十二月二十三日、太郎君はノベンバーに会いに行きました。クマみたいに大きくなって、幸せそうに座っていました。ノベンバーの体の表面にヒビがはいっているのが見えました。太郎君が近付くと、ゆっくりそっちを向い ....
むかし、俺に親切にしてくれた人がいた。
初めて入ったそば屋のおばちゃんだ。
俺は浪人生でひどく痩せていた。
まるで勉強ができなかったので、
ひとつも大学が受からなかった。
どうやっても勉強な ....
たとえば
雨の音で目が覚めて
カーテン越しのグレーの光に
唾を飲んで
身体をこわばらせる
それが世界だ
背中に貼り付いた憂鬱を
引き剥がすように
歯を食いし ....
いい友達関係にはそろそろうんざりしてきた。僕は彼女が好きだ。自分から告白するのが恥かしくて、僕が何気なく口にした言葉が、彼女の長い告白を引き出した。長い長い、哀しい告白。僕にはどうすることもできなかっ ....
自明なるものに
囲まれているから
ぼくらの内側では
一切の悪が
育ってゆくのだ
風景としての
自分に
すっかり
慣れてしまった
ぼくらは
生まれた瞬間から
すでに
年老いて ....
せっかくお風呂に入ったのに
自分のからだがすっかり無くなっていた
どこかに忘れてきたにちがいないけど
いくら思い出そうとしても
ここにいた時には確かにあった
という自信がもてない
....
電気信号によって動かされる心臓
によって体内をめぐる血液
手足が冷える末端冷え性
冷たい自分の手を見る
まるで女の手
机に落ちた髪の毛
思い通りにならないあれこれ
無呼吸症候群
近 ....
あの人はきらいって
言われてるらしい
私の
知らないところで
しずかな毒が
含み笑いで流される
私は
ビルの屋上で
ぼんやり街を眺めてる
きらい
きらい
きらい
....
つまらない時を過ごして
つまらないものを食べて
つまらない家族と
つまらないパック旅行
つまらない景色を見せられて
つまらないを連発する
そんな旅をしてみたいものと
つまらないの原料を作 ....
優しい顔の朝は嫌い
やるせない正午の空気が嫌い
やがてくる夕刻のわざとらしさが嫌い
夕焼けの終わりに
ゆらりと一瞬揺れる炎は少し好き
酔ったように戯 ....
固定された都市。流入する者と流出する者。
その背中には皆一様に大きな鳥のくちばしが
あり、そして光沢がある。鳴くわけではなく、
また、捕食するわけでもない。ただそれは背
中にあり、そ ....
靴を失ったの
裸足で歩くとガラスの破片で切るわよって
母が脅かすから
早く走ることも忘れてしまった
外には怖い人が沢山いるわよって
母が脅かすから
一人で世界を見ることも忘れてしまった ....
先週教室のみんなで飼っていた「リス」が死んだ
死んだというか「窓」から逃げたのだ
クルミを食べるときに動くほっぺや小さな歯
かごの中を走ったりしているときの爪のかりかりする音
たいそう人気者の ....
竹やぶ焼けた
死体が出てきた
竹の煙に燻されて
肉の良い匂いがした
警察の人が毛布にくるんで
運んでいた
うぐいすの鳴く木の下を
真新しいランドセルの小学生が
二人、三人と通ってい ....
道に迷って途方に暮れて
そんな自分が哀れで
みすぼらしく思えたの
しゃがみこんで
うずくまって
いっそ
この血まみれの足が
地面と同化するまで
ここでじっとしていようかしら
....
「『たたかう』んだよ。」
生まれて初めてRPGゲームというものをやった私に
見るに見かねた兄はそういった。
ブラウン管に広がる広大な異世界を前に
右も左もわからない私は
兄の言うがままにカー ....
新しいページは
触れただけで指が切れるほどシャープで
真っ白いページは
あっという間に血まみれになる
歴史が一度終わって
すぐにまた
次の歴史が始まったのだが
あまりにも鮮やかな手口 ....
雨を避けながら私は歩いている
傘に守られて私は歩いている
円形の
ぽっかり浮かぶその空間で
私は世界を眺めている
雨粒が傘の端から端から
あふれるように流れている
それは本来私の上に ....
「森」というには小さすぎて
「茂み」というには大きすぎる
だが「林」という感じでもない
そんな中途半端な場所が
M公園の奥のほうにあって
その中途半端な場所のさらに奥に行くと
「広場」 ....
気が着くとパンツが見えてる
いつのまにか友達とはぐれてる
頭のネジがどっか緩んでる
でもどこを締めたらいいのかわからない
いつも不安で
原因はどこか遠くに
高いところがキライ
落 ....
「恋してないのに恋の詩がかけるんるんですか?」何年か前にある女性から問われた事がある。その人は小説を書いていて、自分が必ずしも体験していない事も書いているのに、詩は気持を書くもの、そういう気持になるき ....
先日、父方の伯母が亡くなった。
父は十人兄弟の六番目。
兄弟のなかで、この世を去ったのはこれで二人目になる。
雨が降っていた。
最初父は、「お前は来なくてもいい」、と言っていた ....
きのう
夢の中で
誰かが死んだでしょう?
ボクの夢の中で
毎日
誰かが死んでいく
君はそのことを知っている
それは
君が仕組んだことなの?と
おそるおそる聞いてみる
ひ・み・つ ....
どんな呼吸をしようか考えていたら
肺のひとつひとつが切なくなって
僕はため息をついた
生きるために生まれてきた
それだけでよかったのに
人は人を殺 ....
どんなに遠くを見つめても
そこは一面のブルースカイ
「青」は
けしてきれいな色じゃない
少なくとも
けしてきれいなだけじゃない
無邪気に微笑んで
悲しみを忘れるために見上 ....
人間を創り直そうと思いまして
街中にごろごろ落っこちている部品を
拾い集めて廻ったのデス
殻は組み立て終わりましたのに
人間を模した其れは、いつまで待っても
まったく動かないのデス
....
気がつけば部屋中掌だらけだった。私は小さ
なため息をつきながら場所を空けて座り、滞
っている作業を始めることにした。
遅ればせながら私も掌を買いかえることにし
たのだ。確かに飽きてきたとい ....
留守番電話に入っていたYの声
「あ.うん,ごめん……死にたいです.じゃあね(笑)」
そしてあわてて書いたようなメール
『留守電に変なメッセージ残した.気にしないでくれ』
電話をかけなおすとYは ....
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子どもを産んだら{ルビ早月=さつき}と名付けようと決めていた。
だけどぼくは子宮を持っていない。女には興味を持てなかった。だからといっ ....
(喪失の物語)
毎日の記憶が体積して
棚や机の引き出しや流しの下など
部屋じゅうに溢れて暮らしにくくなったので
彼女は思い立っ ....
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