足したあとで引いた
寒い店で電気ブランを飲む
夜の新宿 昔の女の耳の形で
魂は柔らかく{ルビ凝=こご}っている
お前には情熱というものがないと云われた
....
羊羹を冷したような
ピアノの音
しかくい木箱が
引きずって くる
指 ゆび 指 ゆび ゆび
指 指 指 指 ゆび 指 指
指 ....
{引用= かなしみの
直方体は
藍色の布に 屹立したまま
*
僅かばかり
目を凝らすと
覚醒した レールの冷たさ
*
明らかに 二つ以 ....
海綿じょうに
たわんだ 個室たちが
アメジストの夜におぼれた
櫂は
まっぷたつに折れて
歌うだけになった……舟
ことばではないわたしたちと
わ ....
忘れた後、
しずかに思いだした
ひかりのように笑って
銀色の並木道を駆けていく
なめらかで黒い髪の毛
もう 振りむかず、
ひとふさの歌に ....
おおきな臓器になり
わたしたちはつぶれている
区議会議員のちらしが机の上で
三・四枚重なり 曇っている
寂しさを測る ものさしの
目盛になったような気分
....
やさしさが
夢のかげになって
ぼくをとおりすぎた
にわか雨がふる
じき 夕暮になる
街がせわしなくなる
この時を忘れられないかもしれない
....
正しくあろうとして
わたしたちの舌はもつれた
東京で あなたを愛そうとして
口付けを重ねるしかなかった
偽らない わたしの目に
毎日の夕暮は かなしか ....
らりるれろが 沢山
雨路に かさなっている
新宿三丁目
煙柄のビイル
先程まで、思い出は
紺碧の歌だったけれど
らりるれろ
わたしは いま ....
灰が 赫になって
なにしれず 殖えていって
(オフィスビル大のスタインウェイ・ピアノ
(あなたたちは小さく並んで 響きになる
(幾つかの きたない歯のように
....
芥子色の毛球が
冬 おもてで鳴っている
うるうると 陽のひかりが
今 すこしだけ まぶしいのです
水のかざりを戴いた
からの土が 喫茶店をはね、
わ ....
湿りけのある
くれないの緑の葉、
あしもとに踏みしめていく
いつの日か わたしは何故か
あなたに抱かれていた
撃たれるように
撃ちころすように
....
ずるい 壁のなかに
流砂めいた音がしまって
わたしへ近づいて こない
明け方 俯き 烏龍茶をのみながら
アンナ・カレーニナを読んでいるわたしへ
響け おおきな ....
なにかに 置いていかれてしまった
わたしらがわたしらでなくなるまで
ひとかけのクラクションは膨らみ
小さなまま大きくなった
波を待つ肢体のような
五月蝿さ ....
かたい骨のなかの
やわらかい骨にふる
いっしゅんの雨にうたれて
街はくずれた
犬たちはしんだ
わたしがほろびた
そうして きみへの優しさが
只 ....
ひかりをやぶき
いくつものかたちが
そのかたちをしているのをみる
それは偶に 惨めなことだ
夕焼けに似ていない
コロッケに似ていない
どうでもよ ....
{引用= ビニル箱がバイオレットに並び・はや私は夜に気づく
(高円寺南三丁目の夜)
バイオレットにビニル箱が廻り・はや私は夜に気づく
(水晶体の所有する夜)
ビニル箱 ....
くみたてられた餌は
夏 ほどけた さむい椅子で
たくさんの ハープをはじく手
ほどなく 月いろの 猫になって
塀をとおり はぐれていった かな?
誰かはしらないが
そこに座っているものが
瓶をあけ 液を飲み口を拭い
わたしを木の葉のように見つめる
これといって使いみちのない
色とりどりの正しさたち ....
枯木のまえに坐り
わたしは次第にあなたになる
滲む
たくさんの色たちのように
あなたも次第にわたしになるのか
河のかげにうつろう赤茶色の葉
昼の ....
脳内で柿の実など解れた
歩道橋に立って私たちは
水を飲み 青い街の影を観る
幾つもの眼から切除された
さびしい視覚をもちいて
ずっと眼に映っている
一本の茄子がうつくしい
煙のなかで尖っている薬缶
わたしたちを吐き出しつつある
硬い いくつもの肺
いつまでも私は生きると思った
午後 分厚い若葉を見つめ
団地伝いの風が私の中の
空箱に投げこまれ回り続け
……その後で死ぬのだと思った
誰とも 私は
違うのだと思 ....
黒いきみの髪がひかって
何も云えなくなるのは良い
全部云ってしまっても良い
くちびるがはずむ桃いろの夢
剥いたばかりの林檎のように
とても素敵な匂いのする ....
眼窩から此方側へ延びている廊下に沿い
雨に濡れた数人の男たちがワツワツ歩いていく
それほど速くもないしそれほど遅くもない
私は三和土に置かれた長靴を先刻から見ている
....
硝子玉の内側で万物が絶え間なく波打っている
{ルビ罅=ひび}割れた海原や燻んだ山脈や水色に澄んだ植物群などが
混じり合い・透明に濁った一つの音声に結んで震えている
それを ....
よごれた犬が
私たちをみているのは寂しい
傷ついた脚を引き摺るようにして
暗く 穏やかな穴にひそむ
獣のかたちをした闇におびえる
あなたの瞳に濁るあどけな ....
ふた房の葡萄を 若草色の椅子に居って
獣じみた何ものかがムギムギと喰っている
葉群れの隙 測られつつある距離のように
細く長く伸びていく耳鳴りになりながら微光が
わ ....
時折、ひとの心から
とおく離れてわたしは
砂利道に迷い出たとかげになる
枯れ葉の屑どもに隠された光の粒が
もっと大きな金色の光に攫われていくのを
わたしは見る ....
あなたを思うと、
わたしの心に幾つもの
穏やかな図形が描かれる
熱い珈琲をかきまぜながら
窓の向うの樹をあなたは見ている
たぶん、世界じゅうのすべてのものが
....
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