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  不確かな骨だけを残して
  夕暮れの時間は風に流されていった



  きみの膝の上に載せられた 白いパナマ帽
  それは何の前触れもなく ただそこにあった
  それはまるで ....
  見知らぬ男が一人
  バッターボックスに立って
  枯れ葉のような色をした 外套のボタンをはずした
  上から三番目、ひどくほつれて、取れかかったボタンだ



  透き通っ ....
  女の手は 梨を食べたばかりで、少し濡れていた
  夜風を正面から浴びて 枯れ草たちが咽び泣いている
  角をもたない鹿が そこを踏み分けて奔り
  しだいに速度を緩めて止まる
   ....
  多くの角砂糖が 紫蘇色のスカートにこぼされても
  彼女は 眉ひとつ動かすこともないだろう
  ただ膝のうえで掌を握っては開き(開いては握り)
  あなたの影が砕かれていく その場所 ....
  静かだった……
  禁じられていることは それほど多くはないはずなのに
  ただ、いくつもの瞳だけが 土埃に塗れながら
  風と風の間で何度もはね返っている
  男たちの沈黙はカラ ....
  {ルビ賽子=さいころ}が胡座をかいている
  {ルビ褥=しとね}は素っ気なく冷えている
  彼女の頬には、涙の痕がある
  それがいつどのように流されたのか、
  彼はしりたかった ....
  水母は しばらく空気をさまよって
  やがて岩にぴったりと貼りついた
  月が喋らない夜に
  三角定規ひとつだけ残された廃校で
  誰かのあくびのように だらしなく伸びていく廊下 ....
  わたしはあなたを愛していたのだろうか
  どしゃ降りの雨のなか、傘のひとつも携えず
  空の彼方を見つめているような
  そんな気持ちだった
  あなたと居るときはいつも
  た ....
  椅子に座り、瞼を閉じて 静かにしていると
  彼女の心は川の水に深くゆっくりと沈んでいく
  遠い、淵のところからあふれた透明なものたちが
  灰色にくすんだビル街を薄い膜で包みこむ ....
  細かな砂や木屑とともに その数字はガラス瓶にいれられていた
  穏やかに晴れた休日、ひと気のない公園や路地裏に出むいては
  彼は 度々そういうものを拾ってきた
  いま、彼の部屋に ....
  さっきから、あなたが
  夢中になって眺めているのは……光の断面
  あられもなく剥き出しにされ、あなたの鼻先に
  それは 突きつけられている
  鉢に植えられた何らかの緑
  ....
  朝、
  利き手ではないほうの手でつくられたような
  拙い光たちが 睦まじく庭じゅうを飛び回っている
  だが 光だけがここにあるのではない
  ここには机がある 椅子もある
 ....
  街灯の{ルビ鏤=ちりば}められた夜が 冷たい川を流れていく
  対岸に立ちならぶ水玉模様の繁華街は深雪を浴び 
  緩慢な微睡みのなかに沈みつつある
  彼女はかじかんだ躯をコートに ....
  仔馬の湿った毛並みを、
  女は なぞるように撫でていた
  よく晴れた三月の日曜日に、陽の光は
  光よりも寧ろ風に似ていた……風は吹いていなかったが、
  風は吹いていなかった ....
  ところで、
  思い出のなかのあなたは春先のキャベツのように
  何よりも甘く、温かく、笑い転げている
  意識のあやうい外縁を一匹の野良犬が走る
  窓の外で雨が降っているのかど ....
  百葉箱のなかに置かれているのは 古めかしい爆撃機の模型である
  縞状になった日の出の薄明は その謙虚な空間へも差し込まれる
  若がえっていくのか年老いていくのか それは定かではない ....
  焼き上げたばかりのロールパンを 手早く皿に移し
  純白のシルク地のカーテンに 挨拶するみたいに軽く触れ
  彼女は朝日を一番たっぷりと浴びることのできる席についた
  だがそれは彼 ....
  朝がきた
  薄ぐらいもやの向こうに
  金色の光が輪をかけている
  あなたが いつか その手のひらに
  汲んできた水は だいぶ前に
  何処かでこぼれてしまったけれど
  ....
  風は南へいった
  月の光は道にころがり、
  小石にぶつかって止まった
  肩まであった長い髪をきって
  聖なるひとのように きみはわらう
  二人して ベランダの手すりに体 ....
  ペンキは塗られたばかりだった
  ずっと、夏のあいだじゅう
  きみはアイスクリームを食べにいった
  ぼろい車に乗って闇雲に海沿いをひた走った
  読まなくてもいい本を読んで 読 ....
  蛇口は しばしば朝だった
  時折それは睡蓮だったし
  無口な背の低い青年だったのだが
  腰から下を火燵にしまいこんで あなたが
  丸っきり正気をなくしているときなどは
  ....
  同刻、家の裏では百合の花の一群が燃やされていた
  大幅に腐食の進行した数々の欺瞞に関しては、
  某町の空き地を使用して年末迄には燃やされる手筈になっている
  水槽……
  そ ....
  伴奏のない音楽をきいていた
  たぶん
  心のなかで
  夕暮れの時間が
  まぢかにせまっていたあのとき
  ひとりでブランコに座っているきみをみつけた



