隣の旅人
なかがわひろか

隣に座った旅人に
何処に行くのですかと聞いたらば
にこりと笑みを返された

なんだかそれがとても
尊い物のような気がして
私もご一緒していいですかと
たずねた

旅人は笑って首を振った
馬鹿なことを言ったと自分を恥じた

彼は一冊のスケッチブックを取り出し
その一枚に
私の似顔絵をさらりさらりと描き
びりっと破り私にくれた

私はどこか遠いところを見るような顔つきで
彼の絵の中で生きていた

私はできれば彼にその絵を持っていて欲しいと言い
彼は優しく笑ってうなずいた

ごとんごとんと列車の音が
私と彼の体に一緒に振動する
窓の向こうにはまだ寒そうな
海景色が広がって
ああ、きっと彼はこのことを知っていて
だからあんな風に私を描いたのだと
そう思った

ごとんごとん
列車がたどり着く場所で
私たちはきっと別れる
彼は時々その絵を見てくれるだろうか
そして時々私のことを思い出して
列車に共に揺れた日のことを
思い出してくれるだろうか

ごとんごとん
ごとんごとん

ごとんごとん

(「隣の旅人」)


自由詩 隣の旅人 Copyright なかがわひろか 2007-05-08 00:22:48
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