輪郭だけをのこしたまま
あのひとがいなくなってしまったので
いつまでもわたしは
ひとりと半分のからだで過ごしている
明かりの消えた部屋で ひとり
アルコールランプに、火を点ける
ゆ ....
兄はケッコンしてつまらなくなった
と
私は思う
別段
破天荒な人生などではなく
公務員の次くらいにお堅いお仕事
今ドキの中学生に現代文やバスケットなどを
教えているらし ....
でっかいハーンバーガみたいな名前のそいつは
遡ることを僕らにはさせずに今モなおつづいていて
とどまることをやさしくみまもりながらも
波の狭間のよう ....
九月三日、僕は死んだ
メキシコのティファナで
黄色い風は心をすかし
物売りの少年は
人生を今だと言う
二月十日、僕は死んだ
ポルトガル領マカオで
外国の顔 ....
しあわせは
すりぬける風
ひとときのやすらぎ
明日のことは
わからない
しあわせは
すくいあげた水
たやすくこぼれるけれど
歩けるぶんだけ
あればいい
....
その岩は岩でしかない。
だからただ、そこに居る。
雨が降り、風が吹き、雪が積もり、雷が落ちても、
その岩は岩でしかない。
ただそこに居続ける。ちっぽけなふやけた岩だ ....
出会いがしらに、
さようならっていい言葉やね
とあなたは云った
空は低く銀杏の木だけが一本高く見える
出会いがしらにいってくれて助けられた気がして
知り合いへの手紙を破った、日
何を忘れたかったのだろう
街に一つしかない小さな駅で
男は窓の外に向かって手を振った
無人のホームでは鉢植えに植えられた
カモミールの花がゆれるばかり
やがて男を乗せた列車が発車すると
駅 ....
埠頭に
群れなす
カモメはすべて
哀しい心のなれの果て
船は今日も出てゆくのだ
海は広いというのに
のぞきこめない
瞳の深さをもって
船は今日も出てゆくのだ
....
かけおりた坂道のおわりには
ボーダー柄の、夏が
波のような顔をして
手をふっていた
それから、 と言ったあとの
あのひとの声が
ノイズにのまれて、ちらちらと
散ってしまったので
....
うちのテレビは壊れているのだ。きっとそうだ。そうでなければ毎日こんなに人の死ぬところばかり映るはずがない。たとえば今朝のニュース。黄色く乾いた土の上に八人の男が正座させられていた。その後ろには黒づく ....
バスルームの飾り棚に
置き去りにされていた
JAZZの香
蓋を開けた刹那に
よみがえる記憶
ああそれは
一年も前のことで
そういえば私は
まだ泣いてもいなかった
夏を告げる鐘が鳴ると
少年たちの中で 天国が走り出す
3歳の{ルビ姪=めい}が
遠視矯正めがねを初めてかけて
鏡に映る見慣れない顔とにらめっこ
「似合うよ」
後ろから見守るママが言うと
にっ と{ルビ微笑=ほほえ}む君の目は
人よりも ....
夏休み
街から人はいなくなった
窓という窓
木陰という木陰
ベンチというベンチ
そのいたるところから
少しの匂いと
体温を残して
静寂、というには
まだわずかばかりの音 ....
久しぶりに家に帰ったら
家が他人行儀な素振りを見せた。
玄関の扉は
「いらっしゃい」
と、言い掛けて
「おかえりなさい」
と言い、
ベッドは
「ごゆっくり」
と ....
父と別々の家に住むようになってから
ときどきは会いに行こうと決めていた
小さい頃から
一緒に暮らした記憶などなくて
なのに父は
僕との思い出話を聞かせようとする
うんうんと
僕が ....
土曜の夜も日曜の朝も眠り続けていたい
ああ
屠殺場の温もりが懐かしい
そうだ
夜なのだ!
おれは急いで貧弱な骨格を羽織り
生暖かい闇の中へ陥ちてゆく
色情狂のフォルムをまとった女どもが
....
久しぶりに実家に戻ると
父はまた少し小さくなっていた
質量保存の法則というものを
信じるのであれば
生真面目に生きることを止めようとしない父は
きっと
何処かで
何かを
与 ....
老人ホームの送迎車から
半身{ルビ麻痺=まひ}で細身の体を
僕に支えられて降りたお婆ちゃんは
動く片手で手押し車のとってを握る
傍らに立つ僕は
宙ぶらりんの麻痺した腕と脇の間に ....
毛むくじゃらの家猫が出かけて行ったきり
帰って来ないものだから
庭の木で啼くスズメの声が
遠慮なく鳴る目覚まし時計で
最近は、誰よりも早く窓を開けて
新しい風を味わう
あめ色の古机の上 ....
どうしようもないくらいの
空の返還が
わたしに帰ってきた
わたしの唇は青いことでいっぱいになる
空に着歴がある
それは長い長い数列
雲は遠くの蒸気と会話したりするけど
やがて話が尽き ....
「いらっしゃいませ、ありがとうございます。
商品5点で、お会計は1265円となります。」
僕はコンビニスター
誰にも負けないコンビニスター
真っ昼間の盗賊団コンビニスター
誰もが僕を必要 ....
寂しくなんかなかった
独りでいいって思ってた
冷たい海を泳ぎきる
それはとても辛くて
本当は誰かの温もり探してた
僕には出来ない
こんな姿じゃ誰にも
振り向いてなどもらえない
汚れ ....
そして何事も無かったように
日常は流れて行き
そこに何事も無かったように
あなたは立っていて
拍子抜けのふたりの間に
静寂だけが そっと
....
目じりの皺や
口もとの皺は
あなたがこれまでの人生で
よく笑い
表情豊かに生きてきたアカシだから
恥ずかしがることなんかなく
堂々としていればいいと思う
眉間の縦皺は
いつもしかめ ....
うつむくこころ
君の吐いたため息は
この山の斜面を
なめらかに降り
湖に細波を起し
田園の稲穂をかすめ
電線を揺らし
ビルの谷をすり抜け
橋の下をくぐり
小さく開けられた窓に
....
1日に電車は数本しか来ません
でも、夕日を見るために若い方々がいっぱい来ます
そしていろんなドラマが生まれました
ステキなことだと思いませんか?
友よ、お前の胸は張り裂けそうか?
生きている事を日々実感しているか?
火薬は足りているか?
導火線は乾いているか?
起爆剤はあるのか?
欲望は有り余っているか?
友よ、お前の心の爆発はまだ ....
殺傷能力を高めるために
釘のようなものを入れました
ことばを
ことばもいつも同じなのです
爆発するか
しないかの違い
世界に投げ入れる
膝を抱えて
....
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