光の傾斜のよわいめまい
に
いななきも止んだ朝の膨らみ
秋は秋と重なって遠近を失くしながら
凧のように {ルビ空=くう}の{ルビ空=くう} 淡く燃え
無限の、 矛盾の、
存在の、 ....
久しぶりに見る陽光は眩し過ぎて
自らの汚らしさを思い出す
卑屈になって
謙って
疲れ果ててしまったこの心に
暖かな陽差しはむしろ痛みをもたらす
無防備に放り出された四肢は
幾千の ....
愛は始まりを告げなかった
愛は終わりも告げなかった
愛は形も作らず
愛はどこにも現存しなかった
愛は幻のように思えた
愛は煌びやかな化粧をした戯言のように思えた
愛は歌のように高まる感 ....
誰も知らない海でした、(けしてあなたのほかには)
舟は出てゆく
夏の入り江、あなたの瞳の奥を
白い鳥は羽根を休めることなく
空にすべる手紙
返事はいらない、ただひとこ ....
速度は一定がいい
そんなに速くなくてもいい
あんまり遅くない方がいい
目をつぶらずにいられるくらい
微かに向かい風を頬で受けるくらい
しばらくこのままで進みたい
今日の初めの一歩は
泥濘んだ土の上
靴が滑るのを必死に留まった
右足が自分の意志に逆らって
少し前に進む感覚は
ほんの少しでありながら
驚異であると同時に
快感さえも感じられる
....
トラックが泣いている
ひねもすのたり泣いている
何がそんなに悲しいか
雲のひかりに青ざめて
雲のひかりに汗かいて
ひねもすのたり泣いている
トラックが泣いている
....
同じ道を歩いた
くり返し歩き
くり返し問い
くり返し答え
水の写経のようになにも
こころの所作だけが
ただ――
くり返し祈った
石の中のロザリオ
沈黙の塵は満ちて
尚も空白 ....
吐き気を催すほどの閉塞感
我慢をし過ぎるなと常に言い聞かせているのに
自分でも上限を認識できないらしい
まるで他人事のようだ
優しい気持ちをどこかに置き忘れて
目の前をすべて遮断する
独り ....
ミンミン蝉の鳴き声がすぐ間近から聴こえる
用水路沿いの遊歩道左脇の樹木からだ
僕がその樹木に近付くのとほぼ同時にその蝉は鳴き始めた
樹木脇をそのまま通り過ぎようとして僕はふと足を止めた
余りに ....
ふと、
暮れたはずの西の空を見ると
黒ずんだ灰色の
大きな柱があった
夜の柱だ。
柱の上にはだいだい色の帯がある
こうして徐々に、
夜におおわれてゆくのだ
通りには ....
夜陰の太陽、遂に昇った
裏回廊走り回る鼠どもを散逸ちらす
夜陰の太陽、生命の冠
清濁併せのみ恒星を射る
分かっていたぞ、この時来るのを
天上は界の楽音、賑わしく
この夏やけにポシャりつ ....
ゆうやけまみれの海辺に
ちいさいあなたが立って
鍵穴みたいな影をつくった
これはうみ
これはうみ
これは?
これは なみだよ
これは?
これは なみだよ
寄せ返す ....
心の声に耳を澄ますことは
青空に目を凝らすのに似ている
見えているけど何も見えない
聞こえているけど伝わらない
空の青に果てがないように
心の海には底がない
どんな光も届かない遥か深み ....
思い出時空
待ってもむだだと 風がささやく
遠くの雲から 雨のにおいがしてきて
あの娘は来ないから はやくお帰りという
最後の待ち合わせの ....
夏はなぜ暑いのだろう
やさしさを失っていく熱風に
焼かれながら日陰の枯れた道を行く
墓の周りには
もはや草であることをやめ
木に仲間入りした太い雑草が
狂ったホウセンカみたいに
ニョ ....
眼前に広がるのは
夜に現れる海
月に照らされた海
深い海の底に在るのは
眠りについた僕らの住処
僕らは夜の飛び魚
海を飛び越え
....
オリンピック前日譚の日々にいて夏の電話は手汗がひどい
いきるために踊ったりしている人がラジオで話すとりあえずくしゃみを我慢する
地下鉄の出口にあつまる虫の写メあなたに送れば日記 ....
いま歌っているのだろうか心から
誰かに伝える努力をしているだろうか
僕はソングライターではなかったのだろうか
きちんと生きているだろうか
きちんと本を読んでいるのだろうか
ドラッ ....
梅雨晴れの下
ビール腹を揺らし
何處に行くか?蛙一匹
ゲコゲコと鳴きながら
生ビールを求め
下戸下戸と鳴く
また、どんよりとした空の下
ゲコゲコと鳴きながら
舌なめずりして
....
{引用=コトバだけで世界をつないでいく、そんな嘘くさい指切りをして
あなたの色つきの夢の先に、私はいない。
コトバだけで生きる人は 骨の分量の重さを 世界と言い、
あなたは、夕陽を溺れ ....
緑、濃く匂う深山に
一つぽつんと神社があって
鳥居をくぐり灰白の石畳を進むと
自分が社の前でやや前傾姿勢になり
何か一心に手を合わせ瞑目し続けていた
わたしは自分の黒い後ろ姿を見ながら
....
うたうときいつも
だれかの上にいる 君は
いろんなものの由来にくわしい
グレープフルーツやざくろ
牡牛座やチョコチップクッキー
元素記号とか七夕とかサッカーチームとか
でもそれらが ....
朝目が覚めて
いつもないてる
パンをかじって
いつもないてる
なきながら
運転している
なきながら
朝礼している
音楽聴いて
いつもないてる
シャガールを見て
いつもないてる
....
ベランダを覆いつくすケヤキの枝に
キジバトの巣がある
朝六時
キジバトの鳴き声で眼が醒める
ジュウイチジニキテクダサイ
ジュウイチジニキテクダサイ
十一時に?
どこへ?
夢 ....
猫背になって
かなしんでいる間にも
朝顔はぽっかり藍色に咲いていた
ああ
にんげんやめちゃいたいよ
胸に
おそろしいほどすきとおった何かが
じぐざぐ刺さって
なみだがぼろぼろ落ちるけど ....
崩落した道を見下ろす
堤防に身体を預けて
夏からの束の間の避難訓練
午後の約束は先延ばしになって
それ以外の予定もなくって
戻ることも出来たけれど
久しぶりにコーラが飲 ....
古いガラスのように蒼ざめて鳴り響く
――あれは なに?
掌の海から跳ねる両目を失くした魚
それは
テノヒラ 温かすぎる子供のテノヒラで
....
昼間の灼熱を細くたたむカーテン
ひだのすき間から
生々しく、風
湿気をはらんで
消え入るような声で鳴く
こうこう、こうこうと
或いはそれもまた夢だったのかもしれない
窓ガラスに埋 ....
きらきら
という絵本を
君に読み聞かせるのだけど
結晶の写真がきれいで
君のお気に入り
ひとつ 指さして
パパ! と言う
ママ! ととなりの結晶を指さす
次々に 結晶が
....
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