兵蔵さんのお顔を 息子さんは知らない
息子さんは知らないのだから お孫さんは全くわからない
お名前は 存じております
この街の 開墾のために入られて
のちに
戦地へと向かわれた御方です
....
よごれっちまったかなしみなんて
そんなもんまだ書くつもりかい
でっちあげなよでたらめ書けよ
あんたはあんたを信じなさいよ
それができなきゃあたしは知らん
勝手にやんな好きに嘆きな
あたしゃ ....
右耳の穴から垂れ出した
一筋のサンショウウオがてろりんと着地し
長い尾をぞろびかせながら水の
水のある方へと歩いていく
一方僕といえば
家の前に横たわる幸福な犬の死体を幸福な面持ちで ....
過ぎにし過去の遺跡に
今なお残る傷アト
乾いた土に花なく
石の平野が続くばかり
月揺れる鏡
星が流れて
運命をつむぐ
命の音こだます
見上げた空は変わらず
消えない虹を渡って ....
夜中、目がさめて階下に降りると
君が僕を積み上げていた
たどたどしい手つきで慎重に積み上げ
途中で崩れると
ふうとため息をついてまたやり直す
時々どこか気に入らないようで
何か ....
24番目の駅で
赤いきれいな花を買う
枯れないうちに帰れればいい
ここより、どこかへ
帰れればいい
車窓は空を飛ぶ
すべる、すべる、寝息の上を
寝息に夜が積み重なって
もう、こんな ....
街路は閑散としている。
だが大道芸人は気にしない。
相棒は等身大の人形だ。
マネキンの手足はてんでに動き回る。
オーケストラはなし。音楽は手回しオルガン。
もの悲しい響きは人に ....
{引用=春のうららの ふあら ふわら
雪 かしら?
どこかしら 届く ぬくもり
ふあら ふわら
おひさまに 気づかれないように
かくれんぼ してた のに
みつかっちゃっ た ....
雪がふるたびに
おもう から
積もろうとしては消え
消えては積もろうとし
傘のしたから手を投げだし
雪をひらう
どこまでが雪なのか
わからなくなる
輪郭を
な ....
おめでとう
あなたは三億だか五億だかの精子から
たったひとつ生き延びた
毎月トイレに流れてゆく卵子から
たったひとつ生き延びた
なんて運がいいのおめでとう
私も運がよかったのだけれど
あ ....
県庁跡の建物の中で期待もなく調べ物にとり
かかり、時間を待って香林坊に出る。そこは
ほんのひとにぎりの銀座で、渋谷で、新宿で
もあり池袋の匂いを探して片町に流れる。ス
クランブル交差点では ....
あけましておめでとう
そして僕たちはそのように死んでいく
あけましておめでとう
死んでいくのではなく殺されていくのだおそらくは
お互いに
殺されあいながら
あけましておめでとう
生き ....
あんた 大殺界よ
餅ばっかり 食べてないで
芋を焼きなさい
絶対ウレルわ
たろうを眺めるたびに
こそばゆくなる
こそばゆい
こそばゆい
こそばゆい
くうらんの何にも入っていないあそこから
押し寄せる
大群
真っ赤な
魚
のわたし
たろうを眺める ....
料理を注文する君の声が
空気の振動のような透明さで店内に響く
放っておくと月明かりしか入ってきませんから
と、ウェイターがカーテンを閉めていく
中央のテーブルでは座高の高い男が
大声でメ ....
結露が止まらない
いくら拭いても
壁や窓から滲み出てくる
このままでは
部屋が水でいっぱいになってしまう
僕らは慌てて非常食、ラジオ付き懐中電灯、
釣り竿等々をリュックにつめる
....
ゴキブリは変わらない
うちの台所でも
熱帯樹林でも
恐竜が跋扈した古生代の森でも
同じような姿で
同じような生態で
どこにでも適応し
タフに何でも食いまくり
殺虫剤にも負けず
三億年 ....
深夜
血を吐きました
世界が
美しくなりました
君には秘密にしておきます
部屋の中は君の寝息でこんなにも静かなのに
テレビの中では相変わらず人が死んでいきます
閉じられたブライン ....
ここのところずっと、ある詩を批評しようとして、色々考えていました。
そして考えが横にそれたというか根本的なとこまでいったというかつまり、文章を理解するとはどういうことかに関心が移ってきました。
ま ....
かなしいところ では
あなたは
体中のちからを
ふりしぼります
どこで
立ちどまっていても
わたしは
すべてのひとに
見えているのです
わたしは
まるで それがないと
....
妬ましきをみなの名を
記しては破り、
願へども叶はぬ懸想を
綴りては破り、
執心こめたる{ルビ玉章=たまずさ}を
{ルビ文車=ふぐるま}に納めしをみなは
{ルビ西方=さいほう}へ去りて ....
定期券が消えた
ある日こつ然と定期入れから消えた
懐かしい色の子供たちが
僕の知らない歌を歌いながら
道の一箇所に立っている
煙草を吸う
定期券が消えた
煙草を吸う
言語化された街で俺はサボテンとして歩いていた 言
語化された街にある俺はサボテンとして記述された以
上サボテンとして歩く他なかったが かつて人間であ
った記憶の残滓が言語化されていたため ....
今日も君にお付き合いしてアニメ「ドザえもん」を見た
ひ弱な少年が未来からやってきた溺死体型ロボット
「ドザえもん」の秘密道具を使って
自分より屈強な者や裕福な者に立ち向かい
勝利し ....
しゃあないこと
いうても な しかたない こっちゃ けど な わしにも いわして な
てんのじにな まあながいこと な くらしとる というか ほれ あれや あれ ....
満月の空
循環、円を歩きます
振り返れば影がゆがむので
進むことを
渡されています
街道の名前は不明
集まる人達は群れ
大きな坂道と階段
鐘の音が、ひとつ
進んでみる、今日に ....
どうしたんだろう
今夜はひとりがさびしい
よくわからないけど
鍋焼きうどんでも作ってみようかな
彼とは別れちゃったし
次の合コンは新年明けてから
友達は彼と一緒みたい
やっぱりうらやまし ....
物を収集するという行為は
生存競争という過酷な環境に無い者にこそ許される
嗜好性の強さはその個体の死を意味すると言っても過言ではないだろう
生きていくためには他にすべきことが山ほどあるのだか ....
君が夕食の支度をしている間
僕は前衛を守る
前の打者が歩かされ
憤怒した僕が強烈なシュートを
右から三つ目に叩き込むと
僅かばかりの利息が通帳に加算される
ご飯よお
僕のいなくな ....
庭の木にセミの抜け殻があった
手にとって握りつぶすと
ぬちゃ
それはセミの抜け殻ではなく
抜け殻のようなセミ
もて余した僕はこっそり
ぬか床に隠してしまった
夕食の時
今日のぬ ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45