101111
蜜柑の皮を剥く
指先に鈍色が
剥かれる悲しさを
染め付け
証拠を揃え
もはや逃れようもない
皮を剥き終わると
赤子の房が跳びだして
早く ....
滑稽な姿ばかり写しては取って夜の中
などもう恐れることはないとそう言っては
話を続けることができない時間の真ん中
思うことは
針のように細い光の角度を
何度も見つけては消え
掴んでは投 ....
いつも前をみなさひと叱つてくれた母/あでやかに彩(いろ)めきわたし生涯初のだいびんぐ/息をみたし瞼をとぢて“さよなら”のかたちで関節をのばす
すでに顔をそむけ唇を噛みしめ/母のしおからひ指先をは ....
大内峠から徒歩で
大内宿の街道往還に出たとき
秋とは言え、紅葉も落ちかけの季節は
旅人の心も体も
芯から萎えさせ冷たくさせる。
街道沿いの落ち葉を踏み締め
漸く視界が開けたところは大内 ....
明日になったら帰ろうね、と僕らは約束した
積み上がったティッシュを見て、汚いなと思った
夕暮れが何度も部屋を照らした
その間、一度も夕陽を見なかった
そんな夜を何度も過ごした
かじりっぱ ....
<ブラッディ・マリ―>
ブラッディ・マリーと君の唇の色が同じだから、
どちらに口をつけようか迷っている。
君は何のためらいもなく赤い液体を飲み干す。
重なったその色が乾く前 ....
{引用=
かくかくしかじかで
魚の骨が喉に刺さっているからどうにかならないかなって食卓を挟んで彼が言う。
かくかくしかじかで
多分どうにもならないんじゃないかなって私は箸を口に運びながら、そん ....
いろいろ伝えたいのに
この言葉しか書けない
それが悲しくて泣いた
俺たちは列車を見送っていた
線路の脇の柵に囲まれた高台の上で
俺たちは黙って立ちつくし
通り過ぎる列車をただ見送っていた
柵を乗り越えて列車に飛びこもうと思えば
出来たはずだがそうはしなかっ ....
うつろな視界の外側で小鳥の囀る気配
ひとしきり肩の上を行ったり来たり
動こうとせぬ私の様子をいぶかしく感じたのか
右の頬を軽く啄み樹海の奥へと飛び去った
時の感覚を失う
それがこんなにも ....
受信
下書き
送信済み
ゴミ箱
送信
迷惑メール
今の若い世代と付合っていると
私との会話はだいたい
メールボックスのように
振り分けられる
例えば、息子
私の言った ....
なまぬるい風に
ウエルニッケ野原はがらんどう
すずめを いちわ
ちからまかせに
にぎり もだえる
臨月まぢかの手(うで)をひろった
縄をまわし
大地に丸太をいくつもしいて
石油コン ....
幸せ
孤児院住まいの見習いウエイトレスは
真っ赤な口紅のついたコップを載せた
ステンレスの盆を厨房の隅にそっと置くと
裏口から同じくらいにそっと出た
ダイアモンドとマスカラのお客はま ....
十一月の凛とした
午前のひかり、風、匂いのない匂い
カーテン越しでさえ
きみの部屋を充たしている
カーペンターズが流れている
ノンビブラート
体温を超えることの ....
崖の上を覆う
赤い紅葉の
庇の下に
渓谷の底
竜が滑る。
鱗状の水飛沫(みずしぶき)
突然竜頭が
川底からなお落ち込む
崖の上には
紅葉楓の緞帳が
視線の上を覆っている
....
努力をした
歯を食いしばった
だから
生まれてこれた
努力をした
歯を食いしばった
だから
一等賞をとった
努力をした
歯を食いしばった
だから
試 ....
26年目の記念日
落ち着く和食居酒屋の個室で
あたしは
貴方に
指輪ケースを差し出した
もう一度 はめ直して
いつの頃からか
あたしの薬指には 指輪の跡さえ
なくなってい ....
ひとはみかけによらぬものと
ははを三度叱れば
四度言い返される
そうしながらも雪は溶け
湿地に辛夷の花が咲く
わたしもすぐにははになる
月曜日は生ゴミの日
ロマンチストとエゴイストは
しっかりと分別してね
何かを背負っていないと
ビル風に飛ばされてしまうよ
なんて
あなたの
猫も興味をもたない
そのプライドは
き ....
出張の朝は
冷たいシーツみたく
smooth
愛がたりないから
すぐに飛んできて
その身ひとつで
あたためて
水は瓶を零れ白い指先をつたう
冷たい大理石/泉の奥底に
褸褸と血はうすくながれ落ちた
女は腰に蛇を巻きつけ、小脇に山羊を抱えこむ
秘部を隠す羊歯の葉はかたく
その陰部を突き刺し ....
瞼の奥で失っていたことに気づく。しかし、
それが、髑髏を巻いていたひと夏の感情だ
ったのか、それとも、行きずりの女が床に
棄てた水着の匂いだったのか。朦朧と立ち
込める喪失感だけが、ドラム ....
プラスチックコップのなかの氷に
ウイスキーをかける
透明に琥珀がながれる
いつもの儀式をはじめている
コップをゆらして
ウイスキーを
氷のつめたさに近づけるのだ
カタカタカタ、コトコト ....
うちには一匹の猫がいまして、四六時中一緒にいるわけなので、猫のパーツというパーツをいつも凝視して観察に明け暮れている毎日なんですが、ちょっとこれは、と思うことがいくつかあります。その中でも猫のひげとい ....
少女達は駅の回りでたむろしていた
少女達は皆乾いていた
全てのものが無機質な情景の中で
既に前からそこに居たように乾いていた
見えない虫の魂がボウと浮かび上がり
それはまるでカゲロウの ....
{引用=
せかいのあちこちに
内緒で敷かれている
内緒の線路を走行する
打ちっぱなしの
コンクリートの
でっかいとんねるは
せかいの中身を
くり抜きながら
こわれた部分を直して
....
ひとひら
手のひらに乗せてみると
ちっさい象みたいな形で
足の裏がかゆくて
恥ずかしいような
気がして
いつかわたし
旅に出る時の
準備を
まだしていなくて
それは
きっと
....
遮光レンズ越しの
淡い背景が
拡散する持ち時間を
しばし彩る
グラデュエーション
緑色のかみ人形の林立に
研ぎ澄まされた
ペーパーナイフの
握り締めた刃先の赤
指の間の憂鬱な黒い ....
かつて、私の泣き声の
代わりに歌ってくれた小さな川
その横を闊歩する
今の私の泣き声は
私の子宮にうずまいているから
軽やかに
川縁を散歩することが
できる
水の流れる音
さらさ ....
ひがな一日
猫のように
ぼうっとして
まどろんでいる
あたし
たまぁに
さくさくと
動く
ふっと
感じる
脳のどこかで
きらっとひかる
何か
すると
....
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