宇宙を開腹した
するとそこには
赤々とした地球が
漂っていた
手でそっと拾い上げ
状態 温度 色彩
を確認した
どれも一定基準を
下回っていた
冷却処理を施し
月の栄養を
与 ....
夜明けとともに
目的もなくふらふらと
外を歩いてみる
そこの夏は冷たかった
葉の上の雫に触れ
その一瞬にしかない冷たさは
手のひらの中で
やがて消えてゆく
川のせせらぎの音も
....
今まで見えなかったものが
見えるようになった
自分が生きている今の世界が
迷路になっている
高い壁と細い道しかない
何も拠りどころもなく彷徨い続けると
展望台と書かれた案内板があった
そ ....
夜の列車から見るその風景は
何も動いていなかった
駅を出発してから
ずっと走り続けている
次の駅はもうすぐなのだろうか
それも定かではない
四人がけの座席に
自分だけかぽつんとだけ
窓 ....
あとひとつ
問題をとけば
あなたは
無傷で
頂点に立てます
これが
問題です
え?
難しい?
あなたらしくありませんね
どんな問題も
....
ビルの間から差し込む月輪の筋が
静寂に包まれた街の噴水の塔を照らし
風が精緻に形どった街灯をなでた
噴水の前に赤毛の女が立ちつくし
トランペットを月明かりにかざした
そして風が吹き止むの ....
明日の夜 君はきっと 僕に似た女の子とキスをする
月の光りに照らされて 綺麗な影が伸びるだろう
僕が嘘をついて 君が嘘をついて
ふたりがうまくいくのなら
良いんじゃないか
....
風は言葉を求めていた
無言で動き続ける自分に
自分の存在を
何かにあるいは誰かに
伝えたかった
街は重厚な壁に遮られ
跳ね返されるか
止められるかで
風の居場所はなかった
風は森 ....
大人になんてなりたくないと
思った時から
ずっと星を探していた
将来への自信と
可能性への期待に満ち溢れて
星は必ず見つかるものと
全ての人に全ての星があると
それが当然だと思っていた
....
夏が黄色くなってゆく
太陽の色に近づいている
夏をぎっしりとつめて
鮮やかな黄色になってゆく
黄色くなってゆく夏は
水に中に落ち
ぷかぷかと気持ちよさそうに
泳いでいる
近くで ....
誰も知らない夜明け
誰にも聞こえない鳴き声
一羽のニワトリが高層ビルの屋上から
フワリと身を投げ出した
必死にもがいて羽ばたいて
自分にも飛べると思ったのかしら?
あなたは ....
あずき色に染まり
落ちてくる空を
二日酔いの電信棒たちが
支えている
昨年を引きずった神さまに
ぼくの肋骨を
あずけることはできない
だからといって
飛び去った鳥たちを
埋め戻すこと ....
森の中で
がばっと大きな口が開いていた
大きな口は
緑色の歯をいつも見せていた
晴れた青い空の中で
流れてきた白い雲を
一気に飲み込んだ
歯が揺れている
近くまで寄ってゆくと
自分が ....
もし、80歳ぐらいで、先に僕が死んだら
「やっと死んでくれて、せいせいしたよ」と笑ってください
君が死ぬときは 僕が迎えに行きます
君は
「爺さんのお迎えが来たよ 、、、まだ、早 ....
朝
その風は
わたしのスカートを
やさしく翻した
その風は
きっとあのひとのところにも
届くのだろう
わたしの気配を
少しだけ残して
あのひとはその風に気づきもせず
朝の支 ....
セミの青年やっと殻から出てきたよ。
今から鳴き方の練習をするようです。
では皆さんこっそり聞いてみましょう。
マ・マ・マ
ミ・ミ・ミ
ム・ム・ム
メ・メ・メ
モ・モ・ ....
テレビの中のひとが
環境問題について話していました
テレビの外のひとは
そんなものだろうとみていました
テレビの中と外の境目に
三つの色がありました
太陽と植物と空の色でした
ひとの色で ....
車椅子に座る
小さいお婆ちゃんを
前から抱きかかえる
少し曲がった
「 人 」という字そのものに
なれた気がする
ごめんなさい、ごめんなさい
と繰り返すので
な ....
気付かないうちに
また季節が巡り
なにげない日常の色が
景色に映っていく
変わり行く景色
変われない自分
微かな秋の気配
いつもの帰り道
ふと拾い上げた落ち葉一 ....
心の中の海が騒いでいる
いつまでも鳴り止まない潮騒
僕は不安でたまらなくなる
こうして本当の海を眺めていても
聞こえて来るのは僕の心の潮騒か
それとも目の前にある海の波の音か
それさえ ....
これから向かう家庭教師先の
国語のテキストを
電車の中で読んでいた
その内容はあまりにも悲しかった
戦争で両親を失い
家もなく食べるものも満足いかない
それでも生きようとする
子 ....
鉄は錆びていた
光沢は外に発しない
錆びきっていた
鉄は昔を思い出した
あの銀色に輝いていた自分を
当然だと信じていた
今はぼろぼろな茶色の体が
悲しかった
雨に濡れて
少しずつ ....
テレビをつけると
瓦礫の山から掘り出され
額に血を流した中年の女が
担架から扉を開けた救急車へ
運び込まれていた
その夜
テレビの消えた部屋で
歯を磨き終えたぼくは
....
そこに風があった
葉を揺らし
湖を渡っていた
やがて街へ
そして自分へ
そこに風があった
花に触れて
川を横切った
やがて海へ
そして彼方へ
一瞬の風は
また一瞬の風へと ....
雨が止んだ
そして他の誰よりも
最初に光を見たのは
ぼくだった
光は止まっていた
その光をくぐるようにして
白い蝶が飛んでいる
風も止まっている
雨が止んだ
閉じていたものが ....
父の傘は
とても大きかった
雨が強く降ろうとも
何の心配もいらなかった
父はその傘を
若い時に買ってから
ずっと使い続けていた
何度か壊れかけたが
それでも修理して使った
雨 ....
ある日
耳を失った少年は
歩いている道で翼を拾った
少年はその翼を背中につけて
ふわふわと自由に飛んだ
何も聞こえるものはなかったけれど
少年は音を取り戻した
ある日
目を失った少 ....
朝のバス停に
雨が降っていた
傘一本だけで
自分の身を守っていた
バスは来ない
時折り
普通自動車が勢いよく走りぬけ
傘を前にして道路の水を避ける
気づけば
髪の毛が濡れてい ....
家族で豪華な料理を
食べに行った
お父さんとお母さんは
とても満足そうだったけど
ぼくは
おしゃべりしながら
家族みんなで分担して作った
カレーライスの方が
美味しいと思った
家 ....
あの夏はもう過ぎてしまった
まだ子どもの頃
特に待ち合わせをしなくても
いつもの公園に集まって
そこから林に探検へ
入ってはいけないような場所に
金網をよじ登る
そうすることが夏だった
....
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