パソコンからの「ようこそ」
という挨拶はもう味気なくなって
いまは
あなたの素朴なよびかけにこそ
すなおなきもちになって応えたい
春なら菜の花畑の ....
電車の中で目を閉じている
線路の小さなおうとつに床板が小さく震え
進んでいくのがわかる
まひるに
道路の上で
ビルに両端を
切り取られてしまったひなたで
ぼんやり煙草を吸っていた
....
元栓を開ける
妻の背中がさみしくて
それでも朝は訪れる
目玉焼きを焼いたら
少し黄身が左に寄って
それを僕が真似る
どこ見てるの
ため息混じりで聞く妻の声も
どことなく左に寄 ....
浅い眠りから醒めると
海鳴りが 体を満たしていた
分厚い波が海岸を打つ重い震え
また ゆるやかに 砂の眠りへ引きずり込む共鳴
海辺の午後
見知らぬ世界に降り立った身軽さ
過去を投 ....
07/02/03
回転計の願いに
知らん顔する
鶏頭の花
空には白い雲が群がり
レースの終りを告げている
ガス不足のマシンでは
回転も不足 ....
ふたつの手のひらを
使いこなせない昼下がり
耳を澄ませてわたしは
しずかに風を
遮断する
すべては
それとなく遠い気がして
けれども確証はなくて
言えずに続いた
....
どうしよう、スタートまであと何分も無いよ
周りを見渡せば皆速そうな人ばかりだし
私がここにいるのって何だか場違いに思えてきた
友だちに誘われはじめてはみたけれど
誘った張本人はとっくの昔に ....
ティースプーン2本が
彼の人生の全てだった
安いアルミで出来たそれは
既に古ぼけ
2本重ねてもぴったり合う事は無く
カチカチと無機質な音を鳴らした
男はそれが好きだったし
いつもポケット ....
あかりを 消して
ひらいたら きずあとを
指で なぞって
たがいの からだを
すみずみまで 読む
光がきれいだといいますが
朝日が夕日がきれいだといいますが
太陽で人は死ぬんだと思うわ
....
浴槽に浮かんでいた小さな虫の死体
小さな小さな
わたしが少し波を立てたら
もう沈んで見えなくなった
彼は
どこまでも広がる青空を見ただろうか
暖かな太陽のひかりを浴びただろうか
....
携帯のボタンの隙間に
塩が挟まっている
やりきれない
心の隙間には
塩のようなものが挟まっている
やりきれなくなる
おもいっきり泣けばいいのだろうけど
そうもいかない
わた ....
ときどき妻が
キッチンの引き出しの中をのぞいて
笑っているのはなぜだろう
中をのぞこうとして近づくと
あわてて閉めて私を追い払う
みんな眠ってから
トイレに行くふりして
開けようとした瞬 ....
ある日ふとあなたは
わたしの優しい母となり
慣れないヒールの高い靴を履いたまま
図書館のカウンターのはるか内側
シチューを煮込んでいる
戸外、三角ポールの静かな
駐車禁止区域に来 ....
ダイニングテーブルのうえには
いま
まさに呪いのかたちがある
パン
なみなみと注がれたぶどうジュース
半熟の茹で卵
干からびたベーコン
銀のナイフとフォーク
それらすべてが
....
君は鳥のように 自由でいて
羽を広げて 青い空を駆けまわって
僕は大きな木でいよう
君が疲れたときに 羽を休められる
雨から君を守るため
枝をいっぱい伸ばして 大きな葉を ....
一人ぼっちだ
花々の中で
麦畑を風が渡って
そこに点在するポピーは
そのひとつひとつが
恋で
黄色と赤の美しい翼を持った小鳥が
巡礼道の真ん中で風に吹 ....
シオリちゃんは わたしを見つけるといつも
はじめまして、と言う
わたしも はじめまして、と言う
たくさんいっしょに遊んでも
次の日には わたしのことを覚えていない
でもシオリち ....
たくさんの鳥
そして少しの懐かしい人を乗せ
他に何も無いような空港から
飛行機は飛び去って行った
覚えていることと
忘れていないことは
常に等量ではない
夏の敷石の上で ....
.
雨は夜更け前に
一段と激しくなるだろう
永遠を探していた
一人、何もない道を歩いて
世界の事なんて考えながら
夢と現実の狭間を
さまよっている
母が死にました
川はい ....
.
笑う事をやめた月
わたしはそれを
悲しみと呼んだ
いつからかわたしたちは
色を忘れてしまい
光を失ったまま
月と一緒に
やせほそっていく
ここは
あの人のいない ....
.
母が死んだ日の翌朝
わたしはいつもの時間に起きて
いつものようにご飯を食べた
横たわった母の手を
そっと、さわる
(つめたい、手)
(瞼はかたく閉じられていて)
これが ....
逆光でよく見えなかった顔は
少し寂しそうだった
あの人、もうすぐ死ぬの
朝靄に紛れて
毎日出かけていく
今、生きている
その事を
実感したいのかもしれない
かわいそうな人
....
朝露が髪にあたり
それは次第に
大量の雨へと変わっていった
頬を伝って体中に
染み渡る
冷たい雨
歪んだ風景
溶けていくわたしは
雨、同化していく
高すぎて見えない
....
少し遠くの楽園から
手招きしている人がいる
とうめいの雪が
小さく呟きながら
わたしに降りそそいでくるのが
とても心地よくて
夏の雪
月の白さに隠れて
楽園を照らす
わた ....
遠いところへ行く
だれもいない所へ
わたしという存在を
消すために
紫がかった夕暮れ
落ちていく太陽を
目で追う
暗闇が訪れた時
わたしは、無に帰る
砂の混ざった荒れ ....
深い青色をした海が
少しずつ近づいてくる
わたしだけでは
とても耐えられない
そんな場所で
あの人は毎日
立ちつくしている
冷たい手のひら
からめた指がふるえる
見つめると
....
夕暮れの風が皮膚に冷たくあたる頃
さざ波がわたしの足をさらっていく
水にうもれた死は
ゆっくりと潮をひいていく
(ゆれる)
悲しみに
消えてしまった夕焼け
わたしを照らすものは
無 ....
藍色に染まっていく
わたしの目の前には
小さな蒲公英が
たくさん並んで
誰かが一つ一つ
ふみつぶしていく
その様が
おかしくて
笑ってしまった
深い所にある
重いトビラ
....
夕焼けの水平線に
引き込まれるわたし
明日の事も
分かろうとせず
無を、怖がる
窓辺に映る雲は
西へと動き
わたしは
小さな音を鳴らしながら
ゆらゆらと流れていく
裏がえっ ....
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