明方の台所で
豆腐がひとり
脱皮をしていた
家の者を起こさなように
静かに皮を脱いでいた
すべてを終えると
皮を丁寧に畳み
生ごみのところに捨て
冷蔵庫に入った
....
さみだれは
あっという間に
食いつくされてしまった
季節の名のつくものは
だいたいひとがむらがって
食いつくしてしまった
けれども
初夏
涼しくわらう目元に
わずかに残さ ....
朝にそれは
にぶく光り
夜になると
横たわり眠る
昼まに
のぞいてみたときには
四年まえのわたしを
しずかに抱いて
泣いていた
あなたが息を吐くだけで
心は水びたしになった
そのまま寝そべると
目頭からあふれだし
それをみたあなたが
波のように笑った
愛しさをこじらせた朝
うらぎるように街は香り
なにも
知らないようなふりを
続けるほかになかった
押しだまる人びとのかげに
花水木がしらじらと開いている
二死満塁のピンチだった
ぼくが第一球を投げると
キャッチャーは既に不在だった
家を継ぐために
故郷に帰ったのだ
走者はホームに生還した
その間にバッターは
甲状腺の病気が ....
ふせて
あきらめて
大事なことなどないと
みとめて
そして
とくに大事でも
必要でもないものとして
抱いて
胸のあたりに
なつかしいうたが溜まってしまい
病院へいったが
ておくれだった
それ以来
胸のあたりに
うたを一匹
飼っている
会社をたたむと決心して以来
もののたたみ方に注意するようになった
これまで自分でたたまなかった布団を
たたんでみたりするようになった
いつもはそこら辺に放り投げている
パンツや靴下もたた ....
まちは固すぎるので
気をぬくとぶつかって死ぬ
あらゆるものが
手に入れやすくなり
あふれ出すようになると
昨日がどんどん遠ざかり死ぬ
やさしさが
一山いくらの値札をつけて
....
わたしたちはFEEDされている。
生きるには時間が経ちすぎている、
絶望は希望よりもすこしだけ早く感染する、
いるといないの合間を貪る猫。
不自由で浴びる、
嘘を吐くときは好きではないが ....
女の子は
愛で太るから
かわいいあなたを食べきって
次の季節に出かけるの
あらしの夜は
あついお湯と
指を五本ずつもちよって
がたがた言うガラスにまもられながら
解体した
そとは
だんだんしずかになって
わたしたちも
きちんとばらばらになる
....
犬の耳を触る
どこか遠くで
冷たい信号機と
同じ匂いがしていて
生きていくことが
懐かしく思えた
今日、初めて
歌を作った
雲の下に捨てれた
鍵盤のないピアノに
腰掛け ....
ししゃが
ながれていく
ゆきしろの
かわをくろく
にごらせて
ゆきという
しろいかたちを
うしなって
しかくい箱のなかに
丸と三角を
ひとつずついれる
それをどうするんだい
と聞くと
どうもしないの
と答える
どうもしないの
と
答えて
かなしそうにしている
ペン先を離したそばから
剥がれて散りぢりになる文字
左手でつかめたのなら
どんなにかいいだろか
だけれど左手は
体を支えるのに精一杯で
ペン先をつけたそばから
吸いついていく文字
....
風呂の中でよんだ
詩集がすべてを語ってしまったので
今日の私を
ごしごし洗い流しました
もういらない
風呂まで汚れてる
気がした 分身で
水がうまれ
水になったように
....
今年も兄からお中元が届いた
かわいそうな兄
控除の申請をしている間に
モールス信号の打ち方を
すっかり忘れてしまった
昨年いただいた
魚介を模した玩具に躓いて
午後は三時五十 ....
学校から帰ると
テーブルにロールケーキが
ふたつ並んでいて
チョコレートとバナナクリームの
2種類があって
わたしは弟に先に選ばせた
今日みた夢の中の
同じ風景は
すこしだけ大人になっ ....
春を追いこして夏のような
日射しを避けて
市内の茶屋で
みたらし団子を食べながら
足下の干涸らびた蛙に
水をもらってかけてやると
おどろいてちょっと跳ね
またノシノシと戻ってきた
残り ....
夜になり
気温が下がると
子供たちの咳は
ひどくなった
地上から浸潤してくる氷水を
順番に舐めに行った
毛布が欲しかった
ただ死なない
それだけの私たちを
地下に閉じ込めて
外から ....
散文
一
ゆうらりと逢魔が時に立ち上がる
女は錯乱気味に
「ジユウ、ジユウ」
と叫んでいる
そのくせ尻をどっかり座らせ
介護されるのを待っている
二
....
昨日レンゲの花を踏みました
レンゲはわたしの足の下で
花びらを押し花みたいに広げて
首のところをぽきんと折って散りました
わたしは裸足でした
足の裏でレンゲの蓄えた冷たい水分がしゅんと染みて ....
夜は雨
どこからか雨
水を弾くタイヤの音
通りの向う
どこかで屋根を落ちる滴
私はここにいて
眠る人のことを思う
生き満たされぬ人を思う
又ここにいて
眠れぬ人のことを思う
燃 ....
はずかしいことや
はしたないことを
たくさんしてきて
じゃあ今からなにか新しいことを
と
思ったときに
なんだかひどく
疲れてしまったなと
思った
スカトロジーは愛と同義だ
....
バルセロナで象を拾う
春が来ると
いつも何かを諦める
諦めたくない何かのために
火薬庫の前で
遅いランチをとった
水道を行く黒船を見て
覚えたてのように笑う
言うべきことは
みんな言ってしまった
あげるものも
みんなあげてしまった
ま上では
曇天が
甘ったるく
張りさけている
見あげても
見さげても
灰色がつづく
自転車のか細いペダルが
今日は博物館の
涼しい庭にまで届く
始まったばかりの夕暮れの中
まぶたの絵を描き終えて
少年は柔らかな繊維になる
新聞を旅して
自分に出会う
出られない領域は
私の住まい
悲しみ
前向き
ドラマはあって
私の今をまた照らす
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40