とらわれの春
石瀬琳々

わたしの頭にもやがかかってゆく
わたしの目に霞がかかってゆく


何も考えられず何も見えず
わたしはまはだかで歩こうとする
草がからみつき肌を切り裂くのもかまわずに
風になぶられる髪がどんどん伸びてゆき
やがて身動きがとれなくなる
泥のついた爪も土まみれの足も
まるで役には立たない
とらわれ とらわれ


わたしの耳に鳥がまとわりつく
わたしの口に花がまとわりつく


わたしの髪に鳥が巣をつくり
わたしの顔に種が根をはろうとしている
盲目のわたしの眼窩をつらぬいて
花が咲くだろう 鼓膜をつきやぶり
鳥がつんざいて飛び立つだろう
わたしは花粉にまみれてどうしようもなく
小さく唇をひらいたまま
とらわれ とらわれ


永劫しくまれた罠だ
いつかすべてわたしを裏切ってゆくため、の


わたしは樹木 わたしは土くれ
風のふるえ 浮かされた熱
春というやまい



自由詩 とらわれの春 Copyright 石瀬琳々 2008-03-27 13:41:17
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