  し ....
  遠くまで、
  その日は夜霧でなにもみえなかった
  ダッシュボードに置かれた読みかけの雑誌は
  信号の赤を浴びるとき、諦めたようにあなたの膝に落ちた
  まるで亀の甲羅のように ....
  貘の食べ残した悪い夢が
  きみの唇のまわりに散らかっている朝
  窓越しにみえる庭は 素晴らしく綺麗だ
  気丈な松の樹に 少しだけ雪がかぶさって
  玉砂利は少女のごとく濡れ  ....
  さびしいことを言ってくれ
  秋の幕がひかれるころに
  紅葉色のセーターに袖をとおして
  氷雨の似合う 唇のような{ルビ瞳=め}をして
  かなしくてたまらなくなることを言って ....
  小学生が輪になって栗拾いをしている
  裸になった枯れ木の足もとに 赤と黒のランドセルを抛って
  わたしはコートの内ポケットから名刺入れを手にとって
  なんだか ひどくかなしい気 ....
  白鳥はうつくしい
  あなたの細い両の腕は、きょうも
  わたしの首をきりきりと締めつけていた



  あなたの長い髪の毛は
  あなたの言葉に似ていない
  みじかくけ ....
  ビールジョッキをあしらった看板から
  たっぷりとした影が道に{ルビ溢=こぼ}れていた
  旅の荷をおろした無口な男は
  これから何処まで往くのだろうか
  それは 知りようもな ....
  夕暮れのなかで 光たちは話をしていた
  かつて朝日だったとき じぶんがどんな色をしていたか
  藍色の 円い 夜のうちのひとつになって
  薄暗くとけていくことへの 微かな畏れにつ ....
まーつんさんの草野春心さんおすすめリスト(299)
タイトル 投稿者 カテゴリ Point 日付
白いパナマ帽- 草野春心自由詩514-2-9
バッターボックス- 草野春心自由詩314-2-9
エーテル_18- 草野春心自由詩414-2-1
エーテル_17- 草野春心自由詩214-1-22
エーテル_16- 草野春心自由詩414-1-20
エーテル_14- 草野春心自由詩214-1-19
エーテル_13- 草野春心自由詩414-1-19
エーテル_12- 草野春心自由詩314-1-13
エーテル_11- 草野春心自由詩314-1-13
エーテル_10- 草野春心自由詩314-1-12
エーテル_9- 草野春心自由詩214-1-12
エーテル_8- 草野春心自由詩314-1-5
エーテル_7- 草野春心自由詩214-1-5
エーテル_6- 草野春心自由詩313-12-29
エーテル_5- 草野春心自由詩313-12-28
エーテル_3- 草野春心自由詩213-12-26
エーテル_2- 草野春心自由詩313-12-24
むかしの歌- 草野春心自由詩913-12-20
風は南へ- 草野春心自由詩213-12-17
ペンキ- 草野春心自由詩413-12-14
朝がくるということ- 草野春心自由詩3*13-12-14
言葉たちの去就- 草野春心自由詩213-12-11
少し早い月のように- 草野春心自由詩313-12-10
透明な死人のために- 草野春心自由詩413-12-9
王の庭- 草野春心自由詩913-12-7
たそがれ- 草野春心自由詩713-12-6
栗拾い- 草野春心自由詩413-12-5
白鳥はうつくしい- 草野春心自由詩313-12-5
歴史書- 草野春心自由詩413-12-1
光たち、影たち- 草野春心自由詩613-12-1

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