私は泣いた
君という海の波打ち際で

不器用さを
愛おしさから
短所に変化させたのは
慣れすぎた歳月と
甘えすぎた気もち

海辺に向かって
手を繋いだ瞬間を
覚えてい ....
人は反射する鏡なのです

だれかをよわいと思うとき
わたしがよわいのです

だから感じることをやめなければならない
わけではない
人はほんとうには
神器そのままではありえないから

 ....
いつか死の床で吹く風は、さらさらとして
すべての記憶をさらうでしょう
むせびないたかなしみは
いずれ天にのぼって雲になり雨とふる

信じているうちは遠ざかるものは
なにもおもわなくなるとき ....
今日は映画を見た
題材はニューヨークに住む
ビジネスマンである男の ある 物語
しかし彼は純粋な恋愛に対しては不能な男だった


そしてメディアをはじめとした性風俗などの悦楽にはまり
 ....
明日は長男の誕生日だ
生きていれば十一歳だ
たぶん生きていると思うが
確かなことは言えない

離婚した妻が家族ごと夜逃げしたのは四年半程前のことだった

離婚するに当たって当時高二だった ....
「覚めない夢もいつかは覚める

闇の深みにスポットライト
行き来するたび変身する
――あなた
咬み合うヒュドラのよう
分裂と統合の具象化
象徴としての女神よ
純・錯覚 恋は
中空の象 ....
 海を見ていた。
 港を行き交う人々の足音を聞いていた。
 岸壁に寄せる波の音に海鳥たちの鳴き声がかき消されてゆく。
 視覚よりも聴覚が敏感なそんな午後だった。

 海の色は藍色。
  ....
優しく 優しく 優しくしたいのに ごめんね

電話の相手は不具合で私の灯火の余裕が吹き消されそう
テーブルの横でつかまり立ちを口を尖がらせて練習する弟
そしてやがて3歳になるお兄ちゃん ....
つぼみふくらみ
匂わずに匂うよう
結びの前にほころんで

 笑いも 
   泣きも
     つかの間の

結びの前に散りはてる
燃えてあふれるその様を
いまは小さくしまったまま
 ....
 オレンジ色の世界が僕に優しい。
 季節の抜け殻が道路脇に溜まっている。
 それは次の季節に託した遺言のようで。
 澱んだ色に鮮烈なオレンジが溶けてゆく。

 僕には悲しみを持つ権利もな ....
星ひとつ 星ふたつ 静かに尽きる夜

キリンは街をさまよい歩く

まっすぐな線がまだいくつも

引かれていない 幼子の 夢の灯を

螢の群れる木のように 揺らしてそっと

キリンは ....
 西日の差す窓から遥か遠方の山々を望む。
 白く輝く飛行機雲を眺め、彼方に飛び去る鳥たちを見つめる。
 視線は常に前方を向いている。
 彼らの優しさを感じ、ゆっくりと目を閉じる。

 す ....
言うは易く
行うは難し
美しい言葉を
隠れ蓑にして
悪事を働くやつがいる
だまされてはいけない
飛行機がなめらかにすべって往く
そう青くもない春の空
だだっ広くてなにもない
つかみどころのない空気の層を
真っすぐ切っているだけなのに
こんな遠くまで聞こえて来る


――あれは空気 ....
 何気ないひとときがとても大切に思える朝。
 光はまだ淡くカーテン越しに差し込んでくる。
 今を生きている事に幸せを感じ、与え、受け取る。
 闇夜の呪いがゆったり溶けてゆくようだ。

  ....
ブラックホールに吸い込まれた
星雲は
真新しい宇宙に出現し
新世界を構成する

ぼくは永遠列車に座り
真っ赤なリンゴを抱え
星巡りの歌を歌い
失われた友を待つ

ぼくが来世に生まれ ....
すぐれないと思えば見上げれば満ちる月
お前か満月 お前なんか大嫌いだ

私の中に遮月光というベールがないから
たかが黄色い光に過剰に反応する
ハナクソを飛ばしても八つ当たりにもならねぇ
距 ....
ほんとうの自分のことを
わかってもらうことは
誰かをそっとこころのなかで
信じるということでした

あの日を 
僕らが生きていること
すでに静かな風が通りすぎるように
深い森林と広い草 ....
昔昔のことです

「ソックタッチ」という商品名の速乾性液状糊のスティックがあった
糊といっても紙を貼りつけるものではない
靴下と足を貼りつけるものなのだ
ずり下がるという引力の法則に抗うこと ....
 光の帯の中から生まれた君は無言で僕に話しかける。
 朝、光は太陽光線と絡み合い上昇してゆく。
 覚めたかい、目は。
 ほんの小さな君はまるで水晶のように笑った。

 錯覚に揺れる部屋で ....
ギター
雨をはじいて飛ぶ鳥のように
空気を震わせて濁らない
濡れた枝先の微かな光
抜糸された瞳へ飛び降りる
孵しそこねた夢の欠片から
うなじのほくろふたつ
振り向くことのない永遠が
月 ....
一瞬の奇跡の近くに
永遠の軌跡がずっと続いた
花瓶に差した薔薇を彩る橙色の呟きを待っていて

僕の遠い夜空にもある
シケモクは必ず捨てた方が良いだろう
妻が影で吸わないように

おせち ....
曖昧な態度のままで察し合うのが自然
と言葉で明示することもなく
顔や声音
目線や肢体の所作で流動的に日常をやり過ごすこと
に疲れもせずあなた烏賊のよう
嫌い
大嫌い
烏賊は好きだけどあな ....
厳冬の足跡が消えるだけで
乾いた夜空ではきしむ靴音も
かすれて響きはしない
遠隔地から丸聴こえである
嘘発見器の警告音がする
その信号音の哀しい振動は
或る謎を解く鍵なのかもしれない
ち ....
 もちいくつ?

{ルビ価値可知=カッチカチ}の表面が割れて
どろり中身があふれ盛り上がり膨らんで――

あといくつ餅を食べるのか
あといくつ正月を迎えるのか
一生分の餅をざっと数えて
 ....
      祈りと願いに摩耗した
己の偶像が神秘の面持ちを失くす頃
始めて冬の野へ迷い出た子猫は瞳を糸屑にして
柔らかくたわみながら落下する鳥を追った
薄く濁った空をゆっくりと
    螺旋 ....
 忘れ去られた思い出を戸棚の中から取り出してじっと見つめる。
 淡い色に変色したノートや書籍。
 どこの国の物か分からない人形。
 出し忘れた葉書。時を刻まなくなった時計。

 遠い記憶 ....
朝早く
家族が眠っている間に雪かきをする
でないと外出も時間も困難になるから

白く美しい雪
儚く消える雪
だが降り過ぎるとまったく始末に負えない

気温が下がり切らないと雪は酷く重く ....
ちょうど
想うことと考えることのあいだで
人間がひとしきり
随分と迷うとき
やはり優しさが生まれるのだろう
朝方の出張に備える
昨晩の夜更け過ぎには
ただ愚直に仕事に行く
考えがあるだ ....
雪は降る歌いながら雨よりも静かに

雪は新たなページをめくる
見慣れた場所へ胸いっぱいの息で踏み出すために

冬晴れの鋭さに青く影を曳いて
ぬくもりを一層 切ないほどに




 ....
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