことし二度目の雪が敷かれる
蛇と蛇と蛇と蛇と蛇と蛇と蛇と蛇が
それと蛇と蛇と蛇と蛇と蛇と蛇と蛇が
わたしたち ....
おまえがはいっていた容器の
蓋のうえに丸い芋が置かれ
あとひとつなにかあれば
あればいいが、何故か
都合よくいかない
お古みたいな
冬のさむさ
或る糸が……否、
生温い 呼気に似た
細ながく冷たい白さが
頭上から垂れてくるのを
待っている……夜に、私は
その影が たとえば ツルリとした
薬缶のお ....
木陰に座り
目をとじたまま
わたしは笑いたかった
あなたが居なくなったあと
透明な礫の群れが
わたしを通りすぎていく
躰を 穴だらけにしなが ....
筆で 塗られただけのような
柔らかい柱が 幾つか
にゅんにゅんしなっている下を
女たちは 明日、
征くだろう 群れを成し
綿埃の絡まった 長い髪をし
く ....
私は死にます
毛羽立った蜘蛛猿を
折りたたみ、鞄に詰め
雨降りの後の細い小路を
私は気軽に駆けていきます
お元気で
どうか、お元気で。
秋晴れの
空に、境界線
……らしきものが浮遊している
長いのも短いのも 互いに絡まり合って
私は 時期外れの薄着をはおり
アイスクリームを食べながら人 ....
おまえの
黒い頭蓋のなかで
やわらかい緑色の犬が湿っていく
(今、それは
事実だ)
裸の男が
岩をかかえ
緑色になっていく
渚は
ほそく長く続く
多くの声や
魂にまみれては
かなしむ
枠のようなものを抱いて
螺子になっておまえは眠る
雪深い夢のなかで
猫が落ちる
(割れる)
そうして
おまえも廻っていく
....
ながい階段が その夜
わたしの内に滑らかに延び
喉の辺りで途切れていた
笑えるほどにせせこましい
悲しみなど疾うの昔に
桃色の床で何者かに
踏み ....
路傍 交互に置かれた
赤の花壇と
黄の花壇の
白昼夢のごとき列……
萎れた頭陀袋に差しこんだ後
引き抜いたあなたの腕には
柔らかな歯型が残された
....
把手こそついていたが
その壁は 扉ではなかった
今のわたしにはそれがわかる
たわわな果実のように 美しい 直方体の
寂寥だけが 向こう側の 壁際に置かれている
....
玩具は既に壊れており
木張りの床に見棄てられていた
夕陽から親しげな香りが溢れ、
窓辺に置いた花瓶に纏わりつく
私たちは 壊れていた 跡形もなく
{ルビ抑=そ ....
山道の草木を横切る
ギンヤンマの蒼い複眼に
私たちの過去が沈んでおり
どうやら今も放熱を続けている
遠く 手放してしまったものも
未だ近く 触れられるものも
....
わたしは座る
青空がゆれている
かなしいという言葉がなぜか
小さな虫みたいに空気をうめていく
なつかしい歌を思いだして
気持ちだけが静かになっていく
....
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