濡れた藪の陰には
ヤスコちゃんがもう膝を抱えている
色の変わった大きな樽の中は
トシユキの指定席だ
横木の折れた狭い入り口に
クモの巣は長くぶら下がって
すでにだれかが小さな手足の跡を
 ....
ゆく道の車の窓に
雲を光らせ 幟旗を押し立てて
見知らぬ男たちが手を振る
起きぬけの笑顔で

すぼめて垂らした傘の先を
水たまりに映して
参議院選挙の投票に行く

昨日死んだ紺の背広 ....
ぼくは
暴力をふるってみよう と思う
だれにも許可を
求めないで
机の脚を
蹴ってみる
いい?
なんて聞かないで

のどのバイパスを
汗が下っていく
ときおり雲が
道を外れて光 ....
五月の橋の上で
生まれ変わったら
何になりたいと聞かれた

ねことか
とりとか

雨の日の林の中の
きのこ
なんてどうかなあ
ぷつぷつとうたうたう
春の腐植の土たち
立ち上がろ ....
かび臭い二月に始まる
情けない恋のうたをサチコに

ぼくはある日
茶色い少女に恋をする 髪も制服も靴下も
少女は教室で教科書をカバンに詰め
僕は黒板のようにそれを見ていた

せっかくの ....
頭の薄くなった友人が
車の後部座席に老いた母親を乗せて
交差点を右折していった
すれ違う僕の車に気づかずに
ひさしぶりの幸せな笑みを口元に浮かべて
わからないことを後ろの席に語りかけて
そ ....
レストランの扉をあけてこんにちは
それから背伸びするぼくらの周りで
絵のように時間は流れていった
高い窓を 雲の尾を引いて
空がうす青く光りながら流れていった

テーブルの上に焦げのついた ....
人は少しずつ変わる

まずぼくに
最初の紅茶がやってくる
砂糖の少ない紅茶が
ぼくはしばらく
砂糖の少ない紅茶をすする

それからゆっくりと
考える
だれがどんなふうに
変わった ....
さあ でかけようぜ 狩りに
黒鉛のナイフを左手に
舌先の罠を仕掛けに
いつもの通い路は未だ暗いが
彼方で獲物の
かなしい誘惑の声が響く

さあ でかけようぜ 狩りに
えさは厳冬の風に晒 ....
道は急速に右へとカーブし
街灯が
粉雪に色を試しているそのあたりで
ぼくは黒い髪の女の子に
恋をした

彼女は腕を垂らして
かばんを提げていた
髪をかきあげて
左目 右目と順々に
 ....
ぼくはずっと眠っていた
家並みの混んだ路地の奥
細い電線が空に絡まる保育園の
二階のしわくちゃな布団の上で まんまるに

ぼくの夢の上を白茶けた紙飛行機と
たくさんの紙の砲弾が行き来した
 ....
堅く編まれたお下げの編み目
その幾条の行方を見澄ます幼いぼくの肩越しに
さびしいぼくをくすりと笑う
ぼくと誰某と

そうか
こんなにもはやく陽は動いて
窓の下に深い沼をつくっていくんだ
 ....
積もった雪をまたいで店に入ると
中くらいの幸せに乗っかった人たちが いっぱい
箸の先にお漬物ぶら下げて
あんまり忙しそうじゃないな

中島があんな歌を歌うもんだから
牛丼屋は
少し不幸な ....
拝啓 リョウタロウ君
ぼくは君の立つ位置を知らない
君の電話番号も 住所も 風向きも
君は 積もった雪をかきながら
眼下に広がる田園に額の汗を拭い
そしてゆっくりと
倒れていったという
 ....
オレンジの灯りが点々とする
雪の祭りの
ぼくらの町

狭い歩道を歩く 婆三人
灰色のほおっかむりで
ひそひそと
植え込みの陰に
みかんの皮を押し込む
ぼくらの町

町から背の高い ....
あごに手を触れると
地図のようにひげが生えていた
道に迷いそうだったので
ふとんから抜け出した

トイレのドアがパタリと閉じた
目を上げるとまた
パタリと閉じた
天井に三日月が掛かって ....
霜月の末
義母が逝きました
筋肉が次第に衰えていく病で
手足も口も思うにまかせないままの死でした
目だけがよく動いて
さびしさとうれしさを伝えていましたが

妻は静かに泣きました
義妹 ....
曲がったネクタイを直して
身だしなみをきちんとして
それから 二人で
青空を見に行った

白いけむりが立ったので
裏の丘へと登っていった
あなたの腕のような
楓の木々のあちこちに
朝 ....
玄関の戸がふうっと開いて
そのままなので
誰かが閉めに行く

