ざわざわとささくれだった霜は
冷たい空気に張り付いて浮いている
朝の街から聞こえてくるざわめきは
熱を持たずに乾いたまま遠くへ響く
冬の朝は平等に残酷で
どんな生き物にも降り注ぐ
....
ゆけなかった
ひび割れた空のかけら
拾い集めて
黒曜をながした月光
あなたのような
静謐
いだかれながら
緩やかに枯れてゆく
水底の
片羽根なくした
蝶を
想っ ....
ただ
あどけなさにいた季節
純白と翡翠の子守唄
濡れた温度が優しくて
秘密の杜で
穏やかだった
毒の甘さを知らぬ頃
未通女に柘榴を差し出したのは
楽園の蛇だったのだろうか、未知 ....
ひょい、と
おまえを肩に乗せると
よりいっそう
にぎやかな
居間になる
わたしには
さほど高くない
いつも通りの目線だが
おまえにとっては
宇宙ほどの
高みであるのかも ....
アフリカ鍋には
キリンさんの首と頭がまるごと入っている
そういうと、
動物愛護協会から
クレームが来るかもしれない
キリンさんも可哀そうだが、
それならなんで戦争がなくならないんだ
....
見放されてしまった
その先のことを考えていた
しかし恐るべき末路などなかった
マッチを擦って皿に置いた
小説を読み小説を捨て
腐った部屋のゴミの中で寝転がり
息をするたび苦しさを感じて
....
もう、疲れてしまった。
美しいものは、等しくコトバにできない、ことや、
瞼を瞑ることでしか、思い出せないと言うことを、
眠らない心が捉えてしまったのだ。
夕焼けすら 同じように見え ....
平坦な生き方しかしてこなかった
それでいいと思っている
薄っぺらなままだった
それでちょうどいいと思っている
しかし
味はいろいろ覚えてきたつもり
甘めの醤油味みたいな
ざらざら ....
夫と言い合いになった日の深夜
冷蔵庫の前に這いつくばって
冷たい床に雑巾で輪を描いた
何度も何度も同じ輪郭を辿って
ただ一心不乱にひとつの輪を描いた
怖い顔で子供を見送ってしまった朝は
....
太陽の嘘を
夜が暗殺する
一瞬の未来がもう過去になる時のなかで
眠らない傷痕だけ
硬いソファで微睡んでいる
知人の見舞いに桃を持っていったが
急に呼吸状態が悪くなったと
面会はできず
桃は連れ帰った
食卓に置いた木箱のふたを開けると
縦にみっつ並んで
桃たちは姉妹のようだ
血色よく尻を ....
私はもう駄目だ
そう呟けば俺はもう駄目なのだ
もはや俺には字が読めねえ
腐心する毎日さ
気取り果てた俺だ
自己紹介すらままならない
お立ち台に立って
インタビューされることもない
量産 ....
母さんと夕食を食べている
母さんは
ポテトサラダの味付けはどう? と聞く
僕は
葛藤の群青が冷却される三辺のFM波が機体
を下降気流へと誘惑してステンレスがベニヤ
板へとバク宙する ....
夏
と言ったら
海
ビーチパラソルは無く
海の家も無く
砂だけがある浜を
海水パンツ一丁で
海水に突入していく
はずはなかった
私の出身地は山間で
山から切りだされた木を
....
人が笑っている
マユミが笑っている
マユミは母
オサムは父
オサムは死んでいる
首を洗って待ていろ、と
テルヒコに言われ
二十年、首を洗って待ち続けた
首だけがただ
....
雨が降ってきた
それに加えて午後からは
槍まで降ってきた
雨が降ろうが
槍が降ろうが
必ず行くよ
と言っていた友人は
終に来ることはなかった
窓を開けると
代わり ....
朝目覚めても
コーヒーが飲めない日に
貯金箱を壊して
小銭を数える
1円玉の散らばる布団の上で
とうとう俺は自分のために
何もできず
何もできずに寝転がる
自分のためにということが
....
あたまの声は
なかまの声だ
あたまの痛みは
あなたの痛みだ
☆
抒情を排し
饒舌さを避け
なにものでもない
言葉の羅列
☆
僕たる僕の
僕 ....
馬鹿でっかい鰤のアラと
ぶあつい銀杏切り大根の入った
湯気のたつ味噌汁を啜って
海苔と胡麻塩の握り飯を食う
あー、うめぇなあ
海鳴りの音を風がさらう
子どもたちはまだ眠っていて ....
わかっているのだ
燃えるゴミは火・木曜日
かんとビンは水曜日
古布と資源ゴミは土曜日
でも、間違えたのだ
自治会の方がやってきた
ゴミを突き返し、怒るのだ
間違えた、やってしまった
そ ....
ぼくらは言葉を繋げて
この暗い宇宙を何処まで渡って往けるだろう
一冊の詩集が時を越えることは
真空パックの棺が難破船のように
意識の浅瀬に漂着し鮮やかに燃え上ることだ
死んだ詩人についての{ ....
【水だ】
空が、しだいにコーラルブルーに
かすむ
骨だけになって、鯨は
今日も尾頭付き
水族館の いっかいから
二階にかけて
....
少し横顔を見せただけで
思わせぶりに去っていく夏
雨が 家々のトタン屋根から
ライラックの葉の一枚一枚から
信号機の黒ずんだカバーから
夏を洗っていく
雨が 夜更け ....
バーカウンターで一人呑んでいると
ひとつ空席を挟んで 右隣のサラリーマン風の男が言った。
「どうせ俺は会社の、一つの歯車に過ぎないからさ」と。
おいおい、冗談じゃない ....
瞬きがまだ終わらないうちに
なくなってしまう
数知れぬ一秒にも
満たない想いがあるだろう
とは思うけれど
一瞬のあいだ瞬きをするうちに
恋の始まりはきっと
終わりのない愛になる
....
なにも 間違えじゃあなかった
自転車とは 自分で ころぶから自転車
自転車の練習をして みごとに こけたのは わざと だよ
わざと 痛い目にあってみただけさ
新しく自転車を買って その ....
ねぇおじさん。
どうして人は孤独になるの?
それは、孤独を感じるほどの、
ぬくもりを知ってしまったからさ。
どうして人に孤独があるの?
それは、き ....
教訓めいたのは苦手だけれど
たとえ話しが好きで
特に話しが抽象的になってくると
焦れたようにこう言ってしまう
それはたとえばどんなこと?
何かにたとえると
それで分かったような気に ....
空だとか
雲だとか
風だとか
宇宙の真ん中で
なんだかよく
立ち止まる
胸を突き破って
手が何かを
ほんの僅かな何かを
掴みたがっている
刹那
涙が溢れて
....
おれは見たい、
赤錆びた鉄塔の頂きに
鳥のように爪先立って
人影のなくなった都市を見たい
きみとだ
おれは見たい、
太陽のとなりに炸裂するもうひとつの太陽の誕生を
塵からつくられ ....
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