林檎と私
石瀬琳々

この手の林檎が可愛いので
少し齧ってみる
この手の林檎が可愛いので
もう少し齧ってみる
この酸味はもう秋なのね
喉元に風が吹き過ぎて


秋はどこからやって来るの
秋は私の心から
心にもない言葉を言ってから
心にもない言葉を口にしてから
胸の奥がつんとして仕方がないの
それから何にも言えなくなって


(林檎よ お前は知っている?)


青い空に浮かぶ雲が流れた時
淋しい歌をそっと口ずさんだ時
林檎の青い香りを嗅いだ時
瞳に映るあなたが見えた時
そして 枝を揺するこの風
私の髪をさらってゆくこの風


(冷たい林檎の手触り!)


風、風が私を追い越して行ったあと
振り向くとそこに秋がある
林檎を放り投げて
受け止めるこの心にも




自由詩 林檎と私 Copyright 石瀬琳々 2008-09-29 13:50:39
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