白いタイルが弾く光の中で海獣は、毛皮に包まれたくたびれたピローに見えた。
他にどこにも連れて行くあてなどなかった。
娘のHiromiは、Sayoがアザラシを背負ってアパートの部屋に戻ってきて ....
四日の夜には息子と散歩をした
息子は自慢話を聞かせてくれた
子供ってたぶんみんなそうだ
ふしぎな月の夜だった
月のまわりにおおきな円弧がかかっている
それを息子に教えた
お父さん、 ....
きみから放たれた愛しい種子は
酸素に混じり肺に吸い込まれ
潤んだ空間にじわじわと溶ける
熱いため息が吐き出されたとき
そのあまりの重さに
飽和状態であったことを知る
きみの ....
これ、以前に頼まれていた資料です
と小田さんの持ってきたコピーが
湿っている
海に行ってきたんですよ
小田さんは微笑んで
きれいな巻貝をお土産にひとつくれた
去っていく小田さんの髪や ....
日なたを見つめる
芝生が動く
秋のバッタだ
ひらひらするのは
シジミチョウだ
どこかでそれらの
たとえば文集が編まれている
ぼくがここにいなくても
ぼく ....
コン コン と叩けば
コン コン と骨の音がする
君は何処? と問えば
私は此処 と返ってくる
部屋はまるで君の肺のように
さりげなく わざとらしく
君の空気に満ちている ....
青い瑠璃色の地球は
ほんとうは赤いリンゴで
カミソリでつけた傷からは
傷口をうめるように
黒い血がにじみでていた
血の味は甘くて金色のハチミツのよう
果肉をかじると
青い欲望が汁 ....
ためらうことなく男達の目の前で白いブラウスを脱いだ。白いブラジャーのほっそりとした体に陽がいっそう白く肌に弾けた。
そして膝をおとすと、すぐにそのブラウスをアザラシに着せ始めた。
「スカートも ....
ニュートラルな空気
僕の頬に触れているけれど
そこにあることすら忘れていた
ペダルを踏み込む
ふらつきながら動き出す自転車
そこにあった空気を押しのける
次々と 次々と
....
シャンプーハットを被って
カッパと言い張った
100%天然素材そんな物体は
本当に人間に害をなさないのか
いつか全人類が僕だけを残し
死んでしまったら
それは愉快で ....
カーテンの隙間で
光が踊っていた
整えた呼吸に
蝶が舞う
微かな羽音は
外へ誘い出そうと
懸命に響かせて
私の闇を掻き回す
手の平は温かいのよ
父の温もりも
母の温もりも
薄 ....
背のほうでどさっと物が投げ出される音がして、続いて、男達の声がした。
「こいつ、どうする」
「生きてんのか?もう、くたばってんだろ」
「さあ、生きてるかもな。海に捨てるしかないだろ」
Sa ....
小さな掌に握り締めた片道切符
縁日の人込みに紛れた赤い鼻緒
引き千切れなかったモラトリアムの鎖
終わってしまおうと噛み砕いた白い錠剤
でくのぼうの首に巻きついたネクタイ
裏切りと同じ色に ....
夜のシフトのサーバー達と入れ替わりに、Sayoは店を出た。
週末のダウンタウンは、車の数がぐっと減っていて、それだけでも何かほっとする。ダウンタウンの西側には入り江があって、それに面する辺りは、 ....
うっすらと
冷えた微風にほんのりと
さやかな湿度とキンモクセイ
夜道をスーツは落ちてゆく
まよこを電車が落ちてゆく
ほんのりと
さやかな湿度と焚火のなごり
胸 ....
ふと口からもれた声は
どんな言葉のはじまりでもなく
そのまま枕にどさりと落ちた
わからないのは
今日のことと明日のことだ
そのあいだに佇めない弱さで
布団にたおれこむ
それさえひとり ....
数年、会話という会話を交わすことのなかった親父が
最近妙に話しかけてくるようになった
{引用=
ドムのバーニアが、少し違うだけでリック・ドム扱いになるのが辛抱たまらん
ドムはドムで ....
またしても
夕焼けに因縁をつけられる
丁寧に塗り直したばかりの
ちょっと自慢の金メッキは
緋色の光に呆気なく溶けて流れ出す
またしても
夕焼けに喧嘩を売られる
行先のどっぷり染み ....
電子レンジで
あっためただけの
安っぽいハンバーガー
みたいな
湿気をふくんだ
生ぬるい
口の中で
張り付くような
あったかさ
でもいいから
ぬくもりが欲しい
などと言ってみる
虫の音だけが響く長い秋夜のしじまに
基次郎の 「檸檬」 を読んで
僕も明日、彼女の机の上に
そっと檸檬を置いてみようかと
画策する 新しい世界を生むために
だいぶすずしいなったなあ
と ....
Sayoはもうこんなことを三年もやっていた。
森を越えてやってきたここは、都会の雰囲気のある町で、少なくともダウンタウンには背の高いビルがあり、州立のバスが走り、スーパーマーケットで買い物ができ ....
目には目を
目蓋にはものもらい
いつまでも憎しみを握っていられない
自分の握力の無さを嘆くべきなのか
歯には歯を
歯茎には歯肉炎
いつまでも恨みを呼吸していられない
自分 ....
静寂のリズム
小さなわたしが震えている
手を差し伸べた
貴方の温もりに
あの頃の私は目を閉じて
身を委ねた小波は
浄化する
醜い私を剥がしていった
星を散りばめた夜空には
言葉な ....
生きる意味がわかってしまった
その男はもうこの世に
やり残したことなんてない
置き忘れたものなんてない
全てを知ることができたのは
オリオンが輝いてた夜
宇宙の外れで彼は
無数の流れ ....
骨箱の折り鶴 代償100万羽
骨壺の中で踊るの骨尖る
世の中ゆるせない事もある
昏い軍機 地に陽光の蝶舞う
予定調和するメロディーに乗り決する
風が吹いている
青く灰色のピンクの影のなか
夕暮れの香りが運ばれている
いちにちは
誰にかやさしい終わりを告げる
よるに棲息する
わたしは無生物になるでしょう
....
移り変わりの雑踏が庭を塗り替える
浮わついた駆け引きなんかじゃなく
思わせぶりな後ろ髪にやはり騙された
自己防衛の意思がむしろ
赤い眼鏡をかけていることを想像させる
発信源は未だ ....
あかねしたたる夕焼けこやけ
一尺五寸の袖ひるがえし
もみじのみちの落ち葉ふむ
振りからこぼれる緋色の襦袢
肩にながるるその髪の
さんごの櫛のその細工
川辺でうつむきあらう血の
い ....
負けるな嘘を言うな弱いものをいじめるな負けるな嘘を言うな弱いものをいじめるな負けるな嘘を言うな弱いものをいじめるな
ああなりたいと思っているから
いまよりも高いところへ俺はゆく
ああなりたい ....
子供たちを寝かしつけて
朦朧とした頭を抱えて
ただジュースを飲みたいがために
サンダルを突っかけて外に出る
雨上がりの真夜中
起き抜けの身体はまだ夢の中
視界は頼りなげで
僕 ....
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