すべてのおすすめ
――卵がない!
よりによって
妻が亡くなってから
最初の息子の誕生日
わたしは初めてオムライスを作った
息子の大好物
記憶の中の見よう見まねで
決していい出来ではなかった ....
お腹から卵を一つ取り出して 私は一つの「し」をつくる
月に向かって 卵を放り投げておくと
月は空で泪目になるころ 「し」をこぼす
私は卵を産むために 屋根裏部屋で猫とじゃれ合い
卵を夜 ....
わたしの苦しみは
わたしの苦しみ
あなたには体験できない
あなたの苦しみは
あなたの苦しみ
わたしには体験できない
この世界の美しさは
この世界という美しさ
わたし達は体験でき ....
言葉がズレてしまった
君が君でなくなった
もうあの時とは違うのさ
君の背中が違って見えて
それはまぁ、そうか
それはまぁ、仕方が無いか
そう思うんだけど
寂しさはやっぱりあって
受 ....
引いては寄せる
寄せては引く
死んでは生きる
生きては死ぬ
■■■
産まれて生きて
事象を体験し
引いては寄せる
寄せては引く
響いては消える
消えては響く
繋がり切れる ....
朝夕と寒さの残る白樺湖のほとりの美術館で娘と戯れる。
初めて間近に見る大きな影絵は色鮮やかに娘の眼前に聳え立つ。
後往く月この戯れが続くのだろう。
残された日々はあまりにも短く感じる ....
街角の雑貨店に流れるオルゴールの音色が心地よい。
店番をしている若い雌猫のカフェオーレのような顔もまた楽しい。
店の扉を押し開けてのっそりと入ってくる常連の猫は
手入れの行き届いたひ ....
今日は素敵な漫画を読んだよ
新たな出会いが私を幸福にさせる
この世界の誰かが 言葉を 絵を 物語を 紡いでくれる
その事実がとても愛おしい
生けるものはみな空の下
動物も花も人も
色や形は違っても
みんなおなじ
目には見えないけれど
喜びも悲しみも争いも平和も
いいことやいやなことも
みんなおなじ空の下
だから仲良くしよう
まだ 目覚めていない
血液のせせらぎを聞いている
群青の影が台所を滑り
頭の中 雀が何か啄んだ
フライパンに火を入れる
蓮の花が開くように
わたしは呼び覚ます
朝はひとつの卵から生ま ....
自然にできたグループに分かれて
植民地時代のボストンの街並みを色画用紙で再現している
春陽に包まれた5年生の教室
その穏やかな空間に一瞬そよ風が吹いて
支援クラスに行っていた娘がひらりと入 ....
日曜は嫌だ
退屈だし切なくなるし
他の曜日と違って色もないし
日曜は嫌だ
「生きて 在る」 ということを想えば
やはり不完全だ
「生きて 在る」 ただそれだけでは
感じ 考え こうして思念で交信する以外
何もできることはない
私たちはどんな姿をしているのか
....
雨音がすべての音を掻き消していた。
この町に人はまばらだが、誰もが何か特別なことが起きるのを待っていた。
不謹慎極まりない人々なのだ。
小さな町では誰もが監視されている。
....
すっかり改装された応接間に白い光が差し込む時、
僕は思い出の中で横浜の匂いを嗅ぐ。
まだ何も知らなかったあの頃の幸福は
クラリネットの甘い音色が包み込んでいる。
庭に抜ける大 ....
僕らはどれだけ走れば見えてくるのだろう
最後に選ぶべきものは透明なのか
水でも被りたい一心
そうだ一度立ち止まり
息切れを整え
空を仰ぎ
後ろから追いつく友を待とう
焼けたアスファルト
....
象が並んで
観覧車の順番待ちをしていた
みんな休日だった
近くに
錆びたエスカレーターが落ちていた
午後になると
誰も海の話の続きなど
気にしていない様子だった
....
卵はひとつの理想形だ
人間もまた卵から生まれれば
これほど母親との確執に苦しむことはない
乳と血の繋がりはどんな病的恋情より
互いを束縛しその愛は動物並に遠慮がない
その点 卵は完璧だ
無 ....
雨が降ってきた
それに加えて午後からは
槍まで降ってきた
雨が降ろうが
槍が降ろうが
必ず行くよ
と言っていた友人は
終に来ることはなかった
窓を開けると
代わり ....
――風よ
木の葉をさざめかせ
やさしく掻き乱し
花房にそっと触れ
散り際へと誘う
子猫の背を撫でるよう
湖の面を煌めき立たせ
風 おお風よ!
おまえが気まぐれに ....
私たち親子の手を見比べると
娘の手は白くて 細くて
張りがあって美しい
私の手は皮膚が薄くなって
血管が浮いて見える
やはり手には年齢がでるね
真面目なだけが取り柄で
洒落っ ....
元カレのTシャツで牛乳拭いている
値札ついたままのぬいぐるみと話している
クーポン使ったせいかポテト冷めている
砂漠の真ん中で
洗濯機が回っている
インド綿のシャツを着た官吏が
時々中を覗きにやって来る
飛行機が上空を通過する
やり場のないコウモリ傘や
目新しい嘘を乗せて
真夏日 ....
今日を捨てる人に
終わらない明日をあげよう
たとえばある種の硝子を隔てて
見つめても そこには世の冷たい写しと
見飽きた己の顏しか見いだせないのだが
硝子の向こう 不可知な領域からは
こちらの姿が逐一観察できるように
ひと筋の時の ....
「仲良くさせていただいているけど、友達ではない」
言わなければよかった
後悔ばかり胸に残り
詩にもならねえ
湖岸に立つ私に風は爽やかで
静寂の中に鳥たちの声が聴こえる。
靄のかかった湖面から小枝が屹立する情景は
私に生命力の尊さを教えてくれる。
静かに歩み寄る初夏の足音に耳をすませ ....
ページを捲っていくと
その先に
廃線の決まった駅がある
名前の知られていない従弟が
ベンチに座って
細い背中を掻いている
とりとめのない
日常のようなものは延々と続き
梅雨の晴れ ....
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