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その広い丘にはドアがあって
朽ちかけたドアだけが、ひとつ、あって
その横で佇んでいる、家族だった影が
心を裏返すほどにゆるしたかったものは
自分たちだけ
だった
ドアを開けると道が広 ....
「宝くじ当たったんでここ辞めます」
山下がそう言った時
またいつものような嘘だと思った
だけど本当に次の日から
山下は工場に来なくなった
電話にも出なくなった
「彼女が出来ました」も
....
朝起きると僕の部屋に二匹の天使がいた
二匹はとても仲がよさそうで
僕はしばらくの間微笑ましい二匹の様子を眺めていた
何分か経って
二匹は急に交尾を始めた
天使は声を押し殺していたので
....
だだっ広い公園で
私は男の笑顔に手を突っ込む
零れるほどの濃度の渦が
ゆらり くらり
と囁き合う
紙風船が空高く飛ぶ
くしゃり くわり
私の手は一瞬の間で
木々をすり抜け
プ ....
買わなければいけないものがあるのに
あなたはまた、あなたに似たものを買ってしまう
部屋はあなたに似たもので満たされていく
あなたに似たもののほとんどはいらないものなので
あなたに似たものがなく ....
水平線に帽子を被せている人を見た
世界と対等に向き合うということは
それほど
難しいことではないのかもしれない
子供たちに蹴飛ばされた波が
海の向こうで
砂浜に描かれた絵を消している
....
プライドが絡み付いて
助けてと上手く言えない
しかし、それでいいとも思う
(いつからか)
腐らない程度に
適える気もない夢を抱いている
笑えない程度に
打ち明ける気もない痛みを抱いて ....
お父さんが紙をつくってる
つくった紙を僕が並べていく
それがお父さんの廊下
なんだか淋しいところだね、と言うと
お父さんは土を持ってくる
足りないので
何回かに分けて持ってくる
だからお ....
沙漠から取り寄せた砂を
僕たちは浴槽に撒く
言葉に塗布された意味を
一つずつ丁寧に
酷くゆっくりと落としながら
シャボン玉を
空間を埋めるために飛ばす
乾いた砂に埋もれた言葉を
....
「遠くまで来てしまった」
そういう感覚は
地方都市への出張で立ち寄ったコンビニで
訛りの強いレジ係と短いやり取りを交わす瞬間でもなく
海外の小さな空港のロビーで
トランジットの待 ....
たとえばだれかのこうふくが
だれかのふこうのうえにあるとしたら
それはとてもかなしいことかもしれません
そのかなしみもまた
だれかのよろこびのかてになっていて
だとしたらとてもふくざ ....
僕の妹は背丈が大きい割りに
顔が幼いのを気にしていた
僕はそれでも十分だよと言っていたけど
妹はどうしても納得いかなかった
二人で町を歩いていると
きれいな女の人が歩いてきた ....
夕暮れ色の飛行船、
たくさん空に浮かんでいたけれど
空と一緒の色だったので
誰にも気付かれないままでした。
*
毎朝、起きたらすぐに顔を洗います。
....
ちょうど欲しい色を切らしていたから
椅子に腰掛けて本を読んでいる彼に相談した
あいにく僕もその色を持っていない
二人で一緒に探しにいこうか
そう言って近所の公園へ出かけた
私た ....
ぽとん、と落ちたテーブル
悲しみに溢れたテーブル
俺と泣いていたテーブル
どこまでも落ちていくテーブル
テーブル
そのテーブルの上には
ゴミみたいな希望しか
並んでいないよ
テーブル
....
今日は夕焼け空だった
だけど今日は相変わらずどこへも入り込めなかったので
迷っているうちに一日が閉じた
そして空欄の日記が増える
今日も何もない一日だった
なあ、嘲うなよ電気
そりゃ確 ....
僕の部屋の窓から焼却炉が見える
団地住宅に併設された
小さな灰色の炉は
押しつぶされたたまねぎみたいに見える
僕の部屋の窓には
すこし不恰好な焼却炉がいる
ひび割れそうにか ....
なぜそこに居るのか分からなかった
気が合う仲間たちから離れて
早く一人になりたかった
そう思えば思うほど
一人になることが怖かった
通いなれた八王子の雀荘に
喪服姿の若者が四人
「最 ....
日曜の朝の公園にて
一人で三角ベースをやってみた
透明ピッチャーが投げた透明ボールを
透明打席に立つ僕が
透明バットで打ち返す
透明打球は透明セカンドの頭を越して
外野に点々と転が ....
静かに窓を閉じる
終わってしまった映画の後で
部屋の明かりを静かに閉じると
空間が水の中に満ちたようになる
溺れてしまうと、答えは出るだろうか
息継ぎをすれば、漏れてしまうだろうか
....
ポイントは、スロウ
誰かが間違ったとか、テレビが吐き出しているけれど
それが本当かどうかなんて誰にも、分からなくて
無駄なものを省いてきた、そんなつもりの生き方だけれど
結局何も捨て切れて ....
それはもう私の中で始まっていますか
とか、君は問いかけて
僕は聞いてない振りをしながら
大きく頷いたりする
海へ突き出した街へ向かう電車は
青い車体に、菜の花が描かれていたりして
最近 ....
少し離れた
海のようなところを
目覚まし時計がひとつ
泳いで行きます
古い色のバス停で
返却期限の過ぎた図書を
二冊抱えたまま見送る
息継ぎだけが
わたしの動作でした
赤い夕日が広がって
誰かの背中が燃えている
ゆっくりとオレンジ
急ぎ人が赤々と
今日の日よ さようなら
夕食の炎と共に
醜い私達 燃えてしまえ
赤い夕日が広がって
誰か ....
隣に座った旅人に
何処に行くのですかと聞いたらば
にこりと笑みを返された
なんだかそれがとても
尊い物のような気がして
私もご一緒していいですかと
たずねた
旅人は笑って首を振っ ....
どこかへ軽々しく飛んでいくから
スパゲティの紐を結んでおく
晴れた日には雨が降らない
哀しい夢を見てしまったら
こちらには戻れない
可愛い女の子の歌う歌は哀しい ....
清算されない過去で
腐敗し始めた小指に
果物ナイフを突き立てて
基節骨の深い処に疵を入れる
白旗の揚げ方を知らないから
傷口を舐めた舌は赤く染まり
飼い慣らされて
飛び方も
....
ただの生活の中を
ただの生活だなんて言って
大して感動もせずにフラフラ生きてたら
ときどき前方不注意で
誰かの真摯な想いの背中にどしんとぶつかることがある
いい加減見かねた神様にマジビンタを ....
わたしはわたしを見ていた
夕暮の公園の砂場にわたしを見ていた
わたしはわたしを見ていた
朝焼けの庭先の花壇にわたしを見ていた
わたしはわたしを見ていた
昼下がりの小学校のグラウンドにわたしを ....
野良犬を見かけなくなって寂しいだとか
犬の糞を踏まなくなって嬉しいだとか
駅前の駐輪場はどこも整備されてきて
雪崩れを起こして倒れなくなったなとか
そんなことにふと気付くことがある
数年前の ....
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