まどろみながら
僕が見失っていたのは帰る場所だった
それとも
もしかしたら行き先だったかもしれない
目に見えるものの手触りを確かめて
それをどう思えばいいのかを確かめていた
孤独な色だ ....
哀しみをうたにしたいのだけど、
感情は言葉になる前に溶解して、
つるりと喉の奥へ消えていったよ
哀しみはどうにか優しくなろうとしていたのか
最後にスープのような、甘い味がした
誰 ....
・
朝起きたらまず
しゅろの箒で部屋を掃き出す
すると部屋の隅々から
夢の中で捕まえそこねた小人や
夜のうちに死んだ蝶々などが
硬くつめたくなって出てくるので
プラ ....
自分が否定されない場所に逃げ込んだあなたは
人に干渉しない場所に逃げ込んだ
特に些細な事では感動しなくなった
今にも崩れ落ちそうな自分を
冷静であるかのように装った
あなたは文字を書き始 ....
・
口に酸素を含んでから
目を閉じて
美しい光景を思い浮かべる
すると酸素は舌の上で
ばらの味の二酸化炭素へ変わる
誰かがわたしに口づけしたときに
いい気持ちにれなるよう
....
洒落たカフェを借り切って開かれた
長い付き合いになる友人の結婚披露宴の席で
禁酒中のチナスキーは溜め息をついている
生ハムをかじっては水を飲む
祝辞を読んだ
新郎との付き合いの年数を数え ....
テレビから目を離すと、部屋が真っ白になっていた。壁には昨日買ったばかりの彼女の薄いピンクのワンピースがかかっていた。ワンピースは脱色されたように色を失ってだらりと下がっている。一人でいるのが不安にな ....
出だしのことばにつまったままの僕に
アルフレッドの声が聞こえてきた
日常を越えられない世界で
はいずり廻る者達のための
優しい歌が好き
この世 ....
私は燃え上がる
とてつもないエネルギーを
言葉にして吐き出すこと
言葉を読み耽ることに向けていた
私の燃焼期の思い出
燃えるような心を手に入れた
あの日から高まってしまった
鋭く研ぎ ....
カルムは眼を疑った
森の小川で水を汲む少女の姿は
自分たちの部族の女と変わらぬ人間に見えた
いや、より美しく見えた
乳房を隠すように上半身に布を巻いていたが
そこにまた魅力を感じた
( ....
*
澄んでいく記憶の端から
水色の汽車が走り出します
ため息や欠伸といった
水によく似たものたちを
揺れる貨車に詰め込んで
透きとおる空の下
滑らかなレールの上
どこまでも
どこまで ....
あるメロディーを聴いた
けたたましい騒音の中から
あるメロディーを聴いた
さかまく日々の雑音の中から
街に集まった人びとは
メロディーに合わせて歌を歌った
どんなに綺麗 ....
少女は影と仲良し
毎日毎日一緒に
日が暮れるまで遊んだ
少女は
周りの大人たちの話す陰口や
虚飾に包まれた世辞を聞いては
呆れ果てていた
大人になんかなりたくないわ ....
朱夏を流しに
秩父の渓流へと向かう
蛇行しながら伸びていく
山間の道に
カーナビは沈黙する
助手席では赤い女が
道を間違えないでね
と声をあげて笑っている
いったい
何処に行けという ....
有史以来
人が
夕焼けに勝った瞬間はあるのだろうか
魂が離れ
棺の中で
物体が
停止する時
そこに
無い
モノへ
向けて
投げられる
すさまじい
悲しみ
注目
勝るといえ ....
アスファルトに焦げ付いた影を切り取って
家へ持って帰った
壁に立て掛けて
白いチョークで
目を描いた
耳を描いた
鼻を描いた
口を描いた途端
影はしゃべり出した ....
〈海辺にて〉
水平線に帽子を被せている人を見た
世界と対等に向き合うということは
それほど
難しいことではないのかもしれない
子供たちに蹴飛ばされた波が
海の向こうで
砂浜に描かれた絵を ....
霊安室には
色とりどりの車が安置されている
存在とは形ではなく
温度で定義されるものらしい
すでに
どんな夏の思い出も
語ることのない麦わら帽子の穴に
誰かがキーを差し込む
ギアを ....
水を描こうとすると
モチーフがうまくつかめない
ただただ手を濡らすだけで
画用紙は白いままだった
だから僕は画用紙を水に浸して
水を描いた
コップの中の水の
揺らめき
覗いてみたら ....
「序詞」
ゆりかごの中で
小さな戦があった
理不尽な理由とプラントが
長い海岸線を覆いつくした
けたたましくサイレンが鳴り響き
その海から人は
眠りにつくだろう
....
玄関のチャイムが鳴ったので
仕方なく立ち上がろうとしたら
背中の上に
重たい鳥が
止まっていた
「どいてくれますか?」
黄色の羽根を
ぱたり、と閉じて
ずん、と居座る
「私は止ま ....
自転車を漕ぐたび空を仰ぐ癖がついて一年
深刻に物事を考える振りをはじめて八年
うたわれた星の残像を
閉じた目で反芻する日々が
二千日に少し足りない位
続いて今日に至るわけだから
この身体に ....
愛しい人が欲しいと思ったので
近所の画材屋さんから
たっぷりと粘土を買ってきました
しっかりとこねた粘土で
右足のつま先からペタペタと
粘土で型を作っていきました
下半 ....
あたしは河だった。
両岸の、
親族と参列者を満たす河だった。
あたしは、
泣いて、
泣いて泣いて泣いた。
やがて涙は両岸に溢れ、
氾濫し、
洗い流した。 ....
静かな演説中に無意識の内に人を殺めてしまうような
一行毎に予告されていて
時間が無いような空間で着実に時間が経過している
もはや舞台は、記憶とたった一枚の写真で十分だ
そして、未来から流れてく ....
人違いをした
人違いしたのは
はじめてではなかった
はじめて人違いしたのは
デパートのおもちゃ売場で
母親とまちがえて
知らない女の人に
おもちゃをねだったときだった
知らない女の人は ....
俺の爪の内側で過去が炸裂している
爪を引き剥がして過去を救出するのもいいが
このまま窒息死する顔を見ているのも面白い
カバに羽が生えた
お前の卑屈なカバは今日も東武動物公園だ
そこからロ ....
夢を見ていて悲しいことがあると
純粋に悲しい感情だけが高まって
夢の中で
押しつぶされそうになってしまう
そんなとき
胸の上の猫を払い落とせば
急に楽になれる
目を覚ますと
猫のいない ....
落とし穴を掘った
たくさん掘った
通り行く人たちが
すこんすこんとはまっていった
はまった人のいる穴に
名札を立てかけて
名前なんて知らないんだけど
名札があった方が便 ....
・
女子高生のルーズソックスの中には
何が入っているのだろう
はるか昔
恐竜が生きていて
まだわたしが女子高生だったころ
何度もルーズソックスを履こうと試みたが
あの絶妙なふくら ....
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