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綿菓子器の真ん中で
砂糖がはじける甘い匂いを
思い出していた
縁日の夜
神社の鳥居の影が作る深い闇は
永遠に私の心の中
御神木の向こうに
ぽっかりと浮かぶ
白い狐面
....
さえずりは無制限に落下して
漲る心臓
内側からほどけ展開する
うすべに浮遊都市
生贄のメリーゴーランド
空を蕩かす視線を
火の羽衣に包み
牡丹
ゆるりと爆ぜ
....
雫が膨らんで
水の花を咲かせた
春というあいまいなかたまりが
名前を速やかに消し去った
ためらう太陽の灼熱に
逆らっていく風の翼が折れて
時間は無限に挫折を繰り返す
英雄の墓が芽を吹き
....
白い駅のベンチに
坐っていると
うつろな心臓を
ひとつの喪が
列車のように通過してゆく
それとは関わりのない
やわらかな事象として
少し離れたところに
色とりどりのチュ ....
百均で買ってきた
ミニチュアの黒いうさぎは
手のひらに載せて
選りすぐろうにも
どれもみな
哀しくなるほど同じ顔
同じ姿勢同じ表情
どうしてこんなに正確に
大量生産できるのか
まるで ....
霧吹きのような雨はふかみどり
胸の奥まで吸い込んで
わたしは森になる
しばらくすれば
じゅうぶんに水を含み
耳を傾ける
彼らは
永遠を指し示すこと ....
わたしたちは小さな生き物です
(小さな生き物)
どの程度かというと
気にさわるほどの
空き缶の下 おっと
踏まないように ちょっと
たたらを踏む
あなたのつま先にさしさわるほどの
....
空を渡る種の帯の下
あなたは何故暗い笑みを浮かべているのか
原のなかで
明るい風のなかで
無数の角と無数の羽が争い
多くが失われ多くが生まれた
双つの光が向かい ....
奥深く海底の熱水床
わたしが今呼吸をしている処
群がる白い蟹は
わたしであるための遺伝子を
鋏で千切りまた繋げる
染色体を失った肉体だが透明ではない
保護色を身に着けたわけでも ....
予約時間に早すぎて
十数年ぶりに弘南堂書店へ往く
見慣れたブックオフとは違う
天井近くまで積まれた学術的古書に
おまえの目は泳いでいる
楽しい散策 わたしには
安い棚から掘り出した一冊は
....
蛇口が
みずうみにつながっているように
蜜柑は
五月の空へつながっている
かぐわしい白い花
まぶしい光に
雨だれに
ゆっくりと過ぎてゆく雲に
蜜柑をむくと
その皮は
しっとりと ....
私達の目は形の無いものをどれだけ見つめることが出来るだろう。昨日の陽の光の形を、10年前の雨の滴る上空を、過ぎ去った記憶の思い出を。薄ぼんやりとした過去の欠片は、今日の一日をボロボロと噛み砕いている。 ....
見つけられないものを探している
とっくに失くした何かを
例えば棚で眠っている本に挟まって
頭を覗かせる封筒
歳月に黄ばみ
だが秘められた部分は青白く
ほのかに
呼吸して
机の上で宛名を ....
くずれた均衡
その静かな吸引力に
はく奪されるわたしたちの人格
キュビズムから滅びの兆しを嗅ぎとる、影の
わたしたちが歩く
男女の別なく
客も、客引きも
リードの犬と同じく
たっぷりし ....
笑ってほしい
人がいるので
私は笑う
元気を出してほしい
人がいるので
私は元気を出す
私より淋しい
人がいるので
会いに行く
耳を傾けてくれるので
他愛ないおしゃべり ....
わたしは
粒で出来ている
粒は
かなしみも
ぜつぼうも
知らないまま
ただ
あたえられた時間を
あたえられるままに
はずんでいた
ときおり粒は
とどこおる
たとえば寒い ....
エネルギッシュなはずの街を見回しても
私以外は答を導くことが出来ない
時計が回るだけの何の変哲もない日常
下を見ても上を向いても川は流れる
なぜ いないのか
なぜ おまえだけがいない ....
勝てない
その勝負には勝てない
自分より劣っているから安らぐ
その気持ちには勝てない
劣っている人に寄り添って
生意気な態度を取られて腹立たしく思っても
やっぱり劣っているから
泣 ....
火がないのに
いつでも
沸きたてのお湯が出てくる
昔、むかし
食卓の上に
魔法瓶という魔法があった
ただいまと
帰ってくる
冬のこどもたちのために
とても温かい飲み物が
瞬時に ....
はじめに くらやみがあって
(ここまでくるのにながい夜をくぐってきた
一枚いちまい重ねられていく
生まれるまえは
まったくの やみだったと
うすぼんやりとした
陽だまりの まえにすわって ....
誰もいない駅のホームで
私もベンチに座りながらいなくなった
目の前を横切る自動車たちも
時間の速力に負けてきれいに消滅していった
陽射しが背中から射し
線路越しに落ちる駅のホーム ....
野良が挨拶しているよ
疲れた毛を励まして
露出した皮膚を隠し
道の真ん中を
人々の営みの中を
堂々と
野生の威厳を振り撒き
声ひとつたてず
冷たい日差しを歩いているよ
こそこ ....
もう、疲れてしまった。
美しいものは、等しくコトバにできない、ことや、
瞼を瞑ることでしか、思い出せないと言うことを、
眠らない心が捉えてしまったのだ。
夕焼けすら 同じように見え ....
列車のベルが心臓直下で響きわたる
蒼白い片道切符を握りしめた駅
朝露で濡れた手は容赦ない
初夏の日、快晴、音楽、赤血球
揺すりあううちに まとめて角がとれて
本能が吹きすさぶ山頂のこの駅 ....
【酒場にて】
俺のような誇り高い男はな…
そのとき彼は一段と高らかに笑った
そして転げ落ちていった
何処までも転げ落ちていったのだ
私は月明かりの映える窓際で
杯から転げる音を聞いてい ....
その日は
お花見の桜より うんこの話のほうが
うつくしかった
お隣さんが用意してくださった花見弁当を囲んで
いっしょに 盲の方と お花見をした
お洒落な桜色のスカー ....
夫と言い合いになった日の深夜
冷蔵庫の前に這いつくばって
冷たい床に雑巾で輪を描いた
何度も何度も同じ輪郭を辿って
ただ一心不乱にひとつの輪を描いた
怖い顔で子供を見送ってしまった朝は
....
爆破された夜の屑が月の縁を滑っている
そこはどうぶつのように
けたたましく吠える滑走路
無限が限界突破するときのエネルギーを
絶対に忘れたくなくて日記をつける
取り込み忘れて風に揺れる洗濯物 ....
夜空でフラミンゴが歌いながら
右足を差し出すとき
月影は大地をそっと染めながら
ガラパゴスウミガメは
まるで天球を月が
動く速さでゆったり
未来へと歩みを確かめる
*
夢の ....
知人の見舞いに桃を持っていったが
急に呼吸状態が悪くなったと
面会はできず
桃は連れ帰った
食卓に置いた木箱のふたを開けると
縦にみっつ並んで
桃たちは姉妹のようだ
血色よく尻を ....
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