忘れてはならないものらしい
愛した男の名前と
その男を奪った女の名前
そして事の顛末一切合切と発せられた言葉の一字一句まで
こんな近くに勤めているとは思わなかった
東神田の交差点を右 ....
もの憂いのには もう飽きた
あかるいうたを 謳いたい
夜明けのまえが なお暗い
とはいえ わたしは しっている
こごったような 濃紺の
ぴちりとパ ....
女の声は殆どが水で出来ている
舐めとればそれはひどく甘ったるくて
お祭りの屋台で食べた綿菓子みたいに
口がべとべとになってしまうんだ
男の声は殆どが煙で出来ている
吸 ....
忘れ去られた 古い校舎
人知れず
ひな菊が一面咲く
小さな 白い縁取りをした
数知れぬ麦藁帽子
花の絨毯は緑に抱かれ
さやかな風が吹き 過ぎる
もう夏の気配を孕んだ晩春のそれは、
....
{引用=
いなくなったきみを探していたら
僕は自分を見失ってしまった
砂浜を歩くたどたどしい足元が
早く何処かへ連れて行ってくれないかと
波にさらわれることを望んでいるこころは
宙に浮 ....
駆け上がったスケールの天辺で
頭にティアラを乗せられた途端
3オクターブ下の森へと転がり落ちた
黒鍵に打たれた身体に赤い痣が散る
地面に投げ出された
ティアラの真直ぐで静謐な輝きは
脆い影 ....
内地から釣りに来た太陽と恋人たちを
島尻の斎場御嶽にガイドする。
財布から百円玉を取り出し受付機でパンフレットを買うのを指笛に
午後の観光が踊る。
....
<上>
暗中模索のキッチンで
夜食を見つけて意気揚揚
紆余曲折のビール腹
逆三角の栄枯盛衰
横行闊歩の食欲を
抑えられない艱難辛苦
気宇壮大の体脂肪
Gパン入らず苦心惨澹
....
白以外の精神で安定した毎日を
森は隠れるのに適している
しかし七人の人殺しが現れて
かつての白雪姫が息を吹き返したのだと伝えると
木々の色は頼りなく薄れ
ああ、私はまた別 ....
一輪の花を愛でるのは、いいことだ。
五月の風に身を揺らし
花はハミング、するだろう。
一輪の花に寄りかかりすぎては、いけない。
細い緑の茎が儚くも
折れてしまうことの、ないよ ....
濡れたままで立ちすくむ
シャワーがザァザァと音を立てている
頭から水に撃たれたまま僕は
君の記憶すらも流してしまおうとしている
モウドウデモイイヤ
光を感じることができなくて
荒む ....
氷の粒で描かれた
白い真一文字は
いつかの憧れに
まっすぐ向けられた
誰かの眼差しに似ていた
すぐに解れてしまう
白い真一文字は
いつかの過ちに
未練たらしく絡みついた
誰かの言い訳に似ていた
....
どこかで
見たことのない
同じ夜を告げるのならば
眠らずにいよう
刹那の翳りも惜しまずに
空が目を覚ますまで
満ち欠けを繰り返し
地上を見つめ続けるのは
この世界の何かが
わ ....
眠れずに
話し続けて窓から見えた白い月
集合場所は明かされぬ森の中
獣達は眠らない
獣のような人間も眠らない
人間もまた獣のように目を光らせる
夜にメスを入れる ....
覚えていますか?
私達が種だった日のことを・・・
ふらりと寄った鎌倉の古時計屋で
無数の時を刻む秒針の音に包まれながら
独り置かれた{ルビ勾玉=まがたま}の
黒い瞳と、目が合った ....
{引用=
それぞれに交差する
よっつのひとみ
そのやわらかな表面は
甘いのだろうか
それとも潮の
見詰めれば
卵黄を飲み込むように
喉を滑らかに落ちてゆく
嗚呼
同 ....
空き部屋になって久しい一階奥の角部屋
いっこうに入居の気配感じられなくて
郵便受けはチラシとかで溢れている
ポスティングするのが仕事なんだろうけど
声をかけたとしても臆すること無く
ほん ....
{引用=猫讃仰フェスティバル参加謹呈}
ねこちゃんは
一体どこから来、どこへ去るのか。
ねこちゃん
ねこちゃん。
これがコンニチの課題である。
じつに、コンニチの課題なのであった。
....
この春の終わり
愛猫 そらは
臭腺破裂という
見た目もかわいそうな
おしりを真っ赤に
血に染めた
外傷にみまわれた
抗生物質をブチュッ!と
打たれ
薬をひたすら 猫カリにまぜ ....
ハッピーエンドは幸福の始まり
でも幸福の始まりはハッピーエンドではない
終わりは始まりであるのに
始まりが終わりに続いてゆくのを見たくない
あなたは今年どこで桜を知ったのか ....
<天の支配>
天邪鬼が見落とした
のぞき穴の向こう側で
支離滅裂に見えるように
配置された狂気
<まちるだ ・ まざあ>
巻毛の彼女の
乳房の黒子を
ルーペで焦 ....
すったらこと、やめてまえ
いつまでも
からっぽねやみの
しらみたかり
えんたことするなや
みんな
めいめい
木切れを持って
どっか叩いて
うたおう
彼女は風景をころすためにうたっているんだって
うたおう
たたこう
うたおう
たたこう
とおくから
よぶから
み ....
闇の底を疾走しているのではなく
ひたすら潜行しているのだ
と思った
望みは西から東へ
ラブホとパーラーの漁火の間に間に
脂ぎった回遊魚が澱む
安物のサラミのにおいをさせながら
....
ようやく僕の窓にも光が差して来て
暖かな日差しを感じるようになって来た
めいっぱい窓を全開にすれば
この病んだ部屋にも新鮮な空気が入って来て
まるで心が洗われるよう
しばらく窓辺で風に吹 ....
{引用=「果てのない孤独を感じるのは、まだ私が弱いからでしょうか。
私が未だ、言いようのない既視に打ち拉がれては瞼に幕を引こうとし、
触感を拒むのは、もう世に何がしかの光明をも信じていないからでし ....
芽吹きは全ての緑
やがて水蒸気をまとい雲を作る
わずかな五月晴れも次に来る者たちのため
散る花を惜しむ心は
手をかざす真夏の太陽を待つことの言い訳
あるいは
また訪れる静寂の時への
....
◇機関士:
パリ発、コンスタンティノープル行き6両編成。
ほぼ定刻でウィーン発。
乗客の体調不良等、異常の報告は無し。
これより政情不安定な地域を通過。
よって盗賊団の襲撃に警戒セヨ。
....
藤の花ぶさが
紫の光を垂らしている
ささない蜂が
黒い尻を浮かせている
遠目に見ていた
奇跡のような幸福に
実は包まれていることを知ったのは
こんな日のことだ
藤の花ぶさが
紫の ....
中洲に立ち止まった時間
初めてなのに何故だか懐かしくて
辿った記憶の終着点には
少年が笑いながら花を引きちぎっていた
涙腺をどこかに落っことしてしまったことで
確かに愛は死体となった
....
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