ゆっくりと水を一杯飲む
カーテンを閉めて
好きな音楽をかける
何をしてもいいし
何もしなくてもいい
鏡に映った自分を見る
左肩を撫でてみる
前髪をかきあげる
電話のベルを無視して
今 ....
残業もそこそこに
今夜もいそいそと帰ってきた
玄関のすぐ脇の部屋で
かつて母だった生き物が
また呻いている
父の三回忌を済ませた頃から
母は溶け始めた
ビデオテープのように過去を ....
最初から
おじいさんや
おばあさんが
いたわけではないのです
ただ風ばかりが吹く
何もない夕暮れのようなところから
むかし、むかし
と物語はいつも始まるのでした
やがてお話が終わる ....
ひろがる ながれつづける みらいのいなほ
はしりゆく かぜにここちよく ゆれる
すうぅっと みちはつづく いっぽんみち
わたしは だいたんにも
とてもせいじょうな きもちになって
....
突然
写メールを送りつけてきて
おれの誕生祝いに
夫婦ふたりで
温泉に行くのだという。
ちょっと待てよと
息子としては思う。
おれの祝いなのに
なんで
昭和元年と
大正十四 ....
読みかけの詩集を逆さまにすると
文字の列たちは
不ぞろいのビルディングになりました
そして
下のほうにあった余白は
広い空に
しばらくその様子に見とれていましたが
何かが足りない気が ....
あなたが
そらに
うたったうたは
かぜのなかに
あめのなかに
ひかりのなかに
ふくまれて
わたしのうえに
ふりました
どこにいたって
だれといた ....
冷凍庫から取り出した氷の
溶けていく音が響いている
ちりちり ちりちり
静かな部屋に染み渡っている
窓の中では雲の
輪郭と輪郭とが
混ざり合いながら変化している
終わらない終われない ....
アタシ
女の子でよかった
こんな悲しい日でも
アタシのスカートはヒラヒラ詠う
こんな悲しい日でも
太陽が眩しいのと同じくらい
君に目が眩んで
他には何も見えてなかったの
....
さり気なく母であれば
さり気なくあなたも娘であるから
家の重さが気楽だね
愛しさは葉裏に隠した卵のように
日にも晒さずに
風を気取って通りすぎる
着慣れた服の私を
あなたは横目で追い ....
エレベータで少年と会った
少年は午後から遊ぶ友達を
朝から探して回っているそうだが
夏休みだからみんなどっかに出かけてて
なかなか収穫が無いようだ
少年宅は夏のおでかけの予定が無いら ....
「水、持ってこいよ。」
シンちゃんが言ったから
公園の入り口にある水飲み場まで
バケツを片手にダッシュ
焼けた砂まみれの腕に
午後の陽射しは痛い
水飲み場につくと
犬を連れたおじ ....
かるぴすの おと
ひぐらしの こえ
かげろうの はね
おばさんの かげ
うたたねの ねこ
みあげれば ここ
すいそうの そこ
てんかわの そこ
....
時計が遅れたり
進んだりするのを気にする人は
何よりも時間の大切さを
知っている人です
けれど
時計には時計のペースがあることを
忘れないでほしい
など
ホームの水飲み場で
あな ....
おじいちゃんの葬式の日は
雨の降らないカミナリの日でした
おじいちゃんは畑仕事の帰りに
自転車と一緒に倒れていました
おじいちゃんの畑には
夏は西瓜がなりました
おじいちゃんの西瓜 ....
なつのしょうめんで
あのこはワルツをおどってる
いちにさん
にいにさん
さんにさん
ほそいうでをいっぱいにひろげて
あのこはかぜをおこしてる
いちに ....
卵をひとつ落として
夕焼けは夕焼けへと帰っていきます
さよならを言うのが嫌で
いつまでもふざけていたのは
言葉を越えられるものは
言葉ではないと
ある日ふと知ってしまったから
ちびた ....
こつこつ
とんとんとん
いしゃは
わたしのむねを
たたいて
ちょうしんきを
あてたりして
ふむふむ
わけしりがおで
カルテに
なにかを
かきこんでいる
わたしは ....
ぱちん
がまぐちをひらくと
ごえんだまが三つと
ごじゅうえんだまが二つ
それから ひゃくえんだまがひとつ
奨学金のはいるまえは
それでいっしゅうかんを過ごす
こむぎこと
おこめ ....
乳白の空へ電車は走る
「一緒にどうだい?」
そう言われても
なんとなく僕は起きただけ
まだまだ地上で夢見たい
「それならお先に」
と電車は消える
窓の ....
くちびるを閉じると
世界とわたしは
分かれます
くちびるを開くと
世界とわたしは
またつながります
分かれたり、つながったり
くりかえし、くりかえして
わたしはまた少し
遠くへと ....
へっぽこ
かみさま
きょうも
あっちで
ごっつんこ
どうやら
あいさつしようと
してたみたい
でもでも
むこうも
こんにちわって
きたもんだから
あたまと
....
みどりのひかり
のなかを
けむし
が
もこもこ
あるいてる
みのけが
もこもこ
あるいてる
どこかで
かぜは
おおきな
あくび
を
し
めろんぱん
な
....
春が
わたしの中に入ると
増えます
やがて溢れ出して
玄関では靴が
遊びたそうにしています
かぜが
ふいている
みなみへ
みなみへ
しっているのだろうか?
そこは
わすれられたくに
びゅう びゅぅ
はるに
....
窓際の席はまぶしくて
わたしはかるく目を細める
活字の上に落ちる 白い光を
見つめているといつのまにか
目の前にみどりが踊る 紫が舞う あぁ
それをさえぎる薄い影がふくすう
穏やか ....
雲の傷を見つめ
花の傷を見つめ
夜の風に会う
川と光
野をさする指
草に埋もれた門のまわりを
月の光が
何度も何度も踊り巡り
いつまでもいつまでもやめないので
誰 ....
止まれない らしいよ
僕らが乗っている回転装置
呼吸のたびに
くるくる
気付かれないくらいの速度で
くるくる
回ってるんだって
木馬はもういない
回る勢いで駆けていったから ....
風鈴
縁側に転がる西瓜
金魚鉢に氷
染の団扇に
夕涼みの風に揺れる簾
懐かしいキミの裸足
髪を結い上げる細い指
藍の浴衣に紅い帯
藤の枕でうたた寝の
遠く聞こえる祭太鼓に ....
風呂上りの湯気の上がる体から
汗がしたたり落ちる
一日の想いを浄化するかのように
流れてゆけ
流れてゆけ
こころの疲れ
どろどろした想い
拭いても
拭いても
あとからあとから ....
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