あなたがたは暗い石垣の向こうを
ひらりと過ぎておいでです
木の枝に白く影をつけて
煙(けぶ)の立たない煙草を
銜えたみたいです

あとは夜がお出迎え
お出迎えです
火の差す夜
風巻く ....
遠い友達が
泉に雪が降ったら教えてください
というので教えてやることにした
だが雪は降らないよ
当分
降っても泉には
積もらない
たぶん

間近に迫る山の頂が
雪を冠った
晴れた ....
空を何かに例えなさい
薄いノートに綴りなさい
たとえばひどく年老いて
頼りない犬のような

寂れた町のおじさんの
何もない後ろ姿のような


 空がゴロゴロなっている
 雪迎えの ....
青い鳥 幸せの
とはいえそれは
細い翼のその先の
先の先まで青いとは限らない
けど青い鳥

 刈り上げられた田んぼの畦を
 歩いてくるのがカツオさん
 古びて背の高い人で 猫背で
  ....
信号を抜けると駅が小さな口を開け
その口の中にざぶざぶと雨が流れる
その口の中をしきりと鴉が覗き込み
鴉が入っては抜け 入っては抜けして
鋭利な風が立つ

風の中
おんなが頭を垂れて
 ....
軽快に車を飛ばしていくぜ
おれの得意の安全運転
丸い並木が手を降って転がってくぜ
湿度の高い暑さの中だ
おれの膝も言うこと聞かなくなって
(膝だって年寄りの繰り言なんざァ
 聞きたかないだ ....
七月の畑の
ナスの丸い実を
左手に切り落とす
紫の針が
指先を削ぐ

右足の爪先に
陽を丸く落とす
立ち上がり 雲に翳り
鳥の翼が素早くめくられる

私達の早朝の証である
縛ら ....
立て続けに何杯も
水を飲んだ 若い頃は
いつも
だがもう
そうはいかない
コーヒーを入れる時間が わたしの
呼吸の長さである
いつもの あなたのように
コーヒーメーカーは たどたどしく ....
町に出る
屋根の赤い銀の車で
赤子が泣く
屋根の黒い黄色い車に

 ごま塩頭が足を組んで
 ウインドウから通りを振り返る

汚れた風が初夏を吹きわたる
新しい靴を買おうか
まだかか ....
さようなら あなた
私たちの住む家は
もうまもなく淡い春の陽に消えて
光る水面の陰にあの佇まいだけを残してしまうのです

さようなら あなた
胸が絞られるようでした あなたを見つめて
狭 ....
薄くにじむ曇天に
陽は破れ
私たちは歩く
口の尖った犬を抱えて

濃い実の残る柿の梢に
風をぶら下げて
風の飛び去る松の林に
大きな瞳を棲まわせて

薄くにじむ曇天に
陽は動かな ....
生き返ろう
しばらくぶりの きょうだから

せぼねをゆかから
少し離して
元気 ということを
そらせた腰のちょっとへこんだあたりに
滑らせて

生き返ろう さあ
きょうだから
ま ....
ちょっと難しいことを

百人の私達の中に
セイウチの数を数えよう

セイウチは足が早くて
あっという間に廃れてしまう
ので

そんな
セイウチの仲間に おのれを数えよう
おのれを ....
空がまだらに光っている
飛び去った雨の記憶が
まだ薄っすらとかかっている
まだらにかかっている

空に穴を開ける
輪郭の正しい きれな穴を
縁が黒くナイーブに切り落とされて
小さな丸い ....
広場で
手紙を書いていた
小さく
手紙を書いていた
ベガの赤い電熱球の震える隅で
コバヤシくんが大きく伸びをして
顔を寄せて
それはラブレターかな
と言った
ペン先の硬い文字で 少し ....
もしもしぼくだよ
おばあちゃんげんき
ぼくのこのこえ
おばあちゃん わかる

ぼくはおかねがほしいんだ
きのうみつけた まあるいおかし
じゅうえんだまが
たりないんだ

ほんとにぼ ....
僕たちの友情はいつまでも
変わらない 乾き物なので
宅配に託しました
三百キロ離れた 友人の住むところへ

僕たちの友情は
花に胸をちぎられて歩きました
高い雲の下を
電線がゆるく垂れ ....
二重に急落する坂を
ブレーキを絞りながら降りて
ようやく
斜度も緩んで気も緩んで
幅広の川の光が射し 鳥の声が差し
剛健なる自転車は
ただならぬ志操にて縁石にまぐわい
すっ飛ぶ地面と夏に ....
初夏
夕暮れの玄関先で
ぼくは妻と出会った
妻は僕に笑いかけ
菓子パンをひとつまみ
ちぎってくれた
そして
ひどい人のことを思い出して
また笑った

梅の木の根の周りの
浅い草む ....
夕焼けが
ずいぶん遠い
空から少しずつ
はがれている

ジャングルジムの端にのっかって
かくも心弱く生まれついた
わが身の不運を嘆いている

いじわるのよしきくん
ぼくの手放しの抗 ....
その鍋に火を入れよ
その朝を始めよ

倦怠は凛凛と暁の空を巡り
焦燥は烈々と白髪を靡かせる
緩い歯茎は寒冷なる蒼天の下
せわしくその切れ端を鳴らし
火を抱える膝頭は既に下る階段を
斜め ....
また一枚
ふるさとから剥がれ
影のように
うっすら電車に乗る

私たちから
離れて行って
やがて
立ち止まる

立ち止まる
点々とする縁石の上で
淡い硝子戸の
上がり口の前で ....


のけぞる


雪 降りまして
全天 ががが
震えます
ががが

滑らかに
雪 行くときの
滑りゆく雪
卑屈な川

雪 舞い
目頭が
あ ききき
痛む

 ....
わたしが眠れないとき
眠れないことを
わたしは
よく噛んでいる

わたしが眠れないとき
曲がった中指の先の届く距離に
耳の史蹟を
置く

わたしが眠れないとき
花花が群青色の香り ....
穴を掘る
私たちは穴を掘る
深く
硬い地面に埋もれた
季節の輪郭をなぞるように

穴を掘る
私たちは穴を掘る
さらに深く
地中を飛ぶ鳥たちの
淡い心臓に届くように

手紙を拾う ....
庭の柴木の陰に
たくさんの夜がこぼれていた

薄い産毛の生えたまだ若い夜から
硬く曲がった血と血の夜から
とりどりの夜が
折れて重なる か細い枝の隙間に
埋まっていた

空の低いとこ ....
雪の無人駅
雪を掃く係りのものが雪を掃く
何でもないコンクリートの踏み板の上を掃くものがある
待合室の歌謡ショーのポスターからさびしさのしたたり
掃き残した埃と雪の混じった少し硬いものをさらに ....
雨降りの停車場を訪ねる
あなたを
鈍く光る雨降りの停車場

仰向けの自転車
あなたの指先の雨だれ
写真のように話しかけてください
雨降りの停車場
の人影

遠くから遠くを
ポケッ ....
僕は立とうとする
三十年前の川べりに
もう一度 何者かに
出会うために

何者かになろうとする
男とか 女に
正義とか 悲劇に
ということに

中年とか 公務員とか
右寄りの左翼 ....
私たちは望んだ
林檎の木のやせた小さな実を
うなだれて実をこぼす廃れた窓辺を
細い水のはねる汚れた低い蛇口を

あの庭から私たちは始まった
私たちは紫の実をつける香りのよい果物を欲しがった ....
オイタル(209)
タイトル カテゴリ Point 日付
あなたがたは自由詩319/1/6 21:22
遠い友達が自由詩5*18/12/22 21:53
空を何かに自由詩518/12/22 21:26
青い鳥自由詩318/11/18 21:39
雨の町自由詩318/9/24 13:36
ドライブ自由詩218/7/26 22:22
七月の畑自由詩618/7/15 21:31
コーヒー自由詩418/6/9 14:43
初夏自由詩318/5/2 5:47
溶けていくもの自由詩518/1/21 19:53
冬の散歩道自由詩14*18/1/1 0:17
生き返ろう自由詩5*17/12/2 20:20
むずか自由詩517/12/2 20:04
雨上がりの玄関に腰をおろして空を見ている自由詩7+17/9/23 14:24
広場で手紙を自由詩517/8/26 19:15
ぼくはいろいろ自由詩017/8/14 21:20
僕達の友情自由詩417/7/29 19:59
すっとび自由詩317/7/26 20:30
初夏自由詩317/6/24 7:04
わが身の不運 うふふ自由詩217/6/17 21:48
その鍋に自由詩317/5/14 12:55
ふるさと自由詩517/2/10 20:29
自由詩617/2/3 23:02
わたしが眠れないとき自由詩1317/1/28 21:04
穴を掘る自由詩6*17/1/7 15:39
庭の柴木の陰に自由詩11*16/12/29 16:44
雪の無人駅自由詩13*16/12/11 17:20
雨降りの停車場自由詩416/11/23 21:13
再発自由詩216/10/30 10:11
自由詩516/9/26 6:49

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