みんな たくさん泣いたけれど
泣き足りないと思って

二階の
薄い空箱の
暗がりから
なんとなく降りてきてしまう
妙 ....
ひしゃげたわらの一筋に
薄い雲から来る太陽光の残滓と
飛び交う電子の温度がこもっていた
温かい立体だった

わたしは妹の手に
秋の暮れ方の軽さを載せた
それが十年の
記憶だった

 ....
せまい心の
それでも空いたわずかのすきまに
時計の音がいらだちを埋めていく
あわないパズルのピースのように
(ときおりあるのだ 幻のように
 水面をすべるはずの風の束が
 少し手前で
  ....
「にいちゃん、まって!」
 青い公園と名づけた近所の小さな公園から、兄が走り去る。
「おおい。」
「にいちゃん!」
呼ぶ声は聞こえているはずだが、兄は走る。腕を振ってどんどん走る。あっという間 ....
「ただいまァ。」
 八月。
 庭の潅木が、白い地面に真っ黒な影をいくつも落としています。
 暑い盛りです。
 四月から通い始めた保育園から帰った娘は、日焼けの顔で畳に膝を落とし、さっそくブロッ ....
銀のアルマイトのおべんとに
ちょっと焦げたハチミツ入りの卵焼きと
ちょっと焦げたウインナと
焦げてないきゅうりのお漬物とバナナをつめて

ピクニック

ようちゃん
自慢できるものはある ....
車のドアを開けて
アスファルトに降り立ち
ゆっくりと
夕焼けを踏む

夕焼けについて書こうと思う
古びて傾いた夕焼けについて
それは人通りのなくなった街道の
傍らに立つ廃屋の壁に
擦 ....
花垣線に乗った。
駅長さんを呼んでみたが、
もうずいぶん前から、この駅は無人だった。

乗り換えの駅に到着した。
次の電車が来ないので、
改札を通って、待合室で待った。

強風のため、 ....
欄干のすぐそばでゆれていた緑の長い葉を
頭上でちぎって歩くと
いつの間にか橋は終わっていて
下り始めるその道のはじめに
モリヤ商店はたっていました

コーラを買ったり
買わない店の奥の暗 ....
東の山でテロルがあった
火のないところに煙がたった
晩秋の寒さの中ですぐに鎮火したが
不審火は続く
人気のないところからも自然発火する

空は雲を重ねて黒く笑った
風は目を光らせて時を伺 ....
七月の階段を登ってホームに出ると
七月の風にはじかれる木蓮の花
のぞき込む 流れない水
そして少女が手を振る
まるく
何ものをも拒まぬ速さで

おはよう
こないだ タケダからメール来て ....
汚れたうさぎ色の空から
アスパラの雨が降る

雨は次々に根を潜らせ
背中から空へ白いまっすぐな筋を何本も何本も何本も

川の溜まりの鋼の渦に
くるくると浮かび上がるそのひとの「きのう」
 ....
オイタル(209)
タイトル カテゴリ Point 日付
かくれんぼ自由詩6*10/7/18 21:21
参議院選挙へ みんなと行く自由詩9*10/7/11 23:37
ぼくの暴力自由詩1+*10/7/10 21:30
五月の流れる水の上で自由詩9*10/5/27 23:20
恋のうた(サチコに)自由詩4*10/5/3 20:22
春の自由詩7*10/4/26 22:35
さようならの宴自由詩3*10/4/1 0:12
人は少しずつ変わる(中山さん)自由詩2*10/3/22 22:10
さあ でかけようぜ 狩りに自由詩4*10/3/19 20:16
道は急速に右へとカーブし自由詩3*10/3/19 0:08
ぼくは眠っていた自由詩10*10/2/20 18:13
堅く編まれたお下げの編み目自由詩3*10/2/14 0:03
中島の牛丼屋自由詩2*10/1/23 0:49
リョウタロウ自由詩1*10/1/16 0:41
ぼくらの町自由詩4*10/1/1 14:58
冬の日自由詩3*09/12/30 7:24
霜月の末自由詩5*09/12/14 0:01
白いけむりが立ったので自由詩4*09/12/12 13:19
閉めに行く自由詩2*09/12/12 0:12
わらの秋自由詩3*09/11/8 18:50
せまい心自由詩2*09/11/1 0:33
地面かみなり散文(批評 ...3*09/10/11 22:05
夕暮れ散文(批評 ...3*09/10/3 7:33
ピクニック自由詩4*09/9/21 9:16
夕焼けについて自由詩12*09/9/19 21:10
小説『花垣線』自由詩5*09/8/23 8:54
きつねの辻自由詩5*09/8/21 21:22
小説『石川少女』自由詩4*09/7/20 6:20
七月の階段を登って自由詩7*09/7/18 21:59
汚れたうさぎ色の自由詩8*09/7/6 23:06

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