ひとつひとつ、はげしい輪廻のあとに、夜は摘み取られてゆく。現世の庭にしどけなく積み重ねられた夜の鏡像は、大地の核に至るまで、ことごとく破壊されている。光は輝くことをやめた。色彩はひろがることをやめた。 ....
昔、一九九八年から九九年にかけて「夜、幽霊がすべっていった……」という連作を書きついでいたことがある。後に「現代詩フォーラム」に投稿し、個人サイト「21世紀のモノクローム」にも掲載した。
いまさ ....
七月の雨上がりの午後/ 煮沸されるコンクリート
防水シートが波のようにうねり
ステンレスパラペットで囲われた放課後の屋上/ 脱皮するコンクリート
(目をつむって/ ....
透きとおる真昼に
日常が、消えていく
八月に買った青いびいどろは
もう割れた
観覧車に乗りたいと言ったのは
あのひとのほうだった
てっぺんに着いても
世界はちっとも見えなくて ....
気の早い春一番は 潮鳴りのようなおとを立て
町の上空をゆくのでした
「僕ら、結婚するかな」
彼が昨夜言ったことばが、洗っていたおさらから急に飛び出してきて、ひっこめるのに苦労しました。わたし ....
ポエム岬
千葉県房総半島は長い
犬吠埼から九十九里の有料道路を使って南下すること一時間
そこに小さな岬がある
ポエム岬
誰がはじめたかしらないが
そこはいつからかそう呼ばれるようになっ ....
女の子が
耳に当てています。
女の子が
スルメイカを
耳に当てています。
静かに目を閉じて
女の子が
スルメイカを
耳に当てて
音を聴 ....
吊っていた管に
私の血が流れ
立っても
座ってもいない
赤い液に
ほんとに支配しているものは
いつもは みえなくて
体から離れた時だけ
錆びる 舌先
うわずる 耳
ほめてほめて
あさ
おきたというだけでほめて
これはこどもっぽい
こどもっぽいふるまい
じゃあこどもっぽいということをほめて
めざめたばかりのぼくをだきかかえて
よいしょともちあげて
....
足 祷瀬 チカ
遮光性のロールスクリーンを低く下ろされた向こうは
部屋の中とは別に
太陽が活動していて
蛍光灯の暗さで閉ざされた方からし ....
庭の境に置いたサボテンに
猫が吸い寄り
すんすんしてる
ちくちくしても
まだやってる
サボテンが棘を引っ込める
わたしが触ったときには
刺したくせに
恩知らず
呼んでみるけど
....
首の赤い羊
足を投げ出して動かないそれから
時計回りに楽園が広がる
歌はいかが、
黄色いメロディ
温度はいかが、
子供にお帰り
赤い林檎に恋人はいかが、
望むならほら、何で ....
切り絵(題材)
「少女」
ただ真っ白い紙でした 私たち
切り絵師は 無を有にする
柄に美しい細工を施した
銀色の先端鋭いハサミで
すんなりと手足の伸びた
可 ....
アルコールと 朝が
溶けあって 光って
カーテンです
そこへ向かう明るい少女は
睫毛です カーテンに
きらきら きらきら向かう 明るい少女は
瞬きのたび ....
日曜日にわたしは、レジャーランドで、クリスタルのユニコーンを買い求め、夜のバスで家に帰る。窓の外は、暗がりの裂け目。
窓には夜の空。自宅の浴室でうっすらとしたヒゲをそり、黒いセーターに着替えた。 ....
わたしは失業し、夏を迎えた。記録的な真夏日が続いている。ここしばらく風邪をひいていた。咳が出る。寒気がす ....
彫りの深い司会者が
深い彫りの中で溺れて
ウェディングケーキはもう
瞼の中でしかカットされない
花束を越えて
何度も生まれてかわろうとする
たくさんの父と母は
まだ静かなまま ....
涙の中を泳ぐ魚がいて
僕の源氏名はまだ忘れられたまま
あなたは僕の順番となり
順番は花びらのびらとなり
そのことで誰も困りはしない
こうして縮まった身体をひょうっとすれば
僕らの不 ....
無理をして煙草をすつてむせてゐる不良少女の涙は?し
先輩が先輩の先輩と住む部屋の隅つこで膝抱へてゐたり
頰骨に沿つて濃い目のチーク入れアイシャドーは?、特攻少女
ラメ入 ....
一頭の牛が
ブランコを押してくれた
こんなに高くは初めてで
空だけがきれいに見えたけれど
必ず元の場所に戻って
どこにも進むことはなかった
明日食べられるのだ、と
牛は言った
....
(削除)
世界で一番悲しい人が笑った
花のようだった
花の名前と同じ速度で
列車は走った
良い陽が入るね
そう話す乗客たちの袖口は
等しく汚れていた
窓の外にはいつも窓の外がある
という ....
{引用=恋ってどんなものかしら。池に泳いでいるものですよ。
夜、庭を歩いていて池のほとりでぐんにゃりしたものを踏んだ。わたしは逃げた。
鯉は夜、飛ぶのだという。そのころ ....
送電線の下をくぐって
アスファルトの海を
ぼくたちは、
泳いで、
はりめぐらされる
緯度や経度に
足をとられながらも
ひたむきに
日帰りの旅をくりかえす
ねむる前、ときどき
....
真夜中に目が覚めて
水道の蛇口をそっとひねると
そこから
海の匂いがする
喉が、渇いていたので
それでも飲み干すと
いろんないちにちが
搾り取られるように抜け落ちていく
冬の海はな ....
女の声が頭の中に響く。澄んだ高い声。日に日に声は大きくなるような気がする。声を聞く以外、わたしには何もできない。偏頭痛がしそうで頭を振る。空き地に捨てられた車がある。栞を座席の上で見つけ、車の中に入 ....
美しい赤ん坊のこぶしには滅びの言葉握られていた
怖い雨、怖い光を浴びまくり僕らは汚い名前をもらう
眩しくて見えない僕らの遺伝子に刻み込まれる悲しい記憶
誓い合う幼い僕たち ....
皮膚を、
へだてているのは同じではないか、その
頂へ
ゆっくりと
のぼりつめるさま
あるいは
交わってなにひとつ溶け合わない、交わりは
交わりのまま皮膚の
上にしんしんと塗布
さ ....
キリストはキリスト教を作ったりしなかった
彼はただの愛に溢れた大工であった
キリストはよく遅刻したし、仕事にこない日もあった
彼はそんな風に頻繁に約束を破ったが
生まれたての子どもが誰彼と隔て ....
村、の発音はビレッジじゃなくて
ヴィレッヂなんだって
熱く語る教師に
ならば、お答えしていただきたい
シベリアンとシビリアンの違いを。
困惑の色も見せずにただ、淡々と
シベリア ....
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