厳冬の足跡が消えるだけで
乾いた夜空ではきしむ靴音も
かすれて響きはしない
遠隔地から丸聴こえである
嘘発見器の警告音がする
その信号音の哀しい振動は
或る謎を解く鍵なのかもしれない
ち ....
もちいくつ?
{ルビ価値可知=カッチカチ}の表面が割れて
どろり中身があふれ盛り上がり膨らんで――
あといくつ餅を食べるのか
あといくつ正月を迎えるのか
一生分の餅をざっと数えて
....
祈りと願いに摩耗した
己の偶像が神秘の面持ちを失くす頃
始めて冬の野へ迷い出た子猫は瞳を糸屑にして
柔らかくたわみながら落下する鳥を追った
薄く濁った空をゆっくりと
螺旋 ....
忘れ去られた思い出を戸棚の中から取り出してじっと見つめる。
淡い色に変色したノートや書籍。
どこの国の物か分からない人形。
出し忘れた葉書。時を刻まなくなった時計。
遠い記憶 ....
朝早く
家族が眠っている間に雪かきをする
でないと外出も時間も困難になるから
白く美しい雪
儚く消える雪
だが降り過ぎるとまったく始末に負えない
気温が下がり切らないと雪は酷く重く ....
ちょうど
想うことと考えることのあいだで
人間がひとしきり
随分と迷うとき
やはり優しさが生まれるのだろう
朝方の出張に備える
昨晩の夜更け過ぎには
ただ愚直に仕事に行く
考えがあるだ ....
雪は降る歌いながら雨よりも静かに
雪は新たなページをめくる
見慣れた場所へ胸いっぱいの息で踏み出すために
冬晴れの鋭さに青く影を曳いて
ぬくもりを一層 切ないほどに
....
{引用=
かつて伝説の神話は
太陽と宇宙のあいだにあった
詩神と死神が共に生まれた太古の時代に
灰色の空には詩神と死神が戯れあうために
命の手紙を運ぶ陽鳥が ....
今日も りゅうが 脱走した
「理由」なんて聞く奴がいるから 逃げだしてしまうのだ
話の尾ひれなんて無視して
ゆらぎは水の色
ゆがむからだのまるみに いかす光彩くねらせて
す ....
季節という音楽を君が奏でるのを聴いた。
透明な旋律は白銀の街には鮮烈だ。
音楽は創造され、どよめきの中の瞳を凝視する。
真昼の動揺を隠せない人々はそのまま夜になだれ込む。
夜 ....
日差しは入り江を満たす穏やかな波のよう
ちいさな冬も丸くなった午後の和毛のぬくもりに
鉢植えの場所を移しながら
――古い音楽が悪ふざけ
週日開きっぱなしのトランクをむやみに閉め隅へ蹴る
―― ....
漂いの中に浮かぶ船はとても空虚だ。
空虚は僕の心を浸潤する。
広がり、閉じる。
この情緒こそ難破船にはふさわしい。
水面に移る悲しみを鳥たちが啄む。
僕は自分が何か勘違い ....
事務のことが
あまり分からずにいた
町医者はようやく
面接を終えたあとでした
この紙は職安にFAXすればよいのかしらと
採用を決めていましたが
横たわる夜空に向かって
そう尋ねたのでした ....
ピアノの音色が白く輝いている。
僕はその中を歩いている。
この先に何が待っているのか。
初冬の風が厳しく吹いている。
孤独とは。
僕はピアノの音色に包まれている。
ほ ....
冷たい雨音を遮りながら
仕事帰りに紺色の雨傘は
静かに溜息をついていた
鉄道駅に着いたので
ちょうど雨傘をたたもうとして
夜空を閉じるときに
満月がみえると本当はいいのにねと
何か反実仮 ....
心が
カサカサに
なりそうになったら
私のところに
来たらいい
私は水だから
私を
飲んだらいい
もっと
潤いたかったら
もっと
私を ....
さようならアメリカ
たぶんぼくはアメリカが好きだった
ジーンズが好きだった
コーラが好きだった
ポテトチップスも好きだった
さようならアメリカ
自由と平等と人種差別の国よ
民主的で覇権的 ....
君はキャプテンで
夏の最後の大会は
男子も女子も敗退
僕は試合終了まで
ベンチからの応援
涙する部員の前で君は
毅然とチームを讃え
後輩達に来年こそ
屈辱を ....
いつだっていまだって青い
地球は朝で昼で夜だ
なのに地表の隅っこで(あるいは真中で)
いまブルーライトに照らされぽつねんと
もの思いに耽っているわたしには律儀にも
朝昼夜は朝昼夜と巡り訪れる ....
憧れを胸いっぱいに抱いて飛んでゆく私の青い半身。
山を越え、海を渡り、異国の地へと行ってしまった。
時折届く君からの手紙に安らぎを得る。
私にもまだ笑顔が残っていたのだ。
黄 ....
ふわあ
なんとも落ち着かない気持ちは
文字を書き殴ることで和らぐ
書き殴るとは随分乱暴な言い様だ
けれどもこれは事実だ
事実だから曲げる訳にはいかない
なんとも曲がりようがない
....
腰のまがった老人はめったに見なくなった
まがった腰で
ヨッコラショと
風呂敷をしょった爺ちゃん婆ちゃんは
わたしが子供のころの爺ちゃん婆ちゃんだ
農村や漁村では今だって
腰のまがった老人 ....
彷徨い、戸惑い、流れて、漂う、私の内なる魂よ。
疲れ知らずだったあの頃を知る者はもういない。
だからこそゆっくり進めばよいのだ。
人生半ば過ぎにして恥をかくのもいいじゃあないか。
....
光の傾斜のよわいめまい
に
いななきも止んだ朝の膨らみ
秋は秋と重なって遠近を失くしながら
凧のように {ルビ空=くう}の{ルビ空=くう} 淡く燃え
無限の、 矛盾の、
存在の、 ....
二人の天使が私のために降りてくる、あの星空の彼方から。
一人は私を引き上げ、一人はそれを支えた。
感情の渦を通り抜け、感性の輪を広げ、創造の平野を飛び立った。
それを逃避だと誰が言 ....
青い看板に白い文字で
ビジネス
カジュアル
フォーマル
朝のだだっ広い駐車場
少しくすんだ 慎みの季節が
春に巣立った雛たちの 瞳にも
映って
....
ブランデーを喉にながす
こくりと飲み込んだうつつは儚い
床にぶちまけたこころの黒さは
いつのまにか天井になり
わたしを覆い隠した、ほし、星のようだ
眠れずにひとの温もりだけを ....
沈黙を身の回りに置く時、私は決まってここに来る。
森は必ずしも沈黙ではないが、きっとそれは心の状態なのである。
沈黙を私は求め、愛でる。沈黙は私に寄り添う。
物事の美しさは常に変化す ....
同じ道を歩いた
くり返し歩き
くり返し問い
くり返し答え
水の写経のようになにも
こころの所作だけが
ただ――
くり返し祈った
石の中のロザリオ
沈黙の塵は満ちて
尚も空白 ....
清らかな川辺に降り立った白鷺を見た。
しばらく彼の美しい立ち居振る舞いに目を奪われた。
彼はどこからやってきてどこに向かってゆくのだろう。
なせだか彼を自分と重ねてみた。
少しも ....
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