五月の流れる水の上で
オイタル

五月の橋の上で
生まれ変わったら
何になりたいと聞かれた

ねことか
とりとか

雨の日の林の中の
きのこ
なんてどうかなあ
ぷつぷつとうたうたう
春の腐植の土たち
立ち上がろうとする
暁の獣の足跡たち
見上げると小さく
空に枝々
その一本のことさら薄暗いやつの先から
雨粒がゆっくり迫ってくる
それまでの間に
黄色い襟足を細々掃除して
おとといの夢の人を思いめぐらして
それからくしゃみをすばやくひとつ
そして頭上に
雨粒が冠をつくってはじける

開いた夏の窓
なんてどうだろう
閉じた窓がネズミの生まれ変わりで
(ぼくが踏みつぶした 例の)
開閉のたびに
ぼくとネズミが入れ替わる
ぼくは気付かれない 不在の形
だれもがぼくのことを忘れている
晴れた朝
ぼくを
風が通り
カナブンが通り(ネズミが騒ぐ)
昨夜の泣き顔を落とした娘の
切りそろえた髪がハープのように鳴らされて
やがての夜に
僕が消え 窓が現れる
ネズミの窓が


夕空を切る蝙蝠の軌跡
一瞬のぼく
どうかな

そして 冬が来て
ぼくは還っていく
ねことか
とりとか
もう一度の
未生の海とかへと

五月の流れる水の上で
生まれ変わったら
何になりたいと聞かれた


自由詩 五月の流れる水の上で Copyright オイタル 2010-05-27 23:20:06
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