「山はいい」と誰かがいった
笹薮を掻き分けると湖があった
あのエメラルドグリーンはまるで、と
吸い込まれそうになっていると
くわっと巨大な目になった
{引用=あれはいつか ....
悲しい歌を忘れられない
あなたがいつか手をのばす
その先に何があるのか
指先は語る事を知らず ただ
まばたきもせずに一心に見つめる
あなたのあの眼差しが欲しいと思う
風さえも忘れる束の間の ....
この手の林檎が可愛いので
少し齧ってみる
この手の林檎が可愛いので
もう少し齧ってみる
この酸味はもう秋なのね
喉元に風が吹き過ぎて
秋はどこからやって来るの
秋は私の心から
....
貝殻のように丸まりうずくまり
鉱石さがすイギリス海岸
行き先のない汽車に乗りひた走る
どこまで行っても通過駅のみ
夜すでに企み隠すコランダム
見知らぬ ....
祭りの夜は渦巻く貝殻
空はずっと青かった
水の流れをずっと聞いていた
草を噛むとたちまち苦みが
口なかに広がって 星が銀河が
水のように押し寄せて来る
あれは
ケンタウルスのきら ....
「目をこらしてごらんなさい
この世界はふわふわ漂っている
箱庭なのです」
風が草の中でささやいている
透明な壁の向こうで
見知らぬ風景がふるるとゆれた
君はそっと魔法の呪文を唱 ....
夏のテーブルは渚
水のように陽だまりがゆれる
私の貝殻はここにあります
波間にさすらった熱い砂は
もうゆるくほどけて
あなたの胸に頬を寄せると
潮騒が聞こえます
時折 やさしく
....
裏木戸を開けると
ひぐらしがないている
あの木の下
薄暗い桜の木の下で
闇間に鼻緒が見えている
そり返った白い足の指が
細い脛が折れそうにのびて
あの時もひぐらしがないていた
....
何もかも徒労だったと誰が知る
心がはぐれそうな夜は
ただあてもなく歩くのが世のならい
街の灯りがあんなに遠い
くたびれた足で石を蹴り上げると
どこか見知らぬ闇に呑み込まれていった
....
ひいやりと冷たいメロン空に浮き
悩ましい夜見つめるだけの
物思いシロップの海に漂うか
救ってみたい桃のかんづめ
ごめんねとパイナップルの輪切りして
白 ....
仲の良い姉妹がいた
双子みたいだったけど
双子じゃなかった
同じ髪型をし同じ目をし
同じ口もとで笑った
寝る時も食べる時も一緒だった
片時もはなれた事がなかった
花が咲く時も
....
なつかしい猫
いつか啼いていた気がする
私だけの思いが影を引いて
路地を今曲がってゆく
そんなに淋しい瞳で
私を見つめないで
やさしく撫でてあげたくなる
さしのべた指先を ....
寝苦しく目覚めた朝に夢うつつ
激しく窓をたたくたたく雨
雨音を思えば雨が支配する
人を思えば雨の一日
アンブレラ覗いた瞳くぎづける
すれ違いざま舗道の ....
夕暮れ、薔薇は香っていた
まだ残る夕光の中で
私は花びらをそっとむしりとる
指先がいとしくて
何かを待ちわびて
ふっと夏の透き通る波が
心に押し寄せて来て足先を濡らし
すべてを呑 ....
心変わりをしたい
あなたなんか忘れて
知らないひとについてゆきたい
青い嘘だと知りながら
甘い言葉をささやくひとに
さらわれて夜の向こうに
ジプシーなんかのように
なだれこみたくて
誰 ....
あなたは泣いています
あなたは泣いています
緑の雨にずぶ濡れて
ただただこの世がいとしいと
あなたの頭上に垂れ下がる
電線の雫がぽとりと落ちて
ひとつひとつが世界を映してる
あな ....
木もれ陽のランチョンマット広げては
鳥がついばむ野のピクニック
朝どりのトマトはさくり陽を浴びて
ただ召し上がれめしあがれ今
ふかふかの森は日向の匂いする
....
夜のドレープに裂け目が入る
夜明けが裾にそっとくちづけると
私はすべてを脱ぎ捨て
一羽の鷹になって飛んでゆく
まとわりつく冷気を翼で切りながら
あなたを求めて飛んでゆく
私は ....
ポケットのビスケットが
粉々に砕けて割れた
壁にじっと押しつけていたせいで
鳥が飛び立つのを見たかった
小さなクロツグミが羽を広げるのを
僕はしくじった
ビスケットは無残に割れてしまった
....
光は満ちてゆく
花のような小舟を浮かべて
ふたたびの光は寄せてゆく
まだ浅い夏の水際に
片足を浸して眺めるだけだ
ドアを細めに開けて
そっと知られぬように
飛び立つ小鳥を慈しむよ ....
窓辺に香る黒いグラジオラス
いつか見た記憶のようだった
車のライトがフラッシュバックのように
無言の部屋を通り過ぎてゆく
雨夜の帰り道
突然君にくちづけた
あのあたたかい
湿った ....
少女服脱ぎ捨て君は駆けぬける
街角、インクの乾かない朝
追いかけて非常口ドア雨上がり
無邪気な青にだまされてゆく
水にうつる言葉も意味もないグラス
残 ....
つとさしのべる指先から
はらはらと はらはらと
こぼれては落ちる春の
あれはあなたと私の約束です
遠い日のひめごとです
はらはらと 散ってゆく
くれない {ルビ淡紅=うすべに} { ....
しずかな時間に光がうまれた
わたしの心に映り形作られるもの
それは木もれ陽 それはうた
あたたかな陽だまりの中で
わたしを見つめるあなたの瞳
どこか遠いその瞳
あなたの眼差しに海が ....
わたしの頭にもやがかかってゆく
わたしの目に霞がかかってゆく
何も考えられず何も見えず
わたしはまはだかで歩こうとする
草がからみつき肌を切り裂くのもかまわずに
風になぶられる髪がど ....
やるせなさ瞳は映すとおい窓
夜は流れて青いノクターン
駆けてゆく白い足首白い影
心に落ちる雨だれを聞く
思い出す人の涙を黙りこむ
肩の重みを別れのゆう ....
ホリデイ
青空にはためく白い洗濯物
私は音の出ない口笛を吹きながら
遠くに走る車のきらめきを見ていた
いつか見た潮騒のようだとふと思う
あなたはまだ帰って来ない
風が気持ちいいわ 春のよう ....
私は流れてゆく
水のようになめらかに
時には{ルビ滔々=とうとう}と
時には穏やかなせせらぎになり
私に映るのは雲の流れ
陽のきらめきがいくつも反射する
あるいは透過して泳ぐ魚の群 ....
じっとしてそとくちづける桃色の
耳たぶに来る忍び足の春
いきおいで踏んでしまえば近づける
春も黄色の君がソックスも
風は吹く髪に小枝にからまって
うぐ ....
あの古い家の二階の窓に
いつか見た雲が流れてゆく
雲はいつもあの窓に吸い込まれ
戻って来ない日を数える
そっと指折りをする
窓ガラスに昼の陽がさして
辺りはぱっと明るくなった
物 ....
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