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黄色の花は枯草に足元を譲り
冬の陽だまりが
影もつくらず
土に隠した春の気配を
内緒で温めている

霜を忘れた僅かな緑は
十二月の大気に身じろぎもせず
去年のうたや
 ....
雨の糸の隙間に
夜は満ちて
ストーブの熱が
そこだけ幸福とでも言いたげに
ほんのり春を創っている

きみと並んで傘をたためば
二人の水滴は
余分な約束事のように散らばって
冷えた ....
雷鳴に少し怯えて
ようやく雨が遠ざかると
いつしか黄身色の月が
丸く夏の宵を告げる

湿度が首筋に貼りついて
ついさっき流れた汗を思う

狡猾な二本の腕を
互いの背に回して
策略の ....
ソーダの泡のような微睡みのなかで
懐かしい とても懐かしいその面影に出会った

記憶の深くに留めようと
すればするほど
表情は淡くなる
ならばこの夢でだけ覚えておこうと
思い切りこころを ....
愛しきものに残された
僅かな時間が
手出しを許さず
無表情に過ぎて行く

死の匂いのする
冷ややかな居心地に耐えかねて
虚ろに庭先ばかりを見ている

こんな哀しい歯痒さのなかで
無 ....
風景は翠に染まり
懐かしい記憶に薄荷の味がする

今、ひんやりと誰かの影が映った

声を掛けようとしたら
今日の霧雨が人差し指の形になって
口元を制止する

濡れそぼった公園のベンチ ....
風が吹き抜ける
うたから零れる水滴に
滲んだかなしみを知る

きみを包む町から
初夏の気配を纏って訪れたうたは
インクの匂いをさせながら
紙を静かに滑り落ちて
こころの中に海を創る
 ....
こんな晴れた日
野の緑はしなやかな腕を
天に向かって伸ばし
陽射しに仄かな生命を温めている

草むらをすり抜ける風は
蜜蜂の
しじみ蝶の
か細い肢に付いた花粉を
祈りに変えて
次の ....
散る散る  ちるらん
花びらの
風に任せた行く先は
夏の匂いの西方か

揺り揺る  ゆるらん
水面に降りて
さざめく海に恋がるるか

思えば君に逢うた日の
宵は海辺に砂嵐
さらさ ....
スプーンの背で潰した苺から
紅が雲に届いて夕焼けになる


静まれ  しずまれ
桧扇を広げて
漆黒がそこまで来ている
上着の釦をもうひとつ閉めて
心して迎えよ

静電気をちりち ....
黒い静寂の隙間から
甘く短い便りが届き
振動はそのまま
片耳から深くに伝わって
封印が容易く解かれる


ひとつひとつの接吻が
蝶になって
夢心地だった恋の日も遠く

雪と降る ....
きっと白に近くあり


霧雨を含んだ夜のなかに
咲き急いだ桜がひとつ
白く闇を破る

陽射しを浴びて
咲き競うのは
きみ
きらいですか

こんな湿った濃紺の中で
意表を突いて ....
私鉄沿線のダイヤに則り
急行列車が次々と駅を飛ばして先を急く

通路を挟んだ窓を
横に流れるフィルムに見立て
過ぎた日を思えば
思わぬ駅で乗り降りをしたわたしが映る


網棚に上着を ....
春が

     はるが

傘の水滴に溶けて
声も密やに
幼いまるみの春の子に
子守唄を聴かせる


まだ固く木肌の一部の様子で
繚乱、を隠した蕾は
雨にまどろみ
陽射しに背 ....
うたを綴る
ひとつ ノォトに
うたを紡ぐ
ひとつ こころに
今日の言葉を装い
明日吹く風を纏う

雲に似て
恋に似て
刻々とかたちを変えるその憧憬を
留めるため

小さな引き出 ....
宵闇は
切り子細工の紅茶に透けて
紫紺も琥珀の半ばでとまる
グラスの中では
流氷が時おり
かちり
ひび割れて
薄い檸檬の向こうから
閑かに海を連れてくる


壁の時計は
ゆるり ....
切り取って
もう少し違うかたちに

貼り詰めて
色硝子の欠片たち

鏡に映った髪が
指先でもつれて
ささくれた爪が
余計に乱暴になるから

ひび割れが目立たぬよう
綺麗なステン ....
数学が苦手だって言うのに
もう少女ではないから
計算違いは許されない


髪を伸ばすこと
それは可能性
ダイエットコークの味を好きになること
それは目論み


統計では
きみの ....
軋む
一歩ごと
軋む
心ごと

逃げ込んだ森は
甘美な瀞が満ち
わたしは愛しい景色を
凍る爪先で犯してゆく


痛む
一言ごと
傷む
一夜ごと

明日を司る月が
昨日 ....
赤錆の目立つ時刻表のバス停に立ち
来るか来ないかの
微妙な時刻にバスを待ってみた


進路の前にバスは無い
順路の後ろに気配も無い


行く先も馴染みの無い駅の
名前の書かれた ....
花の表紙のノォトの中に
それはそれは
大切な風に書かれていた


日記であったのか
詩であったのかも
定かでない
淡き恋の想いについて
吐き出された拙い言葉の塊


まるで ....
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