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さみしさが夜空にぽっかり浮かんでいた。
月は雲に隠れてしまった。
噛み締めたくない孤独は、目の前で立ち昇る煙草の煙と共に、
私の胸にその影を落とした。
夢の中で何人もの人を殺 ....
夢のような暮らしの中で今日もまた朝を迎える。
夜の魔力が次第に解けて、鳥たちの声が聞こえる。
テラスに出ると庭のあちこちで色鮮やかな薔薇が咲いている。
私は今ここに在る事に感謝する。 ....
自由。それは広大な草原を駆ける馬。
自由。それは大海原を切り裂く帆船。
ほんの少しの自由を得る為には
愛されるより愛する者でいることだ。
人生。それは成功と失敗。
人生。 ....
桜舞い散る晩春の朝だ。
風は未だ冷たく、貴女の頬を赤く染める。
故郷の庭では椿が咲き誇る。
ストーブの上ではやかんが湯気を吹いている。
頬を染めた貴女はいつしか私の手を握る。 ....
海を見ていた。
港を行き交う人々の足音を聞いていた。
岸壁に寄せる波の音に海鳥たちの鳴き声がかき消されてゆく。
視覚よりも聴覚が敏感なそんな午後だった。
海の色は藍色。
....
オレンジ色の世界が僕に優しい。
季節の抜け殻が道路脇に溜まっている。
それは次の季節に託した遺言のようで。
澱んだ色に鮮烈なオレンジが溶けてゆく。
僕には悲しみを持つ権利もな ....
西日の差す窓から遥か遠方の山々を望む。
白く輝く飛行機雲を眺め、彼方に飛び去る鳥たちを見つめる。
視線は常に前方を向いている。
彼らの優しさを感じ、ゆっくりと目を閉じる。
す ....
何気ないひとときがとても大切に思える朝。
光はまだ淡くカーテン越しに差し込んでくる。
今を生きている事に幸せを感じ、与え、受け取る。
闇夜の呪いがゆったり溶けてゆくようだ。
....
光の帯の中から生まれた君は無言で僕に話しかける。
朝、光は太陽光線と絡み合い上昇してゆく。
覚めたかい、目は。
ほんの小さな君はまるで水晶のように笑った。
錯覚に揺れる部屋で ....
忘れ去られた思い出を戸棚の中から取り出してじっと見つめる。
淡い色に変色したノートや書籍。
どこの国の物か分からない人形。
出し忘れた葉書。時を刻まなくなった時計。
遠い記憶 ....
季節という音楽を君が奏でるのを聴いた。
透明な旋律は白銀の街には鮮烈だ。
音楽は創造され、どよめきの中の瞳を凝視する。
真昼の動揺を隠せない人々はそのまま夜になだれ込む。
夜 ....
漂いの中に浮かぶ船はとても空虚だ。
空虚は僕の心を浸潤する。
広がり、閉じる。
この情緒こそ難破船にはふさわしい。
水面に移る悲しみを鳥たちが啄む。
僕は自分が何か勘違い ....
ピアノの音色が白く輝いている。
僕はその中を歩いている。
この先に何が待っているのか。
初冬の風が厳しく吹いている。
孤独とは。
僕はピアノの音色に包まれている。
ほ ....
憧れを胸いっぱいに抱いて飛んでゆく私の青い半身。
山を越え、海を渡り、異国の地へと行ってしまった。
時折届く君からの手紙に安らぎを得る。
私にもまだ笑顔が残っていたのだ。
黄 ....
彷徨い、戸惑い、流れて、漂う、私の内なる魂よ。
疲れ知らずだったあの頃を知る者はもういない。
だからこそゆっくり進めばよいのだ。
人生半ば過ぎにして恥をかくのもいいじゃあないか。
....
二人の天使が私のために降りてくる、あの星空の彼方から。
一人は私を引き上げ、一人はそれを支えた。
感情の渦を通り抜け、感性の輪を広げ、創造の平野を飛び立った。
それを逃避だと誰が言 ....
沈黙を身の回りに置く時、私は決まってここに来る。
森は必ずしも沈黙ではないが、きっとそれは心の状態なのである。
沈黙を私は求め、愛でる。沈黙は私に寄り添う。
物事の美しさは常に変化す ....
清らかな川辺に降り立った白鷺を見た。
しばらく彼の美しい立ち居振る舞いに目を奪われた。
彼はどこからやってきてどこに向かってゆくのだろう。
なせだか彼を自分と重ねてみた。
少しも ....
ある書物は私を受け入れ、私の居場所を示している。
そんな時私の心は大きく開き、静寂の中の喧騒にただ驚く。
私の頭上に雲はなく、大地の裂け目では清冽な泉がこんこんと湧いている。
私の精 ....
悲しみのヴェールに霧が溶けてこの村に訪れる晩夏が眩しい。
お前と過ごした最後の夏はこのフィルムに焼き付いて時を彩る。
優しさは或る晩の静けさに紛れて、一枚の絵画には音も無い。
描かれ ....
西の空に希望を背負った夕日が消えてゆく。
黄昏た公園で私は老人を見た。
ベンチに腰掛け自分の両手を見つめている。
その時初めて私にも皺だらけの掌があることに気が付いた。
深 ....
雨の雫が涙のように乾いた私の頬を伝う。
黒、もしくは赤の色彩の中に、そう、それは夜だ。
魅惑的な静まりの中でガラスの心を持つ者は
人知れず暗闇に安堵し、一時の安らぎを得るのだ。
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暑さ厳しい夏を向こうに控えて
君と聴くモーツァルトが今日は愉しい。
無限の広がりをその音に託し、
感情の極限を曝け出した楽曲達が
この耳を刺激する。
曇天が水滴を垂らすような ....
ロベリアの水色が私の窓辺で咲いている。
脇役に徹しているカスミソウの白い花は妻の好みだ。
陳腐な言葉など必要ない。
そこには小さな美が溢れている。
どんなに小さな表現でさえも ....
雨上がりが匂う緑の庭園で小さな世界は広がる。
ピアノの音色が淡い世界に色付く。
胸に抱えた定かでない悩みは昨日へ消えてゆく。
私はただ黙々と小さな勇気を今日という日に積み重ねた。
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丘から見える遠い園生は純白に染まり、
私の吐息と重なって淡く輝いている。
手前に見えるロココ調の建築物はそれ自体が見事な絵画のように
緑一色の額縁で装飾されている。
丘の上に ....
窓から覗く森がまだ霧に包まれている朝、
僕は一人静かに部屋を出る。
森の木々から聞こえてくる鳥達の囀りが、
昨夜聴いていたベートーヴェンの弦楽四重奏曲の余韻を少しずつ消してゆく。
....
銀色の翼が西の空に消えてゆく。
北鎌倉の西洋館の二階から遠く、由比ガ浜が見える。
手の平ほどの水平線に鳥たちは集い、
冬枯れの歌を歌っている。
坂道を下れば、秋が忘れていった ....
冬になるたびに訪れる山荘のウッドデッキに霜がおりている。
木のテーブルを挟んで二脚の籐椅子が向かい合っている。
一方に腰かけている麦わら帽子はきっと誰かの忘れ物。
もう一方に腰かけた ....
懐かしさを覚える町並みに深いため息をつく。
明日に向き合う為のはっきりとした記憶。
永い旅路を終えるとき、
思い出すのはきっとそんなものだろう。
青空がどこまでも澄んで見える ....